パートナー
巣の近くまでくると、ローズは体内の魔力を体の奥の方へ押し込め、起動しておいた気配を遮断する魔道具を握りしめた。
これももちろんお手製魔道具、しかもローズオリジナルの隠密魔法だ。
そうして巣の上に着くとローズはそっと身を乗り出して、あの翼竜を見た。
既に食事は終えているのか、体を横たえ休んでいるようだ。
(そう言えば…魔力の差がない個体をパートナーに選ぶのなら、あの個体にはパートナーに適した個体がいないわ。
だからあの翼竜は独身なのかもしれない。)
ローズは覚悟を決め、体内の魔力を臨戦態勢に戻し魔道具をしまった。
即座にオリジナル結界魔法で崖の向こう2,3メートル先に足場を作りそれに飛び乗る。
ローズが目を付けた翼竜が驚いたように飛び立った。
その瞬間足場を蹴り、飛び立った直後でまだ体制を整えている翼竜に向かって真っすぐに飛んでいく。
魔力を推進力にして、弾丸の様な速さで辿り着く。
ローズが翼竜の背に着地を果たすと、翼竜は見るからに動揺してめちゃくちゃに暴れ始めた。
振り落とされまいと、ローズは必死に首元にしがみついた。
(流石に厳しい!!手が…外れちゃう!!)
体の小さいローズでは首回りに十分に手は回らない。
振り落とされる前に魔力を注ぎ込まなければと、必死で魔力を核に向かって流し込む。
最初に抵抗を感じたような気もしたけれど、あっさり魔力を通す意思を感じ、それと同時に暴れまわっていた翼竜はすぐに大人しくなった。
導かれるように魔力が通って行く。
(ああ、これがお兄様が言っていた感覚…。
私をパートナーと認めてくれたんだわ。)
核に到達し魔力を注ぎ込むと、核から自分のではない魔力がすぅーっと自分の魔力を伝って上ってきて、自分の核に入って行くのを感じた。
それと同時に、自分の物ではない感情が伝わってきた。
(これは…喜び?喜んでいるの?)
翼竜の頭の方を見ると、飛びながら顔をこちらに向け私を見ていた。
その顔が何だか笑っているように見えた。
何だか自分も嬉しくなってきて、そのまま一緒に周辺を飛び回った。
昔お兄様に乗せてもらった時とは全然違う。
こんなにも楽しい。
翼竜からも楽しいと伝わってくるのだ。
調子に乗って飛んでいたら、街から随分離れていた。
(このままロザインまで行けないかしら。)
パートナーになってくれたこの翼竜は、魔力も体力もかなりある個体だ。
(うん。きっと行けるわ。)
ローズはロザインの方角へ針路を取った。
たとえ翼竜の魔力が尽きそうでも魔力譲渡ができるとお兄様から聞いている。
何の問題もない。
そう言えば以前兄に、翼竜は飛行するときに魔力で自分にブーストを掛け、スピードを上げる事が出来ると聞いたことがある。
ブーストに使える魔力量は、魔力がどんなにたくさんあっても一度に流せる量は個体によって決まっていて、それ以上は早くならないとか。
要するに、水のタンクと蛇口の関係と同じだ。
けれど、魔力譲渡をすることで、ブーストの魔力量を上乗せすることが出来て更にスピードが出せるらしい。
魔力譲渡は長距離飛行だけに使う物ではないのだ。
そんな話を思い出したら、試さないわけにはいかない。うん。
「どれくらい、早く飛べるかな?」
自分の核を意識すると、確かに翼竜とつながっている感覚があった。
(ここに注げばいいのね。)
誰に聞くでもなく、感覚で分かった。
試しに少し流してみた。
翼竜はしっかりローズの意を汲みスピードを上げる。
(もっと、もっとよ。)
徐々に魔力を流していく量を増やし、限界まで一気に魔力を注いだ。
(速い速い!!このスピードなら、ロザインまであっという間ね!)
凄い凄いと、翼竜を褒めていたら翼竜も調子に乗ったらしい。
船で4,5時間かかった距離をローズ達は2時間程で移動した。
限界スピードで飛び続けた結果だ。
もっとももう魔力はすっからかんである。
翼竜で、国境を越える時は決まりがいくつかある。
確か、入国時に事前に申請してない場合はちゃんと税関を通らなければならないという決まりがあったはず、と思いだしローズはロザインの港に下りた。
地上に下りて初めて、ローズは自分のパートナーを正面から見上げた。
翼竜も同じように自分をじっと見つめている。
リリーはメスで体はどちらかと言うとなめらかな流線型で美しかったが、この翼竜はオスでごつごつとしている。
立派な鱗と筋肉質な体躯、そして真紅の体色、威厳に満ち溢れた翼竜の姿にローズはしばし見とれた。
「あなたに名前をあげなければね。
何が良いかしら?強そうな名前が良いわ。」
建国史の中で、英雄と歌われた猛者たちの名前を私は次々に口に出した。
「んー…クラウス、ファウスト、…アルフォンス、ビューロー、…バルト。」
最初気がなさそうにしていた翼竜の目が、ちらっと私を見た。
「気に入った名前があった?バルト?
そう、バルトが気に入ったのね。
では今日から貴方はバルトよ!よろしくね、バルト。」
そう言うと、バルトはお辞儀をするように頭を私に近づけた。
私は思わず抱き着いて頬を撫でた。
リリーと同じひんやりとした感触に、少し胸が切なかった。




