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現実世界(カレンとセレナ)

 混乱する頭を抱えながら、私は途方に暮れていた。


――ビイトが消えた――

 それは紛れもない事実。でも、受け入れがたい現実。


――そうだ警察に連絡…!!

 警察に何て言うの?…事実を言ったところで、きっと理解してはもらえない。


 そんな堂々巡りを繰り返して1時間半、スマホの着信に気が付いた。


 ブーンブーン


――あ、セレナからの着信…彼女ならわかってくれるだろうか?あ…でも…

 葛藤をする間にも、スマホのバイブレーションはビイトの部屋の中で響いている。


――そう、とりあえず、とりあえずでいい。セレナに話してみよう






 着信を受けて1時間、酔いどれのセレナがビイトの部屋にやって来た。


「なになに~?どうしたってのよ~」ヒック

 ビイトからも聞いていたが、なかなかブラックな職場らしく、セレナは毎晩お酒で気を紛らわせているのだ。そして今日も深酒をしていたようで、足元がふらついている。


 てか、そんな状態でよくここまで来れたものだと、呆れと驚きの視線を送ってしまっているワタシがいる。


「ビイトが消えら~?カレン、あんたも酔っ払ってるの~?」

「いえ、シラフです」

「あのね~、酔ってないっれ自分で言う人は酔っれるって言うれしょ?」

「いえいえ、全く呑んでないので」


 呂律も回ってない…どうしよう…。ああ、でも今頼れる(?)のはセレナだけだし…とりあえず経緯を話さなきゃ。。。





 そうして小一時間、酔っ払い相手にワタシは半ベソをかきながら経緯を説明した。酔っているせいか、割とセレナもワタシの話しを受け入れて…いるんだろうか?ある程度聞き終えると、セレナはゴソゴソとビイトの部屋の押し入れを漁り始めていた。


「セレナさん?何をされているので?」

「えっとね~、ビイトのPCの焼けたパーツの予備を探してて~…あ、コレすご!セーラー服モノのDVD」

「おお、奴も男の子ですねー。でもよりにもよってセーラー服モノとは……って、探してる物が違うでしょ!!」


 機械の事はよくわからないけれど、軽くじゃれ合う恰好になりながらワタシも一緒に押入れの中の捜索に加わる事にした。そして数分、お目当てのパーツの入った箱を見つけると、セレナはドライバーを片手に部屋の大半を占めている『ビイトお手製PC』の前に座り込んだ。


「えっとー、コレがこうなっててー…あー…ビイトの事らからコレとコレかなー?」

 手慣れた手つきでパーツを外していくセレナの横で、ワタシはただボーっとしている。…だって、よくわかんないし。


「うーん、らいたい換装し終わったし、電源入れてみよっかー」

――セレナ氏…未だによよいの酔いですね。本当に大丈夫なのかなぁ…。




 電源が入ると、何事もなかったかのようにビイトPCは起動してくれて、ちゃんと画面の向こうには『ぷにこ』ちゃんも正座をしてお出迎え…え?正座?


『この度は、機能停止をしていたところを助けていただきまして、誠にありがとうございます。えー…カレン様と…どなた様…?』


 PCのモニターの上に設置されているカメラがキュイキュイと音を立てて作動している様は、まるでぷにこちゃんの困惑を表しているようで、少し滑稽。思わずクスリと笑ってしまった。


「あらしはねー、ビイトの同僚でー、カレンの高校の同級生なのー」

『マスターのお仕事のご同僚様ですか、メンテナンスありがとうございます。私はこのPCに常駐しているAIの『ぷにこ』と申します』

「えへへー、ぷにこちゃんご挨拶もできるんらねー、えらいえらい」


 あーコレいっこうに話が進まないパターンだわ。仕方ないなぁ。。。


「…彼女は日向井 瀬玲奈、セレナと呼んであげて」

『カレン様、了解しました。セレナ様、以後よろしくお願い致します』

「あは~、よろしく~」


 ああ、こんな酔っ払いにも丁寧な対応…なんて良い子なの、ぷにこちゃん…。て、それどころじゃないわ。


「ぷにこちゃん、復帰早々悪いのだけれど、ビイトが消えてしまったの。貴女の方で何かわからない?」

『マスターがお隠れに!?』

「いやそれ、言い方!」

「あはは~、ぷにこちゃん面白~い」


 面白くないわ!酔っ払いは黙ってて!


 そんなわけで、ざっくりとぷにこちゃんにも経緯を説明した。


『一応オーバーヒート前後の様子をHDDに記録しているはずですので、暫くお待ちいただけますでしょうか?』

「ええ、お願いね」

「頑張れぷにこ~~、いけいけぷにこ~~~」

「騒がしいわ!!」ガポッ


 ちょっとお冠になったワタシは、セレナの頭にVR端末を乱暴に被せて黙らせる。その間にもぷにこちゃんの解析は行われているようだ。モニターには解析のパーセンテージを示すグラフが表示されていた。なんてこの子は働き者なんでしょう。




 そうして数分の間の沈黙のあと、ワタシの隣りからは気持ち良さげな寝息が聞こえてきた。あー…セレナ寝たのね。お疲れ様。


「どう、ぷにこちゃん?」

 未だ解析は70%くらいで止まっている。不安になったワタシは、ぷにこちゃんに声をかけていた。


『………馬鹿なと思われるかもしれませんが、一つの仮説を提示させていただいても宜しいでしょうか?』

「…ええ、いいわ。もう既に、密室ミステリーが発生している状態なのだし」


 酔っ払いのテンションが伝染したのだろうか、気付けばワタシも変なテンションになっていた。そしてぷにこちゃんの仮説を正座して聞く体勢をとっていた。


『…本当にこれは一つの仮説です。突拍子もない内容となりますがご容赦ください』

「はい、覚悟しております」




 そうして彼女の仮説を聞いたワタシなのだけれども…正直よくわからなかった。オーバーヒートによって発生した電磁場がどうとかで…えーと…。


――発生した電磁場によって空間に歪みが生じて異空間と繋がり、ビイトはそこに放り出された!

 よくわかんなかったけど、こんな感じ?




「助け出す方法はないの?」

『助け出せるかどうかはわかりませんが、同じ状況を作る事で異空間の扉のようなものを発生させる事は可能かと思います』

「つまり、またビイトお手製の端末でVRにダイブすればいいって事よね?」

『そうなります…』


 AIであるぷにこちゃんが、どこか自信なさげな声色で答えた。でも、ワタシはそれを受け入れる。


「一縷の望みはあるのよね。ならそれに賭けるわ」


 ほんの少しの不安はあるけれど、ワタシは足元に転がっていたもう一つのVR端末を手にすると、目を閉じ、大きく息を吸い込み、静かに頭に装着した。そして、熟睡しているセレナの端末のスイッチを入れると、自分の端末の電源に手をかけ、バイザーを降ろした。


――セレナの同意を得ていないけれど、今はこれに賭けるしかない!ゴメンね!!


「ぷにこちゃん、出来るだけフォローよろしくね」

『了解しました。御武運を』


 ヒュイーンと言う起動音が、耳の奥に嫌にはっきりと木霊してくるように感じながら、ワタシは今日2度目のダイブを始めた。


「さあ、開いてよ!異空間の扉とやら!!」

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