動き始める者達②
レーダーに2つの艦影が映ったのは、連盟総会から2週間過ぎた頃だった。
国同士の諍いではない為、宣戦布告なぞない。その2隻はホームから東、約20キロの位置に居る。そして恐らく何かを待つように停まっていた。
「スケア帝国の飛行巡洋艦クラスと飛行航空母艦のようですね」
ザスカリは冷静に職員達からの報告を受け取り、分析していた。
「それで、ビイト様には連絡はいっているのか?」
「はい。既にグリフォンに乗艦され、敵艦の動きを見定めておられるようです」
「ふむ、シュテンは勿論既に同行しているだろう。他の議長達はどうしている」
「ホムラン議長は錬金職員を伴ないホームの各砲座に。セレナ議長は回復薬等の製造をされており、ルールリ議長は錬成師を集め、弾薬などの製造を急がせております」
「メランは?」
「メラン議長はバーダナム共和国にて大統領と会談中です」
ホームでの1戦は、各国が重い腰を上げるきっかけになる。この戦いで勝利をする事が出来ればギルド連盟は各国首脳に対して優位な位置取りが出来るとザスカリは睨んでおり、その為にメランは母国バーダナムの大統領府に赴いていた。
「では我々魔法ギルドも配置につきましょう。屈辱を晴らす為にもね」
「畏まりました」
スッと立ち上がると、ザスカリは真っ直ぐと扉へと向かった。その所作には一切の迷いはなく、傍付きの職員には彼が笑みを浮かべているようにも見えたと言う。
スケア帝国先遣艦隊である2艦は、海上を進む上陸艦隊が追い着くのを待っていた。その動きは予測したとおりの動きであったが、敢えてホーム側からの警告などはなく、静かに事が進んでいるように見えた。
ただこの軍団を預かる空軍大将、帝国三騎将の一人ゼピュロスは、出撃当初から嫌な予感が脳裏に浮かんでいた。
「足りんな」
「は?」
ゼピュロスの美しい造形の顔に一瞬冷たい表情が浮かぶと、副官は少し震えるようにして身を縮めた。長く美しい白髪が揺らぎ、赤い瞳が更に真紅に染まったように見えた。…それらは錯覚ではあるのだが、2メートル近い高身長と無駄のない筋肉、そして女性と見間違う程の美丈夫に見つめられた時、人はどう感じるだろうか。
「この戦力では落とせん。そう言っている」
副官は首を少し捻るようにして不思議そうな表情を浮かべる。
帝国でも指折りの精鋭、そして飛行艦を2隻も投入しているこの作戦の標的は、浮遊する島だ。しかも相手は余所の国家でもなく、そこに住むのは一般人であり軍人がいるわけでもない。ただ、冒険者ギルドなどと云う戦闘集団がいるのは確かではあるが、帝国兵からすればその環境こそ特殊であれ、辺境の村を一個師団で恫喝しに行くような容易い任務であるように思っていたようだった。
「たかがギルド連盟ではないですか。閣下の考えすぎでは?」
副官がそう考えるのも致し方ない。実際、帝都における襲撃に於いては、ギルド連盟は成す術もなく敗北し、逃走している。
「あの時とは敵方の頭が違う」
ヤーンからの報告書を片手に、ゼピュロスは副官を睨む。
ギルド連盟の現在の頭は伝説のギルドマスター。ギルドが存在しない時代にギルドと云う概念を作り出し、カインデル大陸の全ての国家にそれを認めさせた男…そう言う認識に立てば、如何に手強い相手に喧嘩を売りに行こうとしているのか分かるはずだ。…そうゼピュロスは目で訴えているようであった。
「それに、『女狼』が連中に接触したらしい情報もある」
「な!?あのレジスタンスのトップエースがですか!!」
「どうだクラウディア、乗りこなせそうか?」
「…愚問だ」
グリフォン内の格納庫では、試作機とは銘打たれているが実際は実戦配備も十二分に可能である最新鋭機、FSX-00試作型戦闘機『零ファントム』の火付が行なわれていた。
「…エンジン良好、各種デバイス異常なし、…オールグリーンだ」
零ファントムの前部操縦席には、金髪で目つきが鋭い女性が座り、ビイトは後部に座っている。
彼女の名はクラウディア。帝国のレジスタンス組織『ラヴィーネ』のエースの一人である。寡黙であり孤高の女戦士。二つ名は『フラウ・ヴォルフ』
「俺の癖が多少ついているかもしれないから、完熟飛行とまではいかなくても慣れて貰いたい」
「…ああ」
「それじゃあ、ご挨拶といこうか」
「…任せろ」
心なしか感情表現の乏しいクラウディアの口角が、一瞬上がったようだった。




