現実世界(カレン)
「ああ、確認したら俺も落ちる。出来たらコーヒーでも作っておいてくれたら嬉しい」
「はいな。砂糖多めよね?」
そんな会話をして、私――豊田花蓮はアイツの作ったゲームから現実へと帰ってきていた。
「コーヒー豆は確かこの辺の棚だったはず…」
ゴソゴソと勝手知ったる他人の家を漁る。部屋は機材でゴチャゴチャしている割に、キッチンは片付いている。アイツらしいと言えばアイツらしいと私は思う。
「えーと、コーヒーメーカーはキッチンのポットの横で…」
コーヒーメーカーを見ると、コンセントが抜かれていた。
そういうところはちゃんとしてるのね。
コンセントを差し込みスイッチを入れると、一瞬室内が暗くなった気が…。
「あ、エアコンを切らないと落ちるかも」
そう口走った瞬間に、案の定バスンと音をたててブレーカーが落ちた。
そうだった。ビイトがいつも言っていたっけ。「お手製PCの電力消費が激しくてさ、エアコンつけたまま別のモノを着けると、すぐブレーカーが落ちるんだよ」って。
幸い昼間で助かったわ。夜だったら何も見えなくなってパニックを起こしたろうけどね。確か冷蔵庫の上にブレーカーが…あったあった。
すかさず私は箒を握る。そして呪文を唱えるのだ。
「眠り落ちたる電気の精霊よ、今ここに目覚めよ。ブレーカーオン!」
高い位置にあるブレーカーのスイッチを、箒の柄の部分で押す。落ちているのはメイン、お前か!!
ブンと云う電気の起動音を聞きながらエアコンが切れている事を確認して、再びコーヒーメーカーのスイッチを入れると、今度は普通に動いてくれた。
…ん?そういえばPCとVRは大丈夫なのかしら?
気になって部屋に戻ると、VR機を被ったまま横たわっているビイトの姿と、再起動してスタート画面になっているPCがそこにはあった。…でもビイトが起き上がって来る気配がない。ひょっとしてVR被ったまま寝てるの?
「ビイト?再起動してるのにいつまでVRしてるのよ?」
ビイトを揺り起こそうと手を伸ばすと、PCの方からブツリと云う音が聞こえ、私は不安からそちらに視線を送った。…でも、送るべきではなかった。
そこには暗転したモニターと、暗くなったモニターの中に不安な表情を浮かべた私だけが写っていた。
そう、写っていたのは私だけだった。
振り向くと、アイツが横たわっていたはずの場所にアイツの姿はなく、ただVR機だけがそこにはあった。
プチホラーな展開で終えましたが、構想段階からやりたかった場面の一つです。
それだけにやたらと詰め込まずに、あっさりと筆を置く事にしました。
物足りないと感じるかもしれません。
もうちょっと勉強します。