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レイド島探索1日目

 ――レイド島探索初日――


 早朝、北東待機所前で朝礼が行なわれ、実力のあるアドリア―ナパーティーとヤーンパーティー以外の班組み合わせが発表された。この2組だけは単独行動だ。尤もヤーンパーティーに関しては変に冒険者パーティーと組ませるよりも、慣れた帝国式のやり方をさせた方が良さそうだと考えてそうなったようだった。


 ドギを筆頭に、ギルド職員達の目の下には立派な隈ができている。相当ヤーン達の扱いに悩んだのだろう。組み合わせ表をよく見ると、修正液の跡がそこら中にある。清書する余力さえなかったようだ…。


 こうして一行は川を目指して一旦南下し、川沿いにホゾナ山を目指す。


 …川とは言うが、大きさは荒川か隅田川くらいある。日本人の感覚的には十分大きな川ではあるのだが、こちらの人達の感覚では『小川』らしい…。初めて日本に来た外国人が瀬戸内海を見て「日本にもちゃんと川があるじゃないか」と言ったという逸話があるが、まさに感覚としてはそれであろう。


 先頭をレンジャー隊Cランカー、そのすぐ後ろをヤーン隊、続いてBランカーに囲まれるようにして俺とアーニャとドギ率いるギルド職員達、そして殿(しんがり)はアドリア―ナ隊である。


 川――ミーネス川への進行中に幾つかの小戦闘はあったが、レイド島では沿岸部の魔物は大して強くはない為、特に被害はなかった。問題は、ここから中央へと進めば進むほど強い魔物が出現するようになっている仕様になっている事だ。

 そしてその中央へは、徒歩で2日はかかる。




 川沿いを暫く進むと、リープアリゲーターの群れが岸辺に屯していた。リープアリゲーターはその名のとおりリープ=跳躍するワニ型の魔物で、全長は8~12mくらいある。その跳躍力は、通常のワニ型の魔物よりも強靭な後ろ足と尻尾によって生み出され、10m以上もある体躯でありながら6~7mも飛び上がったとの記録がある。――と設定してたな確か。


 そういうわけで、今の俺達は音を立てないように川岸から少し離れた茂みを進んで…ペキッ



「あ」

「!!?『あ』じゃねぇ!!」


 たぶん枝を踏んづけたようだ。瞬時にドギの怒声が俺に向けられた。…いや、怒声なんかあげちゃマズくないか?ほれ、ワニさん達が一斉にこっちを向いたぞ、ドギよ。


「ギルマス!そんな大声をあげたらアリゲーターに気付かれます!」

 いやいや、もう気付かれちゃってるってば。てかファシアナ嬢、お前も十分声がデカいぞ。


「くっ!全員走れ!この先の岩場まで辿り着ければ奴らも追って…こないはずだ!!」

 まてまて。今どもったうえに『はず』とかぬかさなかったか?



 勿論こんな俺達のやりとりなんざをワニさん達が気にかけてくれるはずもない。後ろを振り返れば、ピョンピョン飛び跳ねながら追い駆けて来るワニの群れ…。


「師匠、なにやってるニャ?あれほど音をたてるなと自分も言っておきニャがら…」

「いや待て、枝を踏んづけた時はまだリープアリゲーターも気付いてなかっただろが!悪いのは大声あげたドギだろ!?」


 全力疾走をしながらアーニャと口論になるが、ドギとファシアナは明後日の方向を見ていて俺と目を合わそうともしない。…こいつらは!!!


「ドギ、てめえギルド総本部に行ったらおぼえてろよ!!」


 この台詞はさすがに効力があったようだ。青い顔をしてドギが俺の方を振り返った。へっへっへっ!アークマスター様を舐めるなよ。

「ビイト殿!それは世にいうパワハラと云うものではないのか!?」

「知るか!」


 そうこうしている間に岩場に辿り着くと、冒険者達もギルド職員達も息を荒げながら固い岩の上に突っ伏してしまった。そんな俺達を、ヤーンはニヤニヤしながら眺めている。


「ほう、どこかの企業様の研究員かと思えば、どうやらビイト殿は冒険者組合のお偉いさんのようだな?」

 ヤーンよ…お前、本当は知ってて言ってるだろ?へばってるC、Bランカー達がざわつき始めてるじゃないか。やめてくれ。でもまあ、口を滑らせた俺も悪いんだがね。。。


 舌打ちをしながら後ろを振り返ると、リープアリゲーターの群れは諦めて川の中に戻っていた。生息域を曖昧に設定していたと思うのだが、意外にきっちり守っているようで安心した。しかし、あんな所でお約束のように枝を踏むなんて…これは『運』のせいなのか?




 正午を過ぎた頃、ようやくミーネス川も1/3を踏破したようだった。…飛べば早いんだがな。偽の情報作りには証人が多ければ多いほど良いし、仕方ない。


「このペースなら今日中にミーネスの2/3は行けそうだな」


 用意されたスープを啜りながらドギが切り株の上に地図を広げる。スキルで現在地を確認してみると、スキルで感知している位置とドギが地図で示した位置に差はそれほどなかった。優秀なマッパーがギルド職員にいるのか、ドギが優秀なのかは謎だ。




 そうして陽も落ちる頃にはドギの言うとおりミーネス川の2/3を踏破し、野営の準備となる。


「ビイト殿、ギルド支給の天幕をお断りになられていたが、本当にこの人数分の天幕、ビイト殿の私財で足りるんですかい?」


 不安げな表情のドギと、その後ろにはファシアナ嬢を始めとしたギルド職員の面々が並んでいる。俺はそれを無視するようにしながら、アイテムボックスの一覧からある物を探していた。


「あ、コレコレ」


 夕闇の中、一瞬閃光が走る。そして閃光が走った直後には、ギルド職員のみならず、冒険者達からも声があがった。


「なんだこりゃ!?」「フェンス!!」「建物がいきなり現れたぞ!!」「物見櫓まである!」


 そう、俺が取り出した物…それは『汎用拠点』である。防護バリア付きのフェンスに物見櫓、鉄筋コンクリートで出来た宿舎を完備。厨房やトイレ、シャワー室などもあるのだ。


「おいおいおい、こんな物があんたのアイテムボックスには入るってのか?」

 さすがのヤーンも口をポカーンと開けている。


「ボクもアイテムボックス持ちですが…こんな物入りません」

 勇者のアドリア―ナにまで呆れられているような…。そうか、NPCってそこまで収容できないんだ…へぇ…飛行戦艦とか出したら、もっと驚かれるだろうなー…などと考えながら、溢れる気持ち悪い汗を拭く。

 横を見ると、アーニャまでもがポカーンと口を開けている。


「…えー、皆さん、入り口はこちらです」

 皆が呆れ、驚愕している姿を無視して、俺は扉の前へとスタスタと一人歩き、何事もなかったかのように開錠した。


――明日も朝は早いのだ!皆現実を直視するのだ!!ギルド職員共よ、貴様らはこれから晩飯を作らねばならないはずだ!さあ、みんな現実に帰ってこーーい!

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