登録NO.0000
ドギに呼び出された俺は、太陽がほどよく昇った頃に冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは幾つものギルド館が建ち並ぶ町の中心地にある。豪奢な建物は商工ギルド、モスクのような構造をしているのは魔法ギルド、大きな煙突があるのは鍛冶ギルドと錬金ギルド。この二つは一つの建物に入っている。
そして剣と盾が描かれた看板の館、ここが冒険者ギルドだ。
――さて、問題は俺のギルドカードだ。ギルド機能を搭載した時に真っ先に作った物で、ゲーム管理者である証明のようなナンバーにしてしまっている。これがこの世界ではどのような扱いになっているのやら…。
ギルドの扉の前で顎に手をあて物思いに耽っていると、威勢の良い声が背中から俺を押した。
「扉の前で立ち止まるニャー!他の人が入れなくて困ってるじゃニャいかあ!」
振り返ると、猫人系獣人の女の子がプンスカと俺を睨んでいた。胸当てと肩当てだけの軽装備だが、ミニスカートから飛び出す尻尾がある意味凶悪と言える。
――おお、これは南にあるスケア帝国内の種族ではないか。確か獣人の村はファルコ王国のローマンセアの村と隣接していたはず。まだゲームでは獣人の細かいデザインをしていなかったけれど、この世界ではこんなに可愛くなっているのかあ。異世界(?)万歳!!
「すまない、ついつい考え事をしてしまった。お先にどうぞ」
「ふん!当たり前ニャ!」
キィ バタン
先に猫人の女の子を通しながら、自分の口元が緩んでいないか勢いよく閉められた扉のガラスで確認する。
――うん!大丈夫だ!問題ない!!
キリっと顔を引き締め、ようやくギルドの扉を俺は開く。そしてゆっくりと辺りを見回してギルドの受け付けを探した。
右手の方には掲示板があった。その前には幾人かの冒険者の姿があり、その手前には仲間同士で相談できるように設置されたものであろうテーブルと椅子が並んでいた。
今も数人がそこで談義している。
奥にはカウンターがあるが、どうやらアレは採取物などの換金所と雑貨屋のようだ。冒険者の一人が薬草らしき物とポーションを交換してもらっていた。
――あ、さっきの猫娘が怒鳴り込んでるのが受付っぽいなあ…。
そこ以外にも幾つかのカウンターがあるのだが、どうやら今は開いている受付が一つしかないようだ。そこ以外は10時の休憩だろうか。
そんなこんなで、先程の猫娘は物凄い剣幕で受付嬢と口論している。ここは静かに並ぶべきだろう…そう思って無言で後ろに並ぶと受付嬢と目が合った。そう、それはそれは「なんと良い所へいらっしゃった」と言わんばかりの嬉々とした笑みが一瞬こして窺えた。
「アーニャさん、もうその話しは終わっています。何度も言いますが昨日お伝えしたとおり、貴女のランクでは無理がある為却下です」
「だーかーらー!もうすぐアタシもCランクニャ!ならチョロっと前倒しで行かせて欲しいのニャー!!」
「駄目です!レイド島に行けるのは、ちゃんとCランクになってから!それがギルドの決まりです!後ろが控えていますので、また後日いらしてください」
受付嬢が再び俺にニコリと微笑むと、それに気付いたアーニャと呼ばれた猫娘も俺の方に振り向いた。そして鋭い視線で睨まれた。
「またお前ニャ…!」
アーニャはフン!と言うと、俺を睨みながら依頼掲示板の方へと歩いて行った。…レイド島か。どうやら今度の調査任務に加わりたくて受付嬢とやりあっていたのだろう。ふむ…。
「では次の方どうぞ。どういったご用件でしょうか?」
受付嬢に呼ばれ、懐からギルドカードを取り出しつつ前に進む。
「今日はギルドマスターに呼ばれて来ました。カードはこれになります」
