ぱいをオカズに飯を食う昼下がり。
ここはとある食堂。
昼間しか営業してないが、冒険者にとって人気の店である。
店主夫婦の妻は厨房にこもっていて、料理担当というやつだろう。あまり姿を見せない。
店主夫婦の夫がウェイターとして、注文から配膳までこなしている。
広い店内だけど、席数が多いわけではなく、大きな通りにあるわけでもない。知る人ぞ知る店で、冒険者仲間からの口コミで知るものが多い。
「どうぞ」
「あ、どうも」
「どーもっす!」
店主夫が料理をスッとテーブルに乗せる。
ガタイが良くて、イカつい感じなのに、物腰柔らかな男前で、女性人気が高いと聞いた。うん、わかる。
酒はないが、飯がうまい。
今日はメインでラザニアを頼んだ。チーズと肉の匂いが香ばしい。
「いやぁ、やっぱいいよね。あの胸筋。私には、どストライクだね。眼福眼福」
向かいの席に座る相方と、この店に来ると出てくる、お決まりの話題である。胸の前で手を組んで崇めたい気分だ。
もちろん、夫店主が立ち去ってから小声で言っている。
「そうかぁ? それよりも、たまにここに手伝いに来てくれる子のおっぱいの方がよくね? ばいーんぼいーんってやつだし」
相方は首を傾げる。私は雄っぱい派だが、相方はおっぱい派だ。
相方とはいえ、異性と胸の話をするのはどうかと思うが、気心知れた仲間だ。今更気にする事なんて無いだろう。いつもこの結論になる。
そしてこの店は雄っぱいと、運が良ければおっぱい両方集うので、その点もお気に入りだ。
「今日は手伝いに来てないな、おっぱいの子。ちぇっ、残念」
「手伝いの子、って言いなよ。部位で呼ぶんじゃない」
口を尖らせる相方。まぁ、私は目当ての雄っぱいを拝めたから良しとしよう。
そして私たちだけでなく、他の奴らもこの手の話をしている。
ちょっと罪悪感が薄れる瞬間だ。
今日はお手伝いの巨乳ちゃんがおらず、肩を落としている奴もいるようだ。
「3割はおっぱい目当てで、ここに来てるんだぞ」
「そんな店じゃ無いんだから、うまい飯を堪能しなさい」
「飯は堪能する。今日見れたのは店主の雄っぱいだけじゃんか。お前だけパイありってずるくね?」
「……雄っぱいだけって、お前は雄っぱいのよさを、これっぽっちもわかってないね。あの包容力の塊みたいな力強さが」
つい熱が入るのは、仕様だと思うしかない。雄っぱいの良さを、もっと相方に知って欲しいと願うのは贅沢だろうか。
「そういうお前こそ、おっぱいの良さがわかっていないじゃないか。大きくても小さくても、雄っぱいには絶対に出せない温もりと柔らかさがあるんだぞ」
もう、店主の胸筋や、手伝いに来てくれる巨乳の子のパイからは離れて、己の推しパイ話になってる。
「あとな、おっぱいらへん、甘ぁい匂いがするんだよ……あぁ、尊い……」
よだれ垂れそうな顔をするな。飯に向かってその顔をしてくれよ。
「雄っぱいだって、逞しくて安心する匂いしてるじゃないか」
そして、だんだんヒートアップする。
「そもそも、雄っぱいは逞しい胸筋を表しているけれど、おっぱいはちっぱいから巨パイまでで、幅広すぎで贅沢じゃないかな?」
これがいちばんの疑問なのだ。おっぱいと雄っぱいの幅の差を感じてしまう。
「あたりまえだろ! おっぱいは全てが尊いんだから、贅沢でいいんだ」
大きなため息が双方から漏れる。
「「恋人欲しい……」」
異性の相方は、恋人関係ではないし、お互い微塵もその気がないのだ。
「やっぱ、店主さんの雄っぱいステキよね」
「でも、奥さんいるんでしょ?」
「そうらしいけどぉ……あのワイルドな身体に抱かれてみたいって思うのよぉ」
少し離れている隣のテーブルから、コソッとした声で聞こえる。あの女の子も雄っぱい派のようだ。逞しい胸筋に魅せられし者だ。
しかも、あわよくば狙っている感が、ヒシヒシとうごめいている。
が、抱かれるが抱擁の場合、きっと骨が逝くと思う。そのくらい店主夫はガタイが良すぎる。
しかし夫店主は妻一筋で、どんな誘惑にも負けないと冒険者仲間から聞いた。一途なのはいいことだ。さすがいい雄っぱいなだけある。
「あれも店主狙いか? 意外とこの町、ガチムチ好きな女多いよな」
「そうだね、それは私も思ってた」
向かいの席の相方が首を捻る。前にいた街では、細マッチョがモテていたのだ。地域変わればモテもかわるのだろうか。
道を歩いていても、何気にガタイのいい野郎が多くいるように感じるんだよね。
「守ってくれそうな、力強さのある人は、魅力度が違うんじゃない?」
私のその言葉に、やはり相方は首を傾げる。
「いやぁ、どっちかってーと、やっぱ守りたいじゃん。おっぱいを」
「部位で言うな」
即座にツッコミだ。気持ちはわかるが、おっぱいありきではなく、まず人ありきのおっぱいだろう。おっぱいを優先するあまり、こいつはたまにおかしな発言をする。
「そういや、おっぱいについて熱く語るけどさ、どちらかと言うと、どっち派?」
気になっていたんだ。小っぱいと大っぱい、こいつは両方褒める。
大きい小さい論争が、野郎の冒険者から巻き起こる事だって少なくないが、相方がそのケンカにいることは見た事がない。
「全部、美味しく、頂きます」
ホントにただの乳好きだよ……。いまにもよだれが出そうな顔をするな。
あ、ラザニア美味しい。
「そういうお前は、ヒョロイ雄っぱいは認めない派だよな?」
フォークで私を指すな、お行儀が悪い。
「『雄っぱい』を名乗るなら、筋肉モリモリじゃなきゃダメだね。それ以外はただの胸部。このこだわりを私は譲る気はない」
「しっかり区分けするのも、どうかと思うぞ」
相方よ、ガッツリため息落としながら、言わないでほしいセリフだな。
筋肉あってこその雄っぱいなのだ、そこは譲れないね。
食べ終わったフォークを、皿の中にコトリと置いた相方は、据わった目を向ける。
「……そういうお前は、雄っぱいねぇじゃん」
「私は筋肉がつかないんだから仕方ないだろっ! お前はいいよな、自分でおっぱい持ってるんだから!」
「バカかお前。マイおっぱいはノーカウントだ」
尊いと自分が思っているものを、自身の体にくっつけておける相方が、羨ましすぎるっ! だけどノーカンらしい。
私は鍛えているのに、ちっとも筋肉がつかない……! 自分で雄っぱい持ちたいのに……。自分の雄っぱいはノーカンになるのだろうか……持ってないからまだわからないや。
今日の昼飯も美味かった。雄っぱい店主が運んできてくれたから、尚更美味かった。
明日は手伝いの子くるといいな、相方の機嫌のためにも。
ちなみに、私らの恋愛対象は異性である。
パイはあくまで推しなのだ。
「「さ、狩りに行くか」」
しっかり働いて推しに顔向けできるよう、気合いを入れる。
明日のぱいを堪能するため、私たちは店を出た。