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第33話:湖畔にて

「いやぁ、まさか皇太子様からバカンスをプレゼントされるなんて思いませんでしたぁ~。こういうところに来たかったんですよぉ!」

「喜んでいただけて何よりです、エディさん」


 私たちは山奥の穏やかな湖畔でくつろいでいた。

 フィアード様の管理している湖だ。

 ここで10日ほどゆっくりしてくれ、と言われていた。

 人里離れた場所にあるようで、都会の喧騒などは微塵も感じない。

 蒼い水には晴れ渡った青空と白い雲が映り込んでいる。

 柔らかな雲が流れていく様子は平和そのもので、見渡す限り長閑のどかな世界が広がっていた。

 そして、傍らには真っ白のモフモフが……。


「しかもこんな可愛いフェンリルと一緒に過ごせるなんて、幸せそのものです~」

『拙者もベルの担当と知り合えて重畳ちょうじょうでござるよ』

「ヴァンちゃ~ん……ああ、何という素晴らしいモフり具合……!」


 エディさんはヴァンさんを撫でまわす。

 二人は行きの馬車で意気投合し、すでにかなり仲良くなってしまった。

 そういえば、大きな犬が好きとか言っていたっけ。

 お屋敷の衛兵の方や使用人さんたちも来ているけど、私たちの視界に入らないところで警備してくれているらしい。


「エディさんもが一緒に来てくれて嬉しいです。すみません、急なお話で」

「いえいえ! こんな良い思いができるのも、ベル先生の担当をさせてもらっているからです!」

「こちらこそエディさんのおかげで順調に執筆できています。どうもありがとうございます」


 エディさんは両手を広げてクルクルと回っている。

 見たこともないくらい眩しい笑顔が弾けていた。

 急な話ではあったけど、楽しんでくれているみたいでホッとした。


「これほどまでに素晴らしい景色を独り占めできるなんて、私は本当に幸せ者です」

「リブロール出版の皆さんはなんて言っていましたか?」

「それはもう羨ましがられちゃいましたぁ。でも、この休暇は私の物ですからね。誰にも渡しませんよ」


 フィアード様からお手紙が届いて、リブロール出版は大変な騒ぎになったらしい。

 皇太子様から直々に休暇のプレゼントなんて、それこそ前代未聞の出来事だろう。

 出版社の人たちも快く送り出してくれたと聞いた。


「ベル先生、ちょっと湖で遊びませんか? ヴァンちゃんも」

「いいですね、遊びましょう」

『それがしは水戯れが得意でござる』


 みんなと一緒に湖に入る。

 浅瀬はだいぶ奥まで続いているらしく、ほとりの近くでは足がついた。

 お屋敷から持ってきたボールをポンポンと投げ合う。

 赤い玉が青い空を舞っては降りる。

 単純な遊びだけど結構楽しくて、気づけば小一時間ほど熱中していた。

 

「そろそろ一度休憩しますか? 喉も乾いてきましたし」

「『さんせ~い』」


 湖から上がり、ほとりに差したパラソルシートでくつろぐ。

 太陽はサンサンと輝き、これから命あふれる季節が始まることを予感させる。

 使用人さんたちが用意してくれたオレンジジュースをちゅぅ……っと飲むと、体の中を爽やかな風が吹き抜けるようだった。

 改めて説明する必要もないくらい、心安らぐ幸せなバカンスだ。


「ベル先生、また湖で遊びますか?」

「すみません、少し疲れてしまいまして。私はもうちょっとここで休んでいます」

「謝る必要はないですよ。では、私はちょっと遠泳してきます」


 エディさんは湖に入ると、ドドドドッ! と激しい水しぶきを上げながら泳ぎ出してしまった。

 素人目で見ても恐ろしく速い上に力強い。

 エディさんは水泳が得意だったのかな。

 それにしても、体力がありそうで羨ましい。

 またもや身近な人の意外な一面が見えた。

 ふと横を見ると、ヴァンさんがうつらうつらしている。


「眠かったら無理しないで寝てくださいね」 

『お主はそれがしが守るゆえ、安心して奉り候』


 そうは言ったものの、ヴァンさんはぽかぽか陽気に当てられて、半目で眠気を堪えていた。

 エディさんは水しぶきを上げながら湖を往復する。

 

「……平和だ」


 当たり前のことが幸せなのだと改めて強く実感した。

 運動不足の身では下手すると溺れかねないので、私は湖畔でのんびりしていた。


 遠泳から上がったエディさんと一緒に日向ぼっこする。

 太陽がエネルギーを補充してくれているようで本当に心が安らぐ。

 日も沈みだすと風が冷たくなってきた。


「エディさん。涼しくなってきましたし、そろそろコテージに入りますか? ヴァンさんも」

「ええ、そうしましょう。まだまだ夜は寒いですね」

『それがしも中に入りたいでござる』


 湖の畔にある大きくて頑丈そうなコテージへ向かう。

 三角屋根に短い煙突。

 まるで、おとぎ話に出てくるような可愛い様相に、私たちは心が躍る。

 今日からここで寝泊まりするのだ。

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