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 レイド島を出発して30分ほど経った頃、それまで穏やかだった海が突然の風雨に見舞われ嵐となった。高速艇は壁のように立ちはだかる波を斬り裂くように進んではいたが、進行速度は下がる一方となっている。

小型艇では打ち付ける波に抗うのも限界がある事を俺は体感している。


「・・・おかしい。こんな場所で嵐が起こるなんてイベントを設定した覚えがない」


 呟きながら両手で操舵稈を握りウインドウに表示されるマップを睨み付けたが、俺自身わけがわからない状況に戸惑いしかない。身体の中で唯一露出している顔は既に潮でデロデロだし、操舵稈を握る手も疲労からかプルプルと震え始めていた。

 こんな設定…と言うかここまで体感出来るような仕様にお手製VR機器もなっていないはず…はず……はず………はずだよなあ?!せいぜい攻撃喰らった時に軽い動揺があるだけのはずだよなあ!?


 嘆いていても嵐が止むわけもなく、ちょっと半ベソをかきながら嵐の中を高速艇で港町に向けて疾走し続けた。


 ドドーン


 真正面から大きな波に突っ込むと、高速艇が壊れるんじゃないかと思うくらいの衝撃が走る。・・・いや、壊れるだろ。このままじゃヤバいだろ。

 そうして何となくだが俺が今置かれている『現実』を認識し始めた頃、『奴』は現れた。


「ん?前方に大きな障害物?」


 弾け動揺する船体の操舵に苦労しながら前方に意識を向けていると、大きな塊が見えた。それは初め岩礁と見間違えるほどのモノであったが、近付くにつれてその大きさに身震いをした。

 岩礁と言うよりも小さな島と言った方が良いかもしれない。『ソイツ』は幾つもの触手を振り上げながら俺の方を睨んでいるようだった。


「テンタクルス?いや、この大きさは…!?」


 舵を切り、迂回を試みてみたが遅かったようだ。その触手(ゲソ)が回り込み、退路を塞ぐ。高速艇では触手の範囲内を逃げ回るのがやっとのようだ。


「よりにもよってクラ―ケンかよ!」


 歯噛みするようにしながらその名を叫ぶと少し舌まで噛んだようで、軽い痛みと出血があった。なんてリアルな血の味なのだろうか…。迫る危機感を余所に、冷静にそんな事を考えている自分に気付いた。


「そんな事を考えてる余裕なんてないだろうが。何してんだ俺!」


 何かしらの言葉を吐いていなければやっていられない。何しろ俺のレベルは1なんだ。こんな中小ボスクラスでさえ脅威でしかない。

 片手で操舵をしつつガンソードを銃形態で構える。弾はミスリル弾でいいだろうか?数発発射してみるも、攻撃が通っている気がしない。…そりゃあレベル1だもんな。。。


 他に何か手段がないか考えながら操舵をしていると、不意の触手(ゲソ)による攻撃で遂に高速艇は転覆してしまった。海洋に放り出され無我夢中で泳ぐ俺を、事も無げにクラ―ケンの触手は捕え、空中で振り回される。

 締め付ける触手の力はとても強く、息をするのさえも困難だ。何よりも吸盤に吸い付かれた場所全てが痛い。このまま死ねばゲームオーバーで現実に帰れるかもしれない…


――ん?…痛い?これはヴァーチャルだよな?何故痛む?


 薄々気付いてはいた。妙にリアルで美しい光景、肌に感じる潮風、そして…。


――今もこうして痛みだけじゃなく、ずぶ濡れの衣服の気持ち悪ささえも感じている。そう、これはヴァーチャル世界なんかじゃない。恐らく現実。


 非現実と思っていた事象を現実だと受け止められた時、ようやく俺は今現在の切迫した危機を受け入れられた気がする。


「死…死んでたまるかああああぁあああ!!!」


 腹の底から声をあげていた。そしてアイテムボックスのウインドウを睨んだ。高速艇は破壊された為に×印が付いている。その横に目を移す。


「出て来い!帆船!!」


 高速艇よりも大きな船体、しかしその構造は脆い。だが、こいつには武器がある。


「目標!俺を捕捉している触手!大砲てえぇえええええ!!」

 ドオオーン


 乗組員のいないガレオン船の大砲に火が点った。轟音と激しい衝撃を感じながらガンソードを触手に突き立てると、思いの外あっさりと抜け出る事に成功した。そして俺はそのまま水中へと潜った。不思議と水中でも普通に呼吸が出来る。どうやら『スキルマスター』の効果か。


 俺の思惑は功を奏したようで、クラ―ケンの気は完全に帆船に向けられたようだった。海面から大砲の音に混じって衝突音が聞こえる。ならば…。


 ガンソードに再びミスリル弾を装填すると、帆船に照準を合わせる。持てる魔力を全てこいつに込める。…あ、魔力はあんまりないからHPとMPから消費されるんだっけ。まあ、なんとかなってくれ。


――狙うは帆船の心臓部…動力用魔石炉だ!


 照準を合わせながらタイミングを計る。奴が帆船を抱き込んだ瞬間を狙う!


 ドドオーン ドーン

 中破しながらも大砲を発射し続ける帆船を、クラ―ケンは覆い被さるようにして執拗に攻撃している。その姿を見ながら俺はほんの少しの間目を閉じた。


 ドーン ドドーン

 幾度目かの砲撃を聞いたあと、ゆっくりと目を開ける。そして帆船の残骸と思しき浮遊物が海面にあるのを目にしながら、ガンソードの引き金をゆっくりと引いた。


 シュボ


 魔力を纏った弾丸が水中を疾走する音を聞くと、俺は海底の岩山へと急いだ。スキルマスターのおかげで遊泳速度はイルカ並みになっている。


 ゴッ ボシュッ


 恐らく爆発音か?スルリと海底の岩山の中に避難すると、遅れて衝撃波が辺りを襲った。魚の群れは突然の事に意識を失い、ハラハラと海面へと舞って行く。その後、ゴーっと凄まじい海流が岩礁を抜けたあと、ようやく俺は海面へと向かった。

 海面へと向かう途中、ボロボロになった帆船が俺の真横を沈んで行く姿を無言で眺める。その船体には焼け焦げた大きなイカゲソが幾つも張り付いていた。そしてクラ―ケン本体はどうやら爆散したらしい。それらしき破片が水中と海面を漂っている。


「…アイテムボックスにでも収納するか」


 大きなイカゲソと、木端微塵になった切り身?を壊れた帆船と共に収納する。帆船にはやはり×印が付いたが、イカゲソ(大)×30 イカゲソ(小)×99 イカの切り身×99を手に入れた。町に着いたら売り払おうか。


「さて問題は足か…」


 高速艇も帆船も失い、移動手段を考える。ここがVRではないと言う事は飛行戦艦では不味いよな。戦闘機も不味い。国家に喧嘩を売りに行くようなものだ。


 ピロローン


 不意に脳内に流れた曲に「あ」と声を漏らす。どうやら今の戦闘でレベルアップをしたようだ。それにしても随分とタイムラグがあったなぁ。


ビイト・ホンダ

 LV040

 所持金 99999G

 HP ∞

 MP ∞

 攻撃力 230

 魔力 820

 防御力 280(390)

 敏捷性 303(343)

 器用さ 215

 運 30

 職業 創造主

 称号 創世王

 スキル スキルマスターLV02



 あ…ボスクラスをレベル1で倒したもんだから時間かかったんですね。。。

 てか、魔力の上がり方が異常じゃないか?


 ウインドウを眺める俺の視線の向こう側には、光り輝く晴れ間が見えていた。

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