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隣の席の目堂さんは髪の毛に蛇を飼っている ―そして僕はトマトジュースを飲む日傘男子―  作者: ひゐ
第四話 廃墟探索って趣味は興味深いけどデートってどうなの?
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第四話(07) おうちに帰るまでが


 * * *



 少し眠くなってきた頃に、僕達は館を出た。手記以外、それらしいものは、もう見つからなかった。


「そういや、目堂っちって、学校と外じゃなんか結構違うよねぇ」


 ふと井伊が振り返る。髪の毛から蛇を出しかけていた目堂さんは、慌てて髪を整えるフリをして、蛇を引っ込ませた。


「えっ? あ、あら、そうかしら……」

「今日も『ぎゃおっ!』って叫んでたしぃ、あと、かわいいお人形? とかも好きなんだなぁって」


 ……まあ確かに、学校での目堂さんからは、ちょっと想像できない。僕だって、目堂さんの正体を知って、目堂さんの本当の性格を知って、驚いたものだ。


 クールでちょっと怪しい感じがするのもあって、時々人とずれたことを言っても、彼女だからこそ神秘的に思えたけど……本当の目堂さんは無邪気で、変なものが好きで――やや変人かもしれなくて――とにかく普通の、勢いある女の子だ。

 普段は、興奮すると蛇が出てしまうから、大人しくしているだけ。


「それじゃあなぁ~! あっ、警察に見つかるなよぉ!」


 少し歩いて、井伊と別れる。その背に手を振ったけれども、僕は気付く。

 そういえば、井伊の家ってどこだろう。井伊って、兄弟いるのかな? 家族について、聞いたことがない。

 一年以上付き合いがあるのに、意外にも井伊のことを知らなくて、不思議に思う。


「ごめんなさい」


 そう、ぼんやりしてると、弱々しい声が。

 振り返れば、目堂さんが俯いていた。


「手記、落としちゃって。仲間の手掛かりがあったかもしれないのに」


 目堂さんの顔は、髪で隠れてよく見えなかった。蛇が目堂さんの顔を心配そうに覗き込んでいる。

 目堂さんの声はちょっと高くて、震えていた。白い両手を、ぎゅっと握り合わせていた。


「それに……いつも振り回しちゃって……」

「僕は……気にしてないよ。楽しいことも、あるし」


 手記がなくなったのは残念だったし、怪異調査は時々ぎょっとすることに付き合わされることもある。でも思い返せば、楽しいことだってあった。


 ――ただ今回は、狼男が実在していて、でも手掛かりを、目堂さん自身でダメにしてしまった。

 だから目堂さんは、焦っているのだと思う。

 消えたくない、と言っていた、目堂さんの姿を思い出す。

 それから、狼男の手記にあった文も。


『だから私は行く。仲間を求めて、居場所を探して。』

『私が私であるために。』


「ねえ、目堂さん。僕、ちょっと思ってるんだけど」


 僕は、やっぱり、変だと思う。

 僕は目堂さんのことが、まだわからない。

 それは――目堂さん本人も、そうかもしれない。

 ――目堂さんは、仲間をいっぱい見つけたいって、言っていたけれども。


「目堂さんって、本当は――」


 本当は、何を望んでるの?

 本当は、何がしたいの?


 目堂さんは。

 狼男と一緒なのかもしれない。


「――君達! こんな夜中に、何をしてるんだい!」


 でも、僕が最後まで言い切る前に、眩しい光が僕達を照らした。

 懐中電灯を持った男の人がいた――警察官。


 ひゅっ、と僕は息を呑んで、顔を真っ青にさせた。

 補導されたらどうなる?

 ――親に連絡がいく。

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