連盟大会議①
各地の被災した町や各ギルドの復興の手伝いをして過ごしているうちに、気が付けば半月ほどの月日が経っていた。仕事が溜まりに溜まった状態となっていた各ギルドはどこも忙しそうである。
…のだが、何故かファシアナとアーニャはここ、ホームにいる。
「スラフ~、親子丼一つとネギ玉丼一つ両方大盛りで注文入ったニャ」
「ああ、分かった。ガーリックチキン定食があがってるから頼む」
「はいニャー!」
「スラフ兄さん、ポテトフライ三つ入りました」
「おう、ファシアナさん、ポテトの方を頼む」
「了解ですわ。あ、唐揚げ出来てます」
ファシアナはイーシス冒険者ギルドを辞めて、銀翼亭に就職したそうな。ギルド議長団への銀翼亭での接待の際に手伝いをしていたのだが、その時に料理を作る楽しみを知ったようで、現在はスラフに弟子入りしている。
そしてアーニャは冒険者をする傍ら、小遣い稼ぎに銀翼亭のウエイトレスをするようになった。二人はスラフ達の家に住み込みで働いている。まあ、議長達の家よりは小さいが、庶民が住むには大きめに作ってあったからなぁ。
そんな風に人の流れが色々あり、俺達の家も大きく改築をさせられた。
議長連中が越してきたあと、議長達に何度も「このホームの領主たるアークマスター様に屋敷を与えて頂けた事は大変嬉しき事ではありますが、そのご領主たる貴方様が我々よりも質素な家にお住まいになられている事が我々には心苦しい」などと陳情され、更には嫌でも改築せざるを得ないようにと画策したのだろう、議長達が執事やらメイドやらをこぞって俺達に預けてきたのだった。
俺としては3人で面白おかしく過ごせる程度の間取りで良かったのだが、なんだかんだで11LDKにまで改築した。
執事長は元はザスカリの執事であったセベストリアンと云う人物で、生粋のエルフであり博識である。そして眼鏡の似合う銀髪のエルフである彼を、俺達は『セバス』と呼んでいる。
メイド長はフランソワと云う人族。あまりホームに居られないメランが、他の議長連中に負けじと連れて来た。メイド長としては若いが、歳は28。どうやらメランの親族のようだが、俺達と年齢が近いので気軽に話せるのは有り難い。
この二人には個室をそれぞれ与えた。それ以外の者は2人~3人を同室で過ごしてもらっている。
あとはセレナに助手として数人ザスカリとルールリから送られた。この人達は例の職員寮に住んでもらっている。そんなわけで、セレナ用の実験棟も建てさせられたのだった。
「ビイト様、こちらにいらっしゃいましたか。連盟会議のお時間です」
銀翼亭のカウンターで軽食を摂っていると、セバスに声をかけられた。振り返ると頭を垂れて俺の動作を見守っている。その眼差しを見る度に思うのだが、この男…只の執事ではないよな?戦闘経験がありそうだ。
「わかったよ。では会議に向かおうか」
俺が席を立つと、セバスは俺の座っていた椅子をスッと元の位置に戻して、一息着くようにしていたスラフに頭を下げた。その一連の動作には淀みがない。
「今晩も来るんだろ?」
「ああ、ガーリックステーキを用意しておいてくれよ」
「わかった。あと、今日はリサは非番だが、お前さんが来るなら顔を見せるかもな」
「は、あははは」
そんな遣り取りをスラフとしている間に、セバスはアーニャを呼んで会計を済ませていた。スラフと会話をしながらポケットの中を探っていた俺の手が、少し空しい。
大会議場の前まで来ると、セバスは一礼してから俺に今日の議題の資料を渡して来た。ふむふむ…今日はメランも来ているらしく、商工ギルド関連の議題が多い。メランはパラダイム・テクニカル社の会長職が忙しい為、月に1~2度纏めて議題を持って来る事が通例のようになっているのだ。
扉を潜り席に着くと、連盟職員が微笑みながらコップに水を注いでくれた。
俺の席はザスカリの後ろ…なのだが、高座にされていて会議の出席者全員の顔が見えるようになっている。本来これは連盟盟主用の席として配置したのだが、その盟主ザスカリに「アークマスターよりも高い位置にある席になぞ座れません」と断られ、こういう事になっている。
「今日は顔ぶれが多いな」
「はい。本日は各国支部長クラスまでを招聘しております」
ザスカリが笑みを浮かべながら一礼した。
各ギルドの国レベルの支部長達に、連盟議員と呼ばれる高位の連盟ギルド職員、そしてザスカリ達議長連と合わせて総勢100人近い。普段はザスカリ達と連盟議員のみだったりするので、空気感が全く違う。
そんな彼等支部長達は、どうやらメランが用意した飛空機で来たらしい。ただ、レイド島から見て帝国の上空を通る方が近いはずの国家にある支部長達は、皆帝国を迂回する航路で来た為長旅になったようだ。なので到着から一日置いて午後からの大会議開催となった。
「空港の方は大丈夫か?」
「ええ、ビイト様が広げた規模で問題ありませんでした。なにしろ帝国の旗艦を停められる規模ですので民間機なら余裕ですよ」
メランはそう言いながらパイプに手を伸ばす。すると天井から空気洗浄用に配したダクトがスルスルと降りてきて、メランのパイプの煙を吸い上げていった。
「おやおや、メランよ。禁煙するとか言っていたのはいつ頃の事であったかのう」
ホムランがメランを見ながらニヤリとすると、メランはフンとそっぽを向くようにしていた。
「スケア帝国があんな暴挙に出なければ、ストレスも溜まらずにパイプの一本や二本くらい止められたわい」
「ほんに同意だわさ」
気付けば、ルールリも長いパイプを懐から取り出して既に火を点けていた。プカプカと丸い煙が、器用にダクトに向かっていく様を、俺と他の議長達が感心するように眺めている様は、少し滑稽であっただろう。支部長席からクスクスと笑いが漏れていた。