受付嬢は丁寧な手付きでギルドカードを受け取ると、その内容をまず目視で確認…その直後、ギョっとした表情を見せると「失礼いたします」と言ってカードをギルドカード読み取り用の魔導器に挿入した。
「本物…」
彼女の呟きは驚きと困惑に満ちていた。それもそのはずだろう、登録NO.0000なんておかしな表記のうえ、そこに明示されているランクは『SS』なのだから。
「し、しばらくお待ちくださいませ、ビ、ビ、ビ、ビイト様!」
うん。最後の方、声が震えてたね。なんかゴメンね。
言い訳をするならランクの方は仕方がないんだ。デバッグの際にありとあらゆるボスを倒してしまっていて、たぶんそれが反映されているんだよな。。。
――冒険者ギルド応接室――
「これはどういった事なのか説明頂きたい。ビイト殿…いや、ビイト様!」
物凄い形相のドギが、今俺の目の前にいる。
「こ、こ、こ、このナンバーとお名前は、数百年前に冒険者ギルドを創設された伝説のお方のもので、しゅ!い、言うなれば、冒険者ギルド連盟のアークグランドマスター、で、でしゅ!」
あ、受付嬢、ドギの後ろで震えながら噛んだよ。ドギも手に持っているティーカップがカタカタ鳴っている。二人共、なんかスマンね。
と言うか…なるほどねぇ…こっちでは俺ってそういう扱いになってるんだぁ…。
「悪いんですが俺、実は記憶がスッポリ抜けてて、自分の名前はわかるんだけどそれ以外がさっぱりわからないんですよ」
記憶喪失なんて嘘なんだけどね。
「つ、つまり、貴方様は数百年前の世界からいらして、その際に記憶を失った。そう理解すれば、よ、宜しいか?」
「うーん…そうなのかもしれないですね。実際、ギルド本部が調査依頼を出した例の光、たぶん俺だしぃ…」
俺は思いっきり愛想笑いを浮かべながら話す。それでも二人はドギマギしている。もっと笑った方がいいのか?それともビシっとした方が良いのか?正解はどっちだろうか。
「そ、そうなると、本部への報告は、い、如何致せば、よ、良いでしょうか?」
あー…ドギ氏はたぶんこんな丁寧な話し方慣れてないんだろうな…受付嬢同様に噛み噛みになってきているよ。
「そうですねぇ…俺としては記憶が戻るまで秘密にしていただきたいんですが」
「し、しかし、そ、そそ、そうなると、どちらにしろ、か、形だけでもレイド島の調査をしなければなりま…しぇん!」
噛み噛みの受付嬢に言われて、俺もドギもハッとする。確かにそうだ。しかも何らかの成果を持ち帰らねば、恐らく本部のお偉いさん達が出張ってくる事になるだろう。
そうして暫く3人で天上を見上げていたが、行き着く所は現状で一つだ。沈黙の中、俺が口を開いた。
「…仕方がない。やるだけ調査をしませんか?成果は俺が適当に見繕うので」
「「ええ!?」」
「あ、俺が行くので、付き添いはさっきの猫娘…アーニャ君でいいですよ」
「「は、はぁあああ!?」」
なんかあの子、物凄く行きたがっていたもんな。あー、でも大々的に募集かけちゃってるんだっけ…。
「た、確かにSSランクのビイト様の付き添いとしてでしたら、ア、アーニャさんも同行は、で、で、出来ますが、け、け、け、け、決定している人員になんと、わ、わ、詫びれば良いものでしょう…」
「くっ、しかも前金も既に今朝渡してしまっています。それを返せとは…」
うーん。なんか二人が本気で可哀想になってきたなぁ。それならば…。
「わかりました。では、俺が調査隊に研究員として同行、その助手としてアーニャ君を。で、アーニャの報酬は俺が出す。これで問題はないですよね?」
ドギと受付嬢にやっとホッとした笑みが浮かんだ。これでお題目は揃った。あとは俺の立場をどう冒険者達に理解させるかだけれども…。まあ、どうにでもなるだろう。その辺はドギと受付嬢にお任せと言う事で。
追伸。
話し合いのあとドギと受付嬢には、俺に対して普通に接してくれるように強くお願いをしたのだった。




