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フラウ・ヴォルフ①

 帝国には幾つかの反抗組織が存在する。その大元は、嘗て帝国に呑みこまれた国々の王侯貴族の子孫達が旗印となっている事が多い。

 そんな反抗組織の中でも異色な組織が『ラヴィーネ』である。


 この組織の何が異色であるか?それは、『平民達による平民の為の組織』を目指したところにある。故にそのリーダーも平民であり、メインスポンサーはバーダナム共和国である。そしてそのバーダナムでも最も資金供与を行なっていたのは、メランの商会『パラダイム・テクニカル』となる。


 リーダーであるバーンラッド・ウォーレンは、戦闘で右腕を失った後に義手の代わりに機械化…アタッチメントアームを装備している。これはユニットを差し替えられ、戦況によって右手の特性を変えられる。マシンガン、バズーカ、ドリルと、その種類は豊富だ。それらのユニットは、屈強な体格を誇る彼の背中のリュックに納められている()()()


 副官であるティーガー・ロックウェルは、腰にまで伸びた黒髪が印象的な青年だ。彼は陽気な性格で普段はバーのマスターをしており、情報収集に長けている。そして彼の武器は、その拳である。

 そんな彼等の戦闘部門で現在、最も活躍をしているのが『女狼』の二つ名で呼ばれるクラウディアだ。



 クラウディア・ストラッシュ。彼女はティーガーとは同郷の幼馴染である。一時期傭兵として名を売っていたのだが、偶々立ち寄ったバー『セブンセンシズ』でティーガーと出会い今に至る。

 彼女の振るうガンソードは『グロウスバイル』と呼ばれている特注品だ。彼女の身長に近いほどの長さがあり、斬馬刀のような大柄な剣ではあるが、その切っ先は鋭い。

 そう、どちらかと云えばグロウスバイル(おおなた)と言うよりもメッサー…いや、大きな出刃包丁と言うべき代物である。





「バーンラッドからの伝達だ。暫く出張…ん?出向かな?まあどっちでもいいか。ちょっと出張ってもらいたい」


 バー・セブンセンシズで一人静かにカクテルを飲むクラウディアに、バーのマスターであるティーガーは、いつも通りの柔和な笑顔を向ける。その笑顔を無表情に眺めるクラウディアだったが、目を瞑ると代金をカウンターに置いて立ち上がった。


「おいおい、何処に行く気だ」

「…釣りはいらない」

「足りてねーよ。溜まってるツケががあるだろが」

「…」


 仕方なく席に座り直すクラウディアに、ティーガーはやれやれと言ったように溜息を漏らす。そして新たにカクテルを注いだグラスを彼女の前に置いた。


「…金ならもうない」

「なら丁度いい。スポンサーからの指名依頼だ」


 クラウディアは考える。スポンサーと言っても、共和国は先日の帝国の急襲によって手痛いダメージを受けたと聞いている。そんな状態では、いくらも金を出せないのではないのかと。


「スポンサーはスポンサーでも、ギルド連盟だ」

「…なら、尚更無理がある」


 噂では帝都にある連盟本部は接収され、議長連中は逃走。ほぼ壊滅と言って良い。そんな所から金が出るわけがない。そうクラウディアは考え、再び席を立とうとしたが、今度はグッとティーガーに腕を掴まれた。


「安心しろ。前金でもらっている。お前のツケどころか、家が買えるほどのな」

「…どうせ組織の運営資金で消える」

 ニヤリとしてティーガーは、ノンノンと人差し指を振った。


「運営資金を差っ引いても家が買える額だ」


 クラウディアは目を見開くと、今度は逆にティーガーの肩をグッと押さえつけた。そしてちょっと、目を血走らせているようだった。


「合意だな。ならこいつを持って行け」


 クラウディアの手を握りしめると、ティーガーは素早くその人差し指に指輪をはめた。

「…指…輪?」


 ほんのりとクラウディアの頬が染まる。しかし彼女は、その数秒後には違う表情を見せた。


「…これ、魔法がかかってる」

「ああ、転移魔法らしい。そいつでスポンサーの所へ一瞬で行けるとの事だ」


 そしてがっかりとした表情をすると、クラウディアは席を立った。今度はティーガーは見送る素振りだ。


「早い支払を期待してるぞ」

「…二度と来るもんか」


 乱暴に閉められた扉を見ながらティーガーは苦笑いを浮かべると、頭を掻いた。そして独り事を呟くのだった。

「いつになったら素直になれるんだかなぁ」


 それは寡黙な幼馴染に向けたものなのか、それとも自身に向けたものなのか…。






 クラウディアが転移して降り立った場所は、大きな屋敷の前であった。しかしその場所には、何処か違和感があった。

「…空が近い」


 違和感、それは見上げた空にあった。空の近さを感じたのは、雲の位置にあったのかもしれない。通常ならば目線の上にあるはずのそれが、低い位置にある。


「…高所なのか?」

 しかし空気の薄さを感じない。そうして慎重に周囲を見回すと、屋敷の門に呼び出し用のベルのボタンを見つけた。彼女は無言でそれを押す事にした。


『どちら様でありましょうか?』

「クラウディアと言う。…スポンサー…?に呼ばれて来た」


 彼女は連盟がスポンサーとは聞いているが、直接の呼び出し人の名前を知らない事に今更に気が付いた。その為、少し口どもるように答えていた。そうして暫くすると門の向こうの扉が開き、銀髪のエルフが恭しく現れた。


「…依頼人は連盟でも魔法ギルドか」

 エルフの姿を見たクラウディアは、思わず口走っていた。冒険者ギルドからの依頼は多いが、魔法ギルドからとは珍しい…そう思ったようだった。


「お待ちしておりました。話は聞いております。私はセベストリアン。この屋敷の執事長をしております。主人達からはせバスと呼ばれております」

「あ、ああ、セバス…さん?よろしく頼む」


 セバスの綺麗なお辞儀に対して、クラウディアは一歩後ろに退いてしまった。彼女はこういった状況に慣れていないようである。普段はポーカーフェイスを気取る彼女の口元に、動揺が見えていた。そんな彼女を銀髪のエルフは微笑んで迎え入れる。


「応接間の方にお通しいたしますが、生憎主人達は出かけております。探して参りますので、今しばらくお待ちください」

「あ…都合が悪ければ日を改めるが」

「いえいえ、茶菓子なども用意させておりますのでお待ちください。恐らく銀翼亭で油を売っているだけでしょうから」


 通された応接間はとても広かった。50人くらいは楽に人が入れるか?そんな事を思いながら、クラウディアはソファーの上で落ち着きなくキョロキョロと部屋を見回していた。


「…そう言えば銀翼亭とか言っていたが…?」


 記憶が確かならば、銀翼亭と呼ばれる居酒屋兼宿屋がファルコ王国のイーシスの港にあったはず。ならばここはイーシスなのか?出された紅茶を口にしながら、クラウディアは逡巡した。そしてチョコレートビスケットを一つ手に取る。


「…うん。甘い」

 久しぶりの甘味に至福の笑みを漏らした時、唐突にノックはされた。

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