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第9話:皇太子様が追い払ってくれましたが

「さて、虫はどこにいるんだ?」

「あそこです……」


 観念して天井付近の壁を指す。

 ミツバチらしき虫が我が物顔で鎮座していた。


「ベルの邪魔をするとはいい度胸だな」

『!?』


 突然、フィアード様の身体を激しいオーラが覆った。

 ま、魔力だ。

 全身から迸っている。

 あまりにも激しいので、私の顔にもピシピシ当たるほどだった。

 普通、魔力が身体からあふれることはない。

 そんなにエネルギーを持っている人はそうそういないだろう。

 フィアード様が規格外すぎるのだ。

 

「虫、聞いているか? 貴様はやってはいけないことをした。ベルの執筆を邪魔するという行為だ。これは万死に値する。貴様の命をもってしても償えることではない」

「あっ、ちょっ」


 お部屋がゴゴゴ……と揺れ出した。

 フィアード様は大変に怒ってらっしゃるらしい。

 こ、これから私はどうなっちゃうの。

 そして、今気づいたけど廊下から使用人さんたちが覗いている。

 ドアを開けっぱなしにしていたからだ。

 彼らの先頭にはヴァリアントさん。

 嬉しそうに笑いを堪えているのはどうして?


「あ、あの~、フィアード様、やっぱりヴァリアントさんに……」

「ベル、もう安心しなさい。君のどんな障害も私が必ず打ち砕く。そこで見ていなさい。今から、あの虫を地獄に叩き落とす」

『……っ!?』


 フィアード様が身をかがめた瞬間、虫は猛スピードで窓から出て行った。

 遠くの方でキラリと星になっていた。

 チラリとドアの方を見たけど、みなさんは小さな声できゃあきゃあしている。


「き、聞きましたか!? 君のどんな障害も私が必ず打ち砕く……ですって! 一度でいいから言われてみたいですわ~!」

「あの皇太子様がそんなセリフを仰るなんて! きっと、あのご令嬢にそれくらいのめり込んでらっしゃるのよ」

「今までそのようなことはありませんでしたよねぇ。ああ~、お二人はこれからどうなっていくんでしょう~」


 あ、いや、諸々勘違いされているんですが……。

 すぐに勘違いを正したいのだけど、フィアード様の前で迂闊なことはできなかった。

 そして、フィアード様はまるで聞こえていないようだ。

 ど、どうして。


「なんだ、逃げられたか……まぁ、いいだろう。どうだ、ベル。これで問題ないか?」

「は、はい! 問題ありません! まったく問題ございません!」

「それを聞いて安心した。君に何かあったらと思うと、私は生きた心地がしないのだ」


 すみません、フィアード様。

 諸々誤解されそうなことを仰るのは控えていただいたいのですが……。

 などとは言えるはずもなかった。

 相変わらず、ヴァリアントさんたちはニヤニヤと笑っている。

 さっきのように勘違いされていないことを祈る。


「生きた心地がしない……ですって! 羨ましいですわ~」

「皇太子様から本当に大事にされているみたいですねぇ。見ているだけでキュンキュンしてしまいますわ~」

「これからもお二人の様子は定期的にチェックしないといけませんね~」


 うん……だと思っていた。

 でも、もうどうしようもない。

 私は色々諦めていた。

 虫もいなくなったことだし、フィアード様が部屋から出て行く……ことはなく、ジッとその場に立っていた。

 何やら怖い顔でいらっしゃる。

 ど、どうしたのですか?

 ……そうだ。

 使用人さんたちの話が、今度こそちゃんと聞こえていたんだ。

 フィアード様は私のようなポンコツとウワサになって怒っているのだ。

 そうだよ、そうに違いない。

 だって、私はしがない男爵令嬢。

 対して、フィアード様は帝国の皇太子。

 とんでもない身分差だ。

 ウワサになるだけで大変な不快だろう。


「さて、ベル」


 突然、フィアード様が振り向いた。

 途方もない威圧感だ。

 見られているだけで気絶しそうになる。

 ど、どうしよう。

 こういうときはとにかく謝るしかない。


「はい! すみません! 申し訳ございません!」

「な、なに?」

「とりあえず、ごめんなさい!」

  

 こんな私がウワサを起こしてしまいまして!

 せめて命だけはお助けを。

 ひいいい、死ぬうう。


「……なぜ、そんなに謝れるのかわからん。ところで、部屋の窓に虫除けの結界を張ろうと思うのだが、どうだ?」

「む、虫除けの結界ですか?」

「ああ、今の季節は窓を開けたいだろう。風が気持ちいいからな。だから、虫だけ入れなくする結界を張ってやろう。そうすれば、執筆を邪魔されることもあるまい」


 なんだ、そういうことか。

 どうやら、怒っているわけではなさそうで心底安心した。

  

「大変ありがたいのですが、フィアード様のお手を煩わせてしまうのは申し訳ないです」

「気にしなくていい。大した魔法ではないからな。では、さっそく始めよう。ベルはそこで待っていなさい」

「あっ、フィアード様」


 フィアード様は窓の近くに行くと、窓枠をつつつっ……と撫でる。

 ぼそぼそと呪文らしき言葉を唱えると、窓全体が薄っすら光った。


「よし、これで終わりだ。もうこっちに来ていいぞ、ベル」

「は、はい」


 フィアード様に呼ばれ、窓に駆け寄る。

 薄っすら光ると言っても、別に色がついているわけではない。

 外の景色は今までと同じようにしっかり見えた。

 窓をよく観察すると、空気に膜みたいのが張ってある。

 ふーん、これが結界かぁ。

 初めて見た。


「虫だけ通さない特殊な結界を張った。風はきちんと通るし、この窓から出入りすることもできる。試しに君の腕を出してみなさい」

「たしかに、ちゃんと通りますね。ありがとうございます、フィアード様」


 窓から腕を突き出す。

 何の抵抗も違和感もなかった。

 こんな魔法が使えるなんて、フィアード様はすごい。

 私にはどうあがいてもできないだろう。


「未来永劫、この窓から虫が入ってくることはないから安心してくれ」

「わ、わかりました。これで執筆に集中できると思います」

「なに、君のためならどんなことでもするさ」


 フィアード様は、ハハハハハと笑っている。

 そして、私たちの模様をヴァリアントさん一同は嬉しそうに見ていた。


「ああ、さっきから胸が苦しいのはなぜでしょう……」

「苦しいはずなのに心地よいですわ~……」

「もっともっと見ていたいですわね……」


 フィアード様にはとにかく申し訳ない。

 いったいどうすればいいのだろう。

 

「では、私はそろそろ仕事に戻る。また何かあったらすぐ呼びなさい」

「は、はい。結界を張っていただき、本当にありがとうございました。執筆頑張ります」

「無理しないようにな」


 フィアード様が部屋から出て行く。

 気がついたら、ヴァリアントさんたちは姿を消していた。

 いつの間に……。

 諸々の恥ずかしさと申し訳なさを振り払うように、私はクロシェットの世界に没頭していった。

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