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隣の席の目堂さんは髪の毛に蛇を飼っている ―そして僕はトマトジュースを飲む日傘男子―  作者: ひゐ
第三話 この状況を楽しむわけにはいかないけど、僕だって子供で男だ
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第三話(08) 夢みたいな時間の終わり


 * * *



 バックヤードを出て、僕はしばらくぼうっとしてしまった。ショッピングモールはさっきと変わらず賑わったままで、でもその音が遠くにあるように思えて、夢の中に立っているような気がした。まるで僕だけ、重なった別の世界にいるみたいで。


「……本物じゃ、なかったね」

「そう……ね」


 夢の中にいるのは、僕だけじゃない。隣にいる目堂さんも、どこか遠くを見つめていた。

 本物だと、思ったのに。


 ――僕は、狐の洞窟での彼女を、思い出してしまった。

 僕はなんてことをしてしまったんだろう。


「ごめん……僕、魔法が本物だと思って……でも、あれ、手品だったんだね。ごめんね、勘違いしちゃって」


 勘違いしなければ、目堂さんを期待させなかったし、今回は下手をすると、普通の人に僕達の正体がばれていたかもしれないのだ。もしばれていたら……。


「気にしてないわ。マジックショー自体は……本当にすごかったし」


 目堂さんの声は、僕も悲しくなるくらいに落ち着いていた。こちらを向いては、くれない。

 でも。


「……あの時キューくん、すごい楽しそうだった。こんな顔するんだぁって、思った」


 不意に向けられたその顔は、笑顔だった。作り笑いなんかじゃなくて、目堂さんは本当に笑っていた。


 そして僕は驚く――あの時、僕はそんなに楽しそうな顔をしていた? 目堂さんがそう言うくらいに。


「あっ! そういえば井伊くん、どこかしら」

「――待って、連絡きてる」


 ショッピングモールの賑わいが戻ってくる。僕達はここにちゃんといた。目堂さんに言われてスマホを取り出せば、井伊からいくつかメッセージが来ていた――『はぐれたみたい~』って。僕達はわざと井伊を置いていったわけだけど。

 いまどこにいるかと送れば、返事はすぐに来た。どうやらフィギュア屋にいるらしい。


「――いやぁ~すごいすごい、よくできてる~!」

「……えっ、何それ」


 向かってみれば、店先に確かに井伊の姿があって、奇妙なフィギュアをしげしげと眺めていた。


「きゃー! これっ、チュパカブラ? しかも等身大?」


 目堂さんの声が響いた。井伊と並んで、その奇妙な生き物をまじまじ眺め出す。


「ちゅ? ちゅかかぶ……」


 僕には何もわからない。


「キューくん、知らないの? かわいいでしょ?」


 目堂さんの趣味もわからない。

 僕としては、その隣にある狼のフィギュアの方が、ずっとかわいくて、かっこよく思えるんだけどな……。


「――あれ、井伊?」


 そんな風にぼんやりしていたら、井伊の姿がなくなっていた。店の奥に行ってしまったのかと探すが、見当たらない。別の店に行ったか?

 ひとまず連絡を入れておく。僕達もさっき井伊を置いていったし、お互い様だ。

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