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北東待機所

 当たり前だがクラ―ケンに遭遇する事はなく、何事もなく平穏に調査隊はレイド島に到着した。揺れも少なく快適な船旅だった。俺以外は皆拍子抜けしているようだったが気にしない。


 …と言うか、レイド島って渡航するのにも毎回大変な目に遭うほどには設定していなかったはずだ。いや、そもそもそこまで細かい設定や調整すらも考えていなかったと思う。何しろレイド島自体が『レイド戦を愉しむための島』という位置づけなのに、そこまで行くのにも苦労させられたのでは堪らんだろうし。



 港にクルーザーを着けると、各パーティーは各々の装備を確認してから下船した。俺はドギ含むギルド職員達と共に下船…アーニャは何故か先にアドリア―ナ達と楽しそうに下船して、港の待機所に行ってしまっていた。


――アーニャ…お前は自分の仕事を理解しているのか?


 下船が終了すると、クルーザーは沖合へと移動した。魔物達に対する自衛の為だ。こうする事で陸棲の魔物から船体を守っている。逆に海棲の魔物が襲って来た場合は港に戻って来る事にはなるんだが、海棲の魔物が襲って来る事は特定海域以外では稀なのだ。




「ふうん…これはまだまだ使えそうだ」


 港の待機所は多少老朽化してきてはいるが、平屋建ての鉄筋コンクリートと思しき作りになっていた。その周囲には防護の魔法結界に加えて、魔物除けの結界も張られている。

 さてこの待機所というものは、レイド島に於ける安全地帯として設置したもので各港にある。アベルガルド側に2か所、カインデル側に3か所の計5か所だ。


 ここカインデル側北東待機所は、小規模ではあるが給湯室、シャワーなどを備えている。今日はここに宿泊する。

 到着早々、既に夕刻と云う事もあり、女性冒険者達が皆シャワー室に殺到した。乗って来たのが大型クルーザーとは謂え、多少なりとも体についた潮が気になるのだろう。


 男性冒険者はと言えば、率先して周囲の警戒に回る者もいれば、地図と睨めっこを始める者と様々だ。そしてドギ率いるギルド職員達は、夕食の支度を始めていた。待機所の厨房をゴツイギルマスがエプロン着けて歩き回る姿は、どこか滑稽だ。


「ビイト殿!その笑いを堪えるような仕草はやめてくれ!」


 あ、しまった、気付かれた。ドギに思いっきり指を差されて俺に一瞬視線が集まったが、すぐに冒険者や職員達の視線はドギに集まり、そこら中から噛み殺したような笑い声が溢れた。うん、オレ、ワルクナイ。


 アイテムボックスから職員達に言われた食材を出していると、物珍しそうに幾人かの冒険者達が厨房を覗きこんでいた。俺の横で出てきた食材を職員に手渡すアーニャも、口をポカンと開けている。


「お師匠は凄いニャー…」

「いつから俺はお前の師匠になったんだ…」

 今まで呼び捨てだったはずなんだが?



 俺の設定外の事でちゃんと認識していなかったのだが、アイテムボックスやストレージは超空間魔法の一種だそうだ。イーシスの本屋でこれらについて立ち読みしたんだが、どうやらギフト以外にもこれらを取得する方法はあるらしい。


 一つは魔法使いになり空間魔法を会得する事によって得る方法。しかし空間魔法自体が魔法の中でも上位の魔法であり、その上の超空間魔法となると、かなりの研鑽を積まねば会得できないようだ。


 もう一つは神官として神に仕える事によって得る方法。こちらはギフト同様に神の気紛れで会得するものなので、欲しくても簡単に得られるものではない。


 ―と言ったように、NPC…いや、こちらの世界の人々がアイテムボックスなどの能力を得られる方法は、実に少なく厳しいのだ。それこそギフトとして所持していようものなら軍隊、魔法ギルド、商業ギルドなどで重宝されるし、黙っていてもセレブの仲間入りが出来る代物と言っていいだろう。



「今回の調査任務はお師匠の一声がニャければ参加できなかったわけニャし。こうして格下のウチを導いてくれている。コレ即ち師弟ニャ」

「…うん。わかったようなわからなかったような…まぁ、いいや」

「ならば今日からビイトはウチのお師匠ニャ」

「そうか、そういうことにしておくか」


 俺達はそうしてケラケラと笑いながら作業を進めた。すると、それまでぴりぴりとしていた周りの職員達にも笑顔が漏れていた。これでいい。ギスギスしていては良い結果なぞ得られるわけがないんだ。






「こちらヤーンだ。ファルコでの探索任務に今のところの異常はない。観察対象との関係についても今のところは良好だ」

『了解した。引き続きの監視、監察を』

「了解だ」


 プツリと魔導無線機の途切れる音が深夜のレイド島に響くと、ヤーンは軽く溜息を吐き、頭を掻きながら夜間巡回経路に戻った。


「ふん。デスクワークの猿共が」

 煙草に火を点けながらヤーンは忌々しげに夜空を仰ぎ見て、深く深く煙を吸い込むと、静かにゆっくりと吐き出したのだった。

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