ホーム②
「プニコリエール様の料理知識は素晴らしいな!俺が見た事も食べた事もないレシピをスラスラと教えてくれるんだよ!」
ホームに帰港直後、興奮した様子のスラフに俺は詰め寄られている。なんでも銀翼亭2号店開店の暁には、ぷにこを店員として雇いたいとの事だ。まあ、ぷにこが了承すれば別に構わないと俺は思っている。もっとも、非常時には連れ出すけどな。
「飛行戦艦から見た新本部も勇壮で素晴らしく思えましたが、こうして間近で見るとまた…」
「兎に角大きいわさ」
「以前の本部の2倍以上はありそうでござるな」
「いや、それよりも、いったいどういった仕組みでこの島は浮いているんじゃ」
「恐らく魔法陣技術でしょうな。しかし、これほどの大きさの島が浮く魔法陣技術とは…」
俺達の後ろからは、議長団連中がワイワイと喋りながらグリフォンのタラップを降りている。ファシアナは更にその後ろから、キョロキョロ周りを忙しなく眺めながら降りていた。
「あ、あの、この島は落ちたりしませんか?
そっちが気掛かりだったのか…。半永久的に浮上している事を伝えると、ファシアナの挙動は少し落ち着いたようだった。
「まあ、まずはまだオープンしているわけではないけど、銀翼亭で空腹を満たさないか?」
「賛成ー!スラフさん、準備は出来ているんでしょ?」
カレンの問いにスラフはニッと笑う。
「ああ、勿論だ」
島の先端部の桟橋から動く歩道に乗り、城のような本部外周を回ると、島の中心部へと辿り着く。そこには世界樹の若木に寄り添うように、銀翼亭があるのだった。
壁は世界樹の若木と並んでも違和感のないように、木目調に塗装。世界樹の若木を眺めながらのティータイムが楽しめるテラスも作った。
「ビイト様、大樹の向こうに見える家は?」
エルフ長老ザスカリの目が輝く。どうやら俺達の家が気になるようだ。
「右のが俺達の家で、その隣がスラフ達の家だよ」
「宿はどうやら鉄筋コンクリートのようですが、自宅はログハウス調ですか…羨ましい」
「羨ましい…?」
ザスカリはエルフであるだけに、やはり木材で出来た家が好みなのだろう。大樹と俺達の家とを何度も視線を行き来させている。その間に他の議長連中とファシアナは銀翼亭に入って行ってしまったが、俺は暫くザスカリに付き合う事にしたのだった。
「ええ、今でこそファルコ王国のソーサリアの町に住んでおりますが、以前はローマンセアの町との間にある森に住んでおりました」
ソーサリアの町はカインデル大陸最大の魔法や魔術研究の盛んな都市で、ファルコ王国では王都に次ぐ繁栄をしている町だ。そしてローマンセアは旧王都ではあるのだが、今は衰退している。これは魔物素材を多く仕入れられる事で発展しているイーシスとは、対照的な存在と謂える。
「エルフ族の代表と言う地位と、魔法ギルド議長、そしてギルド連盟…職務の為には町に住む事も致し方ない事とは承知しておりますが…ああ、目の前に世界樹とは、なんと羨まし――」
「住めばいいんじゃないかな?」
「ビイト…様…?」
俺は世界樹を仰ぎ見ながら静かに微笑む。
「ここはこの島の中心地だ。空中船用の桟橋を起点として、楕円系のこの島の前半部は連盟本部がほとんどを占めているが、後半部分にはまだあの2軒しか建っていない。気に入ったのならいつでも引っ越してくればいいさ。何しろ職場はすぐ目の前にあるのだし」
俺の言葉が終わると、ザスカリは片膝を着いて礼をした。俺はその手をとり、笑いながら銀翼亭へと足を向ける。そしてホームに、また一人住人が加わった。
銀翼亭の扉を潜ると、広い店内の中央に中華店で見かける回転テーブルが置かれており、そこには既に幾つもの料理が並べられていた。リサは肩にぷにこを乗せたまま、カウンターとテーブルとを忙しなく行き来しており、厨房ではスラフが調理の仕上げをしているようだった。
「まったくもう!仕上げも終わってないのに抜け出して迎えになんて兄さんが行くから!」
「いいだろ?冷めた料理よりも熱々の方が美味いんだし」
カウンター越しに二人が喧嘩のようなやり取りをしているが、平常運転である事が見ていてわかる。カウンターではやいのやいのとやっていても、テーブルに置かれた皿も料理にも乱れはない。これが本来のこの兄妹の素なのだろうと思う。
そうして全ての料理が出揃うと、リサとスラフも着席をした。そしてぷにこは俺の肩へ。
「お歴々には申し訳ないが、今日の昼食は我が店の再始動にあたっての試食会も兼ねています。口に合わないものもあるとは思いますので、感想は正直に願いたい」
そんな事を言いながらスラフはリサと共に再び立ち上がると、丁寧にお辞儀をした。そしてシャンパンの口を開けると、一人一人に注いでいった。
「今回は買い出しに行く時間もなかった為、食材や飲み物に関しては全てビイト殿に提供していただきました。この島の領主たるビイト殿に感謝を」
「「「感謝を」」」
最後にカレンとセレナがスラフ達のグラスにシャンパンを注ぐと、グラスを片手に立ち上がった皆の視線が俺に集まった。…乾杯の音頭をとれってか!
「あー、本日は多忙の所お集まりいただき、こちらからも感謝する。倒壊してしまった銀翼亭、そして奪われたギルド連盟本部。今日はその双方の再出発の日である。それを祝して、乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
この日俺達のホームは、ようやくスタート地点に立った。
そう、これからがスタートなのだ。




