戦禍のイーシス①
町には火の粉が舞い、警鐘の甲高い音が響き渡っていた。
ファルコ王国西部にあるイーシスは港町である。それ故に漁業が盛んな町であり、王国の戦闘艦なども配備されており、頻繁に演習なども行われる軍港でもあった。しかし今、その軍港は炎に包まれ、30隻もの戦闘艦の大半…20隻ほどを損失してしまっていたのだった。
「敵はどこから狙い撃って来ている!」
「沖合からです!精度の高さや威力からスケア帝国軍でしょう!」
「そんな事はわかっている!我が国へと侵略してくるような国が、帝国以外にあるものか!それよりも索敵係は何をしていた!!射程に入るまで居眠りでもして――」
「本部に向かう熱源あり!!!」
「!!」
ズドドーン
戦闘艦とは謂え、ファルコ王国製の艦は帝国製に比べれば少し時代遅れの旧式と言えた。また、その武装の射程も威力も比べるまでもない事は明白であろう。侵攻からわずか1時間ほどで、イーシスの基地は炎に包まれ沈黙したのだった。
「ハムラビの方はどうなっている?」
「はっ!本国からの連絡によりますと、転移アイテムで先程帰還した模様であります!」
「そうか、では我々も帰還するとしよう。ついでだ、炎術式のミサイルをイーシス基地の中心部にでも撃ってから帰港をする」
「了解であります!」
スケア帝国海軍は置き土産を残すと、イーシスに上陸する事無く去って行った。彼等にとって時代遅れな国であるファルコ王国など、まるで眼中にはないと言っているかのような引き際であった。
そしてこの日、スケア帝国に隣接する幾つもの町や都市が焼かれた。それはファルコ王国のみならず、バーダナム共和国など幾つもの国が被害を受けたのだった。
「酷い有り様だな。特に軍港は跡形もない状態だ」
「そうね。町の中央の損壊も酷くない?」
「あれはギルドの館が建ち並ぶ位置だ…」
ドギはグリフォンのブリッジのメインモニターに映し出された映像を見ながら歯噛みしていた。ギルド職員達も同じように歯噛みする者、泣き崩れる者と居る。
「グリフォンを以ってしても間に合わなかったか…」
その白い船体は、今イーシスの上空にあった。
全長600m、艦首部分には開閉型格納庫があり、内部にはカタパルトも装備されている。主な武装としては格納庫より下に超大型陽電子砲1門、甲板に400mm3連装砲3門、両舷に250mmレールガン1門ずつ、他にも対空砲やミサイルなども装備している。
ブリッジは戦闘時に収納可能になっており、電磁バリアや魔法陣を展開する事で形成される魔法バリアなども装備している。これは術式を変える事でリフレクターにもなるし、艦首に槍型に展開させる事も可能だ。
さて、レイド島で急いで冒険者達をグリフォンに収容すると、北東待機所のクルーザーは待機させたまま、全速力で飛行艦グリフォンは飛んだ。しかし今、目の前にある光景に俺達は愕然とする事となったのだった。
『不明艦へ伝達、何処の艦か所属を明らかにせよ』
王国の残存部隊であろう、光魔術による点滅で着水したグリフォンに指示を送っている。ドギは慌てたように職員にギルド旗を甲板上に掲揚するように指示を出し、俺も少し慌てながらアイテムボックスから旗を取り出して職員に手渡した。
「そうでしたな。荷物類は全てビイト殿に預けていたんだった」
「いや、俺も失念していた。初めからギルド旗を掲揚していれば良かったんだよな」
旗の掲揚を見届けると、また指示が来た。軍港は火の勢いが弱まらず接岸不能である為、漁港沖に停泊してほしいと言う意味合いの指示であった。元よりその気であったので、特に方向転換もせず真っ直ぐと漁港方面にグリフォンを向けた。
『各員、スタンバっておけ!艀舟は3艘ある。まずはドギと職員、その後の舟に冒険者諸君は乗ってくれ。尚、操舵可能な者は各舟の操舵を頼む』
名艦長にでもなった気分でマイクロフォンで伝達すると、索敵操作をするカレンと各部出力チェックをしているセレナをチラリと見た。イーシスの惨状を見た後のせいか、二人の表情は真面目そのものである。そんな二人を見て、俺は少し反省した。
「師匠ー!師匠は降りにゃいのか?」
「へ?アーニャ?お前まだ居たのか?」
「ウチは師匠の付き添いにゃ」
あ、そうだった…。アーニャは今回助手として付いて来てたんだっけ。周りを見ると、既に俺達転移組3人+妖精とアーニャしかいなくなっていた。
「あー…小型ヘリが格納されてるから、それで上陸するつもりなんだが…」
あれは確か二人乗りだったような…?
「じゃあ、ビイトとアーニャで行ってきなよ。私達はここで見張ってるから」
視線を投げると、飛行艦グリフォンの事も熟知していたカレンが答えた。この状況下ではグリフォンは出しっぱなしにしておいた方が良いだろうし、一人よりも二人に残っておいてもらった方が良いだろう。
「わかった、艦の事は任せた。留守番よろしく頼む」
「任された!」「任せておいて!」
二人から同時に声があがる。俺は軽く手を挙げると、艦長席から飛び降りてアーニャと共に格納庫へと向かった。
「スラフとリサ、無事かニャー…」
操縦桿の操作に集中していた俺だったが、アーニャのそんな一言に機体を動揺させる。そうだ、銀翼亭はギルド会館の建ち並ぶエリアに割と近い。リサはたぶん看護師の仕事で出払っていただろうが、スラフは銀翼亭に居た事だろう。
「リサは無事なら怪我人の処置に飛び回っているかもしれないな」
「スラフは?師匠、スラフはどうニャ?」
「…あいつの事だから、ひょっとしたら炊き出しの準備でもしてるかもしれない」
あくまで希望的観測だ。何の確証もない。操縦桿を握る手に汗が止めどなく流れ、幾度か滑らせそうになりながら、俺は小型ヘリの機首を繁華街へと向けていた。




