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その光は光明の光?2

「最近、路上で高額な金品が盗まれる窃盗事件が三件起きているんだが、手口が妙なんだ」

「妙?」


 ザヴァルは真剣な顔で続ける。


「被害者の証言によると、光の魔法が使われた、と」


「……魔法? それも、光?」


 理解が追いつかなくて返答が遅れてしまったが、私はそう繰り返すだけの問を投げかけた。

 ザヴァルも困惑の表情でこくりと一つ頷く。


「妙だろ?」

「うん……魔法が使える人間が金品を窃盗なんて」


 魔法が使える人間は仕事に事欠かない。

 しかも大抵が高給取りだ。


「エバークラインで問題を起こして仕事を失った魔法使いの話を聞いたことあるか?」

「ううん、私の知る限りでは」

「俺もだ」

「しかも光の魔法でしょう?」


 魔法は地水火風雷と光闇の属性にわかれている。

 ほとんどの魔法使いは一属性のみ使用できるが、中でも光闇の属性を持つ魔法使いは稀で、王城の要職に付くなど重宝されるのだ。

 そんな人間がこんな地方都市で金品の窃盗を行うだろうか。


 それとも──


 思い当たることが一つあった。

 私は目を眇めて少し考えてから、再びザヴァルを見る。


「その光の魔法って、具体的にはどんな使われ方を?」

「思い当たることがあったのか」


 ザヴァルの顔が僅かに明るくなった。

 後ろで横を向いて立っていたジーンの顔もこちらを向く。

 私は肩を竦めた。


「少しね。それで?」

「あぁ、どんな魔法が使われたか、だよな。三件とも共通して、突然眩しい光が目に入ってきて目くらましされたと言っている。その隙に財布などを取られている」

「目くらまし……」


 私は顎に手を当てて思い返す。

 この店にやってくる客に聞いた話で思い当たることが一つあった。


「ちょっと確かめたいことがある」


 ザヴァルが私の言葉に一つ頷く。


「出かけるか?」

「うん、でも今日じゃない」


 私は記憶を辿りながら壁にかかったカレンダーを見る。


「明日の夜、ある場所に行く。そこでもしかしたら犯人がわかるかも」

「本当か! さすがレナだな、エバークラインの情報通!」


 ザヴァルはちょっと得意気だ。

 私をバカにしたジーンの鼻をあかせられると思っているのだろう。

 空振りに終わらなければいいけれど。


「もちろん俺も行くよ。…………あ、でも明日の夜、か……」


 ザヴァルが顔を曇らせたのを見て、私はハッと思い出す。


「明日はザヴァルのお母様のお誕生日なんじゃなかった?」

「そう……なんだが、いや」


 ザヴァルは首を横に振る。


「レナを一人で危ない目に合わせるわけにはいかない」

「危ないかはわからないし、様子を見るだけだから一人でも大丈夫。ザヴァルはお母様の誕生会の方を優先させて」

「そういうわけには……!」

「だけどずっと前からお店を予約したって言っていたじゃない。予約の取りにくい人気店なんでしょ?」

「そうだけど……。でも、光魔法を使う窃盗犯だぞ!? もしレナが襲われたら……」

「ザヴァルが前日に誕生会に来られないなんて知ったら、お母様がっかりして怒り出すんじゃない?」

「うっ……。だ、だけど……」


「はぁ」


 ザヴァルの後ろから盛大なため息が聞こえてきて、私とザヴァルは同時にそちらを見る。

 そこには心底呆れた顔をしたジーンがいた。


「仕事より私的な用事を優先する隊員にも、一般人なのに事件に首を突っ込もうとする雑貨屋の店員にもうんざりだが、いいだろう。個人的に気になることもあるし、俺が付き合ってやる」

「ジーン……!」


 ザヴァルは今にも噛みつきそうな顔でジーンを睨みつける。


「お前にレナを任せられるか! こんな性格も口も悪い男に!!」

「ザヴァル」


 再び頭に血が登りかけているザヴァルを私は止めた。


「私、ジーンと一緒に行くよ」

「レナ!?」

「大丈夫よ、私が行きたいのって街の中だし、そんなに危険なことにはならないはず。ジーンだって治安維持部隊の隊員なわけだし、それにほら、()()が変なことをするはずないわ」


 ちらりとジーンを見ると私の嫌味な言い方にキッと目を吊り上げた。


「私だってこんな失礼な人と好き好んで一緒に出かけたいわけじゃないから、本当は一人でもいいくらいなのよ」

「そういうわけには……」

「ザヴァルがそう言うからジーンと一緒に行くんじゃない」


 そうはっきりと言うと、ザヴァルが苦虫を潰したような顔になる。


「レナは戦えるわけじゃないから……」

「でも知識はある」


 私はザヴァルを安心させようと微笑んだ。


「大丈夫よ、ザヴァル。危ないことになる前に逃げるから。今回は真実を確かめるだけ」

「うん……」


 ザヴァルは俯いてしばらく考えてから、私の顔を真っ直ぐに見返す。


「本当に無理はするなよ」

「えぇ、わかってる」

「ジーンも」


 ザヴァルはジーンを振り返って厳しい声を出す。


「レナに傷一つでもついていたらただじゃ済まないぞ。もちろん貶すような言葉もだ!」

「わかってる。それに俺もこいつに興味が出た」


「……は?」

「……っ!? お前!!?」


 突然の変わり身に私とザヴァルは同時に驚きの声をあげる。

 そんな私達を嘲笑うかのようにジーンはふんっと鼻を鳴らす。


「よろしくな、()()

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