戦禍のイーシス②
ギルドのあった地区への砲撃の爆風によって、繁華街は火の海と化していた。その中央通りには死傷者や、泣き叫ぶ子供の姿があった。
「小型ヘリを取り敢えず、火の手の少ない中央広場に降ろそう」
「銀翼亭はどうするニャ!」
「こいつで銀翼亭の前には降りられないだろうが!」
「う…」
アーニャが逸る気持ちはわかる。俺だってスラフとリサが心配だ。だが、こんな状況だからこそ慎重かつ、的確な行動をしなきゃならない。
小型ヘリを着陸させて中央広場に降りると、即座にヘリをアイテムボックスに収納した。既に野戦病院と化しているこの場には、恐らくまだまだ怪我人が運ばれて来る。その邪魔をしてはいけない。
「ビイトさん!」
ヘリを収納した直後に聞き慣れた声が耳に入る。この声は――
「リサーーー!!」
俺より先にアーニャが反応した。お互い目を潤ませながら抱き合――いや、アーニャが飛び付いてぶら下がってるように見えるな。
「スラフは?リサ、スラフは無事ニャ!!?」
「兄は今、そこの天幕で眠っています。薬で眠らせているので、もう少し休ませてあげてください…」
「…わかったニャ」
カラーンカラーンカラーン
町の時計塔は無事だったようだ。15時を知らせる鐘の音を聞きながら、俺もリサの傍へと歩を進めた。
「アーニャ、お前はお医者さんや看護師さん達の手伝いに取り敢えず行って来い。必要なものを運んだりしてやれ」
「師匠、了解ニャ!」
ビシっと敬礼をしてアーニャは走って行った。今は静かに待つよりも、動いている方が精神的に良いだろう。
「リサ、それでスラフの容体はどうなっているんだ」
アーニャの姿が見えなくなってから、俺はリサに問いかけた。その瞳は今も潤んでいる。
「…早くに見つける事が出来たおかげで一命は取り留めましたが、右手と左脚が…もう、動かないかもと…」
「…そうか…辛いな」
銀翼亭は倒壊してしまったらしい。その際に客の避難を優先したスラフは、右手と左脚を倒壊して来た建物の柱などに挟まれ、重傷を負ってしまったようだった。
「左脚に関しては、切断も止む終えない状態…です…」
そこまで話すとリサの両目からは光るものが幾つも零れ、俺にしがみ付くようにして声をあげて泣き始めた。俺はそんなリサの頭を抱え込むようにして抱きしめ、目の端から零れそうになるものを堪えるようにして天を仰いだ。
そして…
――この場が混乱する可能性もあるが、やろう。いや、やるんだ!
「エリアヒール!!」
気合を籠めるようにして周囲一帯、広場全体を覆うように魔力を解き放つと、光の柱が広がるようにしてその一帯を清めていくのを感じた。
「え、おい、傷が…」「火傷が消えていくわ!」「目が!目が見えるぞ!!」
そこら中から歓喜と驚きの声が入り混じって聞こえる。
「ビイト…さん…?」
驚き泣き止んだリサの頬を拭うと、俺はスタスタと天幕へと足を進めた。そこには重症者達が幾人も寝かされている。そして迷うことなく入口から奥へと向かって、一人一人に最上級回復魔法を行使する。
「君、ここは重篤者の為のテントだ。いったい何を――」
「エクストラヒール!」
魔法を唱えると、布の上に横にされていた少年の体中を蝕んでいたケロイドがバリバリと剥がれ落ち、爆風に吹き飛ばされたであろう手の指が、光を纏うようにして再生された。
「エクストラヒール!エクストラヒール!!エクストラヒール!!!」
足を失ったはずの老人の足を再生し、顔の皮が無くなり耳や目を血だらけにしていた女性を治し――
その気迫のこもった俺の姿に、町医者の老人も、助手の青年も、看護師達も、誰一人止めようとする事無くただただ茫然と見つめていた。この時の俺はただ無心だった。目の前の人達を救う事だけを考えていた。
「エクストラヒール」「エクストラヒール!」
天幕の中に居た重症者は20人くらい居ただろうか?中には既に手遅れだった人も居たが、俺は足を止めなかった。
「エクストラヒール」
最後にスラフの病床に立つと、疲労がこみ上げてフラフラとしていた。MPは無限でも、やはり疲れは出るようだ。そんな俺に、薬によって眠っていたはずのスラフが微笑みかける。
「よう兄弟、また随分と無茶をしているな」
「そうか?SSランカーにとって雑作もない事さ」
「なるほど、流石はSSランカー様様だな」
ふら付きながら笑みを浮かべると、周り中から歓喜の声と称賛の声があがった。そして俺は、それに応えようと振り返ると、意識を失ったのだった。




