レイド島
電子音のような音を聞いたあと、暫く俺は気を失っていた。そして目覚めてからは現実世界への帰還の仕方に悩み、少し頭を落ち着かせる為にマップを開いた。
――取り敢えずはすぐ近くの町を目指す事にしよう。
しかし、近くと言っても現在地は冒険ファンタジーなアベルガルド大陸と近未来チックで錬金術の栄えるカインデル大陸の中間にある島で、どちらの大陸の町にも遠い場所、『レイド島』なのだ。
『レイド島』はその名の通りレイド用に設置した島で、大陸になり損ねた巨大な島…と言う設定だ。山があり海がある。そして砂漠地帯や草原もある。そこには両大陸の魔物が混在し、弱肉強食の争いを繰り返しており、定住する住民はいない。
――そう言えば、ここには隠しで空中庭園を設けていたな…。一度そこに行ってみたいが、NPC達の様子も知りたい…。
空中庭園と町、目的地に悩んだ俺ではあったが結局カインデル大陸の港町を目指す事とした。カインデル大陸には魔石で動く車やバイクなんて物がある。魔力を使わずに素早く移動する足に最適だ。まずはコレを手にいれよう。
目的地を決めて魔力を開放すると、身体に浮遊感を感じた。踵、爪先と徐々に足が地上の重力から解き放たれると、天空へと飛翔した。目の端には空中庭園のある浮遊島があったが、今は後回しだ。
「進路は東!全速力だ!!」
風の精霊の力を借りて大空を舞う…これぞファンタジー!(装備は現代風だけどもね)加速しながら雲の隙間からレイド島を眺め、東へと向かう。それにしてもリアリティーのある浮遊感と疾走感だ。島の景色も絶景だ。『ぷにこ』の補助付きとはいえ、ここまでのプログラミングをした憶えはないんだが…?
そういえば、異常が起きてからステータスを見ていない。カインデル大陸に着くまでの間にチェックをしよう。
「オープン・ステータス」
ポツリと呟くように声を発すると、目の前にウインドウが現れる。現在のレベルや各種状態がそこには表示されている。特に異常は…ん?んん?
ビイト・ホンダ
LV01
所持金 99999G
HP ∞
MP ∞
攻撃力 23
魔力 20
防御力 52(132)
敏捷性 54(94)
器用さ 32
運 12
職業 創造主
称号 創世王
スキル スキルマスターLV01
装備 コンバットギア(防御+30 敏捷+10) コンバットアーマー(防御+50 敏捷+20) コンバットガントレット(防御+30 敏捷+10)《コンバットアーマー装備一式コンプにより、各装備に敏捷性に対する補正が付いています》
えーと…括弧内は補正後の数値だよな。てか、確かデバッグの為にレベルとかMAXにしてたよね?なんでステ反映されてるのがHPとMPだけなんだろう?しかも経験値がリセットされてレベルが1とか…?あとこの職業と称号はなんだ?『創造主』に『創世王』???こんなもの設定した覚えがまるでないんだが!?
「運12とか…低っ!」
動揺からか、自然に口から思っている事がこぼれ出してしまう。
ん?スキルマスター?これも知らないぞ?どうなってるんだいったい!?
見覚えのない表示に少し狼狽えながら、ウインドウに映るスキルマスターという文字に手を伸ばすと、その詳細が明らかになった。
『スキルマスター:現存する全てのスキルが使用可能(魔法や剣技、錬金術などの特殊能力全て含む)』
――はぁああっ!?待てコレ、ひょっとしてデバッグの為に全ての技やスキルをONにしてたものが一つに纏められたってコトですか??
「それにしても魔力値20で飛翔魔法が使えているのもおかしいぞ…あ、そうかなるほど…」
ステータスウインドウをよく見ていると、HPとMPの表示が偶にチラついて見えている。恐らく足りない基本魔力を無限のHPとMPで補っているのだろう。そういえば少し、体に倦怠感のようなものがある事に気付く。これは躁鬱に近いものだろう。つまり、あまり長く飛翔を続けると精神に異常をきたす可能性があるかも…。
「一先ず降りれそうな場所は・・・」
ゲームをしてて精神異常になるなんてたまったもんじゃない。そう思った俺は、レイド島東端の砂浜に降り立つとアイテムボックスとストレージを確認した。ひょっとしたら何か入れてあるかもしれない、そう思って覗いてみると…
「うわぁ…」
アイテムボックス一覧
乗り物:YD-03グリフォン級強襲戦闘飛行艦1番艦『グリフォン』×1 帆船×1 高速艇×1 FSX-00試作型戦闘機『零ファントム』×1 RGX-00試作型戦闘バイク『零影』×1 ARX-03エアバイク『疾風』 馬車×1 馬×1 白馬×1 黒馬×1 エアボード×3
武器:聖剣『エクスカリバー』×1 神装剣『ゴッドイーター』×1 ドラゴンキラー×1 魔双剣『双龍』×1 魔導銃剣『ガンソード・ツヴァイ』×1 アサシンダガー×∞ コンバットナイフ×2 精霊の弓×1 大賢者の杖×1・・・・・(以下略)
防具:コンバットアーマー(一式)×2 精霊の防具(一式)×1 カムイの兜×1 リンドバウムの鎧×1 覇者の籠手×1 アイギスの盾×1・・・・(以下略)
アイテムストレージ:汎用拠点×1 テント×1 世界樹の樹液×99 最高級ポーション×99 幕の内弁当×1 鮭弁当×1 唐揚げ弁当×1 テレポート×99 散弾×∞ ミスリル弾×∞ 鉄の弾×∞ 火の矢×∞ 氷の矢×∞・・・・・・・・・・・(以下略)
アイテムボックスの中身を入れてたかどうか不安だったのだが・・・乗り物を買いに行く必要がまるでなかった件・・・。あまりに充実した中身に喜んでいいのか小一時間ほど悩んだりしたが、落ち着いたところで『高速艇』をアイテムボックスから取り出した。港町に行くならコレだろうな。
因みに飛行艦や戦闘機なんかの形式ナンバーや名前は適当だ。特に意味はない。
「なんか、不安しかない船出だな」
俺はそんなことをボヤキながら高速艇に飛び乗ると、大空の天辺にある太陽を見上げながらレイド島を出発したのだった。