レイド島探索2日目④
「マスター!お助けに参りましたー!」
突如現れた天空に伸びる光の柱から降臨したのは、幼馴染のカレン、同僚のセレナ、そして何故か『妖精王女プニコリエール』とこの世界で崇められてしまっている、俺が作ったAIの『ぷにこ』だった。
「プニコリエール?」
「はい、妖精の王女様です。時として民を導き、時として神の代行者として勇気ある者を導くお方です」
――待て待て!なんか感涙しながら語っているがフィニアさん?あれはそんな大層なものじゃなくて、俺が作ったAIが扮している妖精で…ん?妖精…ガイド妖精…ああ、なるほど。この世界ではそういう解釈になるのか。
三人(?)は地に降り立つと、俺の元へと駆けて来た。いや…正確にはセレナは熟睡状態でカレンに背負われていて、ぷにこはカレンの頭にしがみついた状態である。
「ビイト、会えてよかったよー」
「あ、ああ、だけど、どうやって来たんだ?」
「マスター、それに関しては私が」
カレンの頭の上で胸に右手を添え、ぷにこは仰々しく頭を下げる。まるで執事か侍女のようにゆったりとした動作だ。
「この世界へのアクセスは、一度解放された後の為か思った以上に容易でした。マスターが消失された時と同じ条件を与える事によってカレン様だけでなく、ご覧のように私とセレナ様もこうして参る事が出来た次第です」
「消失…そうか、俺は転移して来たと云う事でいいんだろうな。で、元の世界への戻り方のプランはあるのか?」
「…」
「ぷにこ?」
「………」
「カレンは?」
「………………」
「「「………」」」
二人共フリーズしている。釣られて俺もフリーズ。もしかして、策なしで来たのかお前ら。
「あ、えーと、そう言えば容易に来れたと言っていたけど、PCの復旧には1週間もかかったんだな。やっぱり復旧させたのはセレナか?」
「はい、セレナ様が……」
「1週間……?」
なんか、また二人が凍り付いてるような?
「どうしたんだ?」
「いや、あの、ビイト…」
「あの、私共はマスター消失のあと、4時間程で復旧して、今ここにおります」
「4時間…?」
「そう、4時間」
――4時間?あっちではたったの4時間だと?
カレンとぷにこが、何故か申し訳なさそうな表情で俺を見ている。待てよ、つまりこの世界は…
「ゲームの初期設定通りに、時間が加速しているのか?」
「はい、恐らくそのとおりかと思います」
――つまりこの世界にあまり長く居ると、無事帰還できた時には現実よりも年齢が…いや、そもそも戻れるのだろうか?
そうして戸惑う表情の俺達に、フェニアがようやく口を開いた。アーニャはと言えば、突然現れた異邦人に驚き、いつの間にか俺の背中から降りてフェニアの後ろで袖を引くようにして隠れている。
「妖精王女様、勇者様、そしてビイトさん、間から口を挟む事をお許しください。皆様の会話から察しますると、やはり勇者召喚を以って皆様はこの世界にいらっしゃった、そう云う事で間違いはないかと思われます」
「そうなの?」
「ん、ああ、この世界で言えばそうなるんだろうな」
『妖精王女』を目の前にしているせいか、フェニアの様子が鼻息荒くも仰々しい。力のある妖精は、この世界に於いて最も敬意を払うべき対象の一つなのであろう事が窺える。
――…と言うか、今俺、大勢の前で今までの現象を勇者召喚として認めてしまったな。これはもう、虚偽の報告が出来なくなったか。
俺が深く溜息を吐くと、その意味に気付いたフェニアが「あ…」と小さく言い、俯いた。妖精王女の降臨に興奮して、我を忘れてしまったのだろう。…いや、そもそも俺も普通にカレン達と会話をしてしまっていたし、フェニアを責められたものではない。
そんな俺の失策を、きっとヤーン達帝国兵は笑みを浮かべて見ている事だろうと思いヤーンに視線を送ると、ヤーン達は歯軋りをしているようだった。どうやら、連中の思惑を越えた状況であるようだ。
「ともかく皆、魔竜討伐での疲れがありましょう。一旦拠点へ戻ることとしましょう」
アドリア―ナのひと声に救われた気がする。疑問を抱えながらも皆が拠点への帰投を始め、俺はカレンに代わってセレナを背負った。そして今頃になって二人の恰好をマジマジと眺めた。
「普段着なんだな」
「え?うん、言われて気付いたわ。ログインする時は、作ったアバターだったはずなんだけど」
「セレナ様もログインの際には私が急遽作ったアバターでしたが、この世界に入った時には元のお姿に戻っておられました」
――なるほどな、俺はアバターのままなんだがなぁ…
その晩、疑問を抱えつつも拠点に於いて宴が催された。そして酒の匂いに勘付いたようにセレナが目を覚まし、初めは首を傾げていたようだったが普通に宴に加わっていた。酒豪恐るべし…。
『…ガ…ガガガ……本部よりハムラビ…ガガ…作戦は成功…撤退方法は任せる…ガ…以上――』