ダンジョンへの帰還
今回ちょっと短めです。
「……魔族とか妖精にもさ、色々なやつが居るんだな」
シルフの洞窟を後にして、帰ってきた自分達のダンジョンの中でぽつりと呟く。
「優しくて友好的だったり、活発で明るかったり、大人しかったり、戦うのだって、好きなやつもいれば嫌いなやつもいて……。そう、人間みたいにさ」
突然何を言い出すのかと注目を集めながら、ミヒトはバツが悪そうに頭を掻いた。
「俺さ、大きな魔物とか、人型の魔物なんて、みんな人間を襲う凶悪なやつしか居ないって思ってたんだ。小さい頃住んでた村が、魔物の群れに焼かれてさ……」
ティナ達に会ってからその考えはすっかり変わったのだが、無知を恥じて俯くミヒトの肩を、サリーが力強く背後から叩いた。
「ワタシもそんな感じデシタ! 町に居ない人間は恐ろしくて、特に武装した冒険者は吸血鬼と見れば目の色を変えて襲い掛かって来るって聞いてたし、そう信じてマシタネ」
「魔族も、人と交流がない方達は皆さんそんな感じだと思いますよ。……私達はきっと、知らなすぎるんです。これから手を取り合うかもしれない、お互いのことを」
泉の中で尾鰭を伸ばしながら、ティナは胸に手をやり、現状を憂いた。
魔界と人間界という強大な世界戦争が終わった今の世界は平和であるように見えて、互いの間では、一歩でも縄張を犯せば殺されるような緊張状態が続いている。
裏市場では愛らしい魔物を捕まえ、調教した奴隷や剥製も出回っていて、例え人型をしていて知能があっても、魔族である限り人権はない。それが、今の人々の総意であった。
「それがわかっただけでも、良いことじゃないですか」
「きゅぴー!」
マリオンの頭の上でスーが元気良く鳴いた、次の瞬間。
――ゴオオォォォォォォン!!
轟音の直後、洞窟内を凄まじい揺れが襲う。
「みんな伏せろ!!」
ミヒトは近くに居たサリーを引っ張りよせて岩陰に隠れ、その近くではマリオンが防災頭巾のようにスーを被って俯せになっている。
少しすると揺れは止み、水中に潜っていたティナが顔を出した。
ミヒトも身を起こし、どこか崩れてはいないかと周囲を見回す。
「地震……にしちゃ短いな、すごい音もしたし、入り口近くの崖が崩れたのかも」
このダンジョンは崖の麓にある岩の隙間に掘られている。もし崖崩れでも起きたのだとすれば、先の現象にも納得が行くが、それより入り口が塞がってないかが心配だ。
「ちょっと見てくるね!」
スーは勢いよく跳ね、小さな体躯を生かして足場の悪いダンジョン内を、かなりのスピードで駆け抜けていく。今まで生きてきた中で、こんなに速いスライムは見たことがない。
「アイツは本当にスライムなのか? まるで」
「スーさんはスライムですよ」
冗談交じりに呟かれたミヒトの言葉を、ティナが遮った。その表情は普段のように柔らかい笑みが浮かんでいるようで、どこか冷えているような違和感を覚えた。
「……はは、そうだよな」
しかし、気のせいだろう、と笑って流した。先の発言は冗談であり、スーはどこからどう見てもスライムだ。スライム以外の何者にも見えない。急に変なことを言うものだから、ティナはそれを気にしただけだろう。彼女はスーとは一番仲が良さそうだし。
「大変だよー!」
噂をすれば、落ちて来ていた砂埃を激しく撒き散らしながらスーが戻って来た。
体の形が少し崩れ、肩(?)で息をする姿はとても慌てているように見える。
「どうした? やっぱり崖崩れが?」
「それどころじゃないよ! 侵入者が――」
再度激しい轟音が起こると同時に、壁の一部が吹き飛んだ。
轟々と舞う濃煙の奥には、人影が見える。最初の揺れから今までの間に、もうここにまでたどり着いたのかと驚愕したミヒトは、煙が晴れるに従って、更に目を見開いた。
「嘘、だろ……キミは……!」
震えた声が、煙の向こうに向けられる。
「――ミヒト。迎えに来たわ」
返ってきたのは、凛として、美しく、かつて憧れた声色だった――




