その光は光明の光?5
「なんだ!?」
私の一歩後ろに立っていたジーンが、気がつけば私を庇うように立ちはだかり、腰に差した剣の柄に手をかけている。
「待って」
私はジーンを制して一歩横にずれ、様子を伺う。
眩い光は一瞬のことだったようで既に収まっていた。
室内には二十人程の人がいるはずだが、物音や声などは聞こえてこない。
何事もなかったかのような静かな住宅街に戻っていた。
「何だったんだ……?」
ジーンは自分に問うように声を出してから、私を振り返って見る。
「今のはなんだ? 魔法か? レナはこれを見に来たのか? 窃盗事件と関係があるんだな?」
興奮状態にあるジーンは矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。
私は一つ苦笑してから、なるべく穏やかに口を開く。
「今のは恐らく、いえ、間違いなく光の魔法だと思う」
「光の……? じゃあここに光の魔法使いが?」
「そうとも限らないの」
どう説明したらわかってもらえるか考える。
知識がない者に一から教えるのは正直めんどくさい。
だけどジーンは説明を聞かないと許してくれそうになかった。
「光の魔法というのは、使い手も少ない高位の属性なの。その理由は、仮に光属性を持ち得ていたとしても、その魔法の発現には多大な魔力が必要だからと言われている。属性を持っていても使えなければ持っていないのと同じ、ということね。だけど、使えるのであればその攻撃力たるや強力で、一度の魔法で何百と人を葬ると言われているわ」
「まさか……じゃあ中の人は……!?」
「無事よ。もし光の攻撃魔法が使われたのであれば、私達も無事ではないはずだから」
「……どういうことだ?」
ジーンの疑問も最もだ。
私は一つ頷く。
「……まだ知る人は少ないし、私も実用化されている例は見たことないのだけど、魔法省が魔力の少ない人間でも魔法が使える魔法陣を開発したらしいの」
「そんなものがあるのか!?」
ジーンは目を大きく見開いたかと思うと、突然私の両肩を掴んで間近まで詰め寄ってきた。
「えっと……」
こんなに男性に近づかれることもないし、突然のことで戸惑ってしまうが、ジーンはそれにも気がつく様子はなく必死の形相だ。
一つの事件を解決する治安維持部隊の隊員の範囲を超えた反応のように感じる。
「あるみたい。実際、王都では既に実用化段階に入っていて、王城に勤める魔法省関係者には試験のために魔法陣が共有されているとか。それをこんな田舎街で見ることになるとは思わなかったけれど……でも、実際この目で見てしまってはね」
「どんな光魔法が使用されたんだ? 何のために?」
「実用化されたと言っても、光魔法に関しては元々の難易度もあるからようやく人の目が眩むほどの強さの光が出せるようになった程度のものでしょうね」
「目が眩む……!? 窃盗犯が使った魔法と同じだな!?」
「そういうこと。この宗教施設では、礼拝で祈りを捧げる時に使われてるみたい。神に祈りが届いた証の光、って言ってるらしいけど、そんな不思議なことがあるはずない。かと言って、こんな地方の街の小さな宗教施設に光の魔法使いがいるのも考え難い……。それなら、王都の信者に魔法省関係者がいて、魔法陣をこっそり持ち出して使ってる、って方が可能性は高いと思って」
「と、いうことはつまり、あの中に光の魔法使いがいなければ、魔法陣が使われたと証明できる?」
「恐らくね」
「どうしたら光の魔法使いがいないとわかる!? そいつに話を聞けば誰でも魔法をつかうことができるのか!?」
「ちょ、ちょっと……」
どんどん近づいてくるジーンと、肩に置かれた手に力が込められていくので、私は思わず一歩後ずさりした。
すると、ようやく自分がしていることに気がついたようで、ジーンは私からパッと手を離す。
「……すまない」
「いえ……」
魔法陣の話になると、ジーンは目の色が変わって自分を抑えることができないのかもしれない。
ジーンの髪色と瞳の色、性格、そして王都からやってきた理由。
すべてのピースが繋ぎ合わさると一つの真実が見出される気がする。
だとしたら、この話は腰を据えてしてあげるべきなのかもしれない。
「それじゃあその新興宗教の人間が今回の窃盗の犯人か? その魔法陣を使って?」
「私はその可能性が高いと思ってる。信者の人でお金に困っている人はいなさそうだったし、できたばかりの新興宗教なんて、お金に余裕はないはずだから。少しでもお金はほしいはずよ」
「なるほどな……」
ジーンは建物の入口を睨みつける。
「おい、出てきたぞ」
見ると建物から続々と信者のみなさんが出てきた。
「どうする? 今日は様子を見るだけ、と言っていたが、絶好のチャンスだろう? 信者がいなくなったら中に突撃するか?」
ジーンはギラギラと殺意のある目でそう問いかけてくる。
物騒な顔でそんな発言はやめてほしい。
だけど──
「ザヴァルには怒られちゃうけど、私も気になったことをそのまま放置して一夜を明かせるほど気が長くないの。とりあえずお話くらい聞きたいところだわ」
「そうこなくちゃな。やっぱりお前は面白いやつだ」
ジーンはニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。
こんなところでこの悪い顔をしたジーンと気が合うのは癪だが、気になることは知らないと気が済まないのだから仕方ない。
「何かあれば守ってくれるんでしょう?」
「当たり前だ。俺は腕に自信がある」
「穏便に済めばいいけれど、相手は目眩ましの魔法を持っているのだから、注意してね?」
「任せろ。俺だったら目を閉じていても相手の気配で組み伏せられる。そんな目眩ましの魔法を使わないと物も盗めないやつなんか、相手にもならん」
「頼もしいことで」
視線を戻すと建物から出てくる人の波が止まっていた。
「行きましょう」
「ああ」




