非常識な冒険者
ローズは港町モッリスの市場をうろつき、登山に必要なものを購入していく。
基本的に、ずっと冒険者を夢見ていた彼女はこれまでに開発した便利魔法のお蔭で、普通の冒険者が必ず携帯する物のうち、食料以外は殆ど必要としない。
ただ、紅茶を飲むために、ミルクパン位の小鍋と濾し器、アルミ製のカップだけはバックに詰めた。小鍋ならば一人分のスープだって作れるので、持っておいて損はない。
食料は嵩張らないスパイス各種と干し肉や乾燥野菜。
乾パンとチーズも少量買った。
それにドライフルーツやナッツは外せない。
ローズは元々貴族令嬢だ。
修道院時代もスープとパンの食生活だけが、唯一辛かった。
たまに食べられるフルーツやクッキーはごちそうのように感じたものだ。
焼き菓子は常温でも3日程持つので、3日で食べきれる量を持っていく予定だ。
普通の冒険者がローズの持ち物を見たら、ピクニックに行くとしか思えないだろう。
それだけの買い物なので、昼前に着いたローズは昼過ぎには入山していた。
昼ごはんは、朝お姉様が持たせてくれたサンドイッチだ。
準備運動がてら、一時間ほど軽く走って少し開けた見晴しの良い場所に出たので、お昼を取ることにした。
なぜか、魔物には一頭も出会わなかったのが残念だ。
まずお手製の魔道具で周囲に結界を張り、同じくお手製の魔道具でテーブルと椅子を作る。
持ってきたテーブルクロスを掛け、魔道具で沸かしたお湯で紅茶を淹れた。
もちろんお湯を沸かす魔道具もお手製である。
椅子に座って、さっそく食事だ。
青空の下の食事は気持ちが良いけれど、やっぱり一人は寂しいなぁと思いつつ、ローズはサンドイッチをほおばった。
幸いなのか不幸なのか、この光景は誰にも見られなかった。
当然だが、普通の冒険者は、こんな食事の仕方はしない。
ふざけてんのか。とブチ切れる案件である。
そもそも、食事の為に結界を張る程、魔力に余裕を持つ冒険者は一握りだ。
魔法でテーブルまで作って優雅に昼食を取る冒険者なんかいるわけない。
彼女はその異常性には全く気付いていないが。
食事を終え、火口を目指す。
頂上までは、慣れた冒険者でも3日はかかるとギルドで聞いている。
道は火口手前7合目あたりまではある程度整備もされているらしい。
そこから先も、冒険者によってけもの道のように人一人くらいなら通れる道があるらしく、迷う心配はないらしい。
そして翼竜の近くは、生態系の頂点が翼竜になるので、近づけば近づくほど他の魔物が極端に少なくなるらしい。
昼食を取ってからもう随分走ったが、やっぱり魔物の一頭にも出くわさない。
これはもう、他の魔物の少ない領域に入っているのかと思った。
それなら他の魔物にも会いたいローズからすると、のんびり行ったところで何の旨味もない。
ローズは走る足に魔力を乗せ、トップスピードで駆け上がった。
やっぱり魔物には一切会わなかった。
力試ししたかったのにな、とかローズは思っているが、単純にローズのスピードが速すぎるせいである。
周囲の魔物にはあっという間に通り抜けるローズを、敵と認識する間なんかない。
そうして、魔力が乏しくなる頃、あたりが暗くなり日が暮れた。
整備されていた道の終わりがきて、ローズは自分がもう7合目であることを知った。
(あれ?3日って片道の話だと思ってたけど、往復の話だったのね。)
勿論片道の話である。
多分誰かに指摘されるまで彼女は一生気付かないだろうが。
キリも良いので、今日はここで野営することにした。
おそらくここは殆どの翼竜目当ての冒険者たちが野営する場所なのだろう。
今日もいくつかのテントが既に張られていた。
テント内にいるのだろう冒険者の姿は見えないが。
普通の冒険者は日のあるうちにテントを張り、食事を終える。
そして魔物避けの魔道具に魔力を注いだら、魔力回復のために早々に寝る。
そもそも炎の明かりを頼りに食事を作るのは非効率だし、ローズの様にいくつも魔道具を使えるほど魔力に余裕がある冒険者など一握りなのだ。
ローズはまず手の平サイズの魔道具を出した。
これはローズの傑作とも呼べる作品だ。
これに魔力を込めると、土に干渉しテント代わりの建物を作ってくれるのだ。
しかも、魔物避けと結界も二種、同時に発動する。
広さの微調整もお手の物だ。
何より小型化に苦労した。
自画自賛したくなるほどにいい出来。ふふん。
建物を自分を囲むように作り、もう寝るだけなので出入り口も作らず、中に籠もった。
テーブルも作ったら、小鍋に干し肉と乾燥野菜、スパイスを入れて魔道具でコトコトと煮込む。
途中で水を追加しつつ柔らかくなるまでゆっくり加熱する。
出来上がったら、カップに注ぎ乾パンを浸して食べた。
ツィッタートはロザインより南に位置するとはいえ、山頂付近でしかも夜ともなると、やはり冷え込むのだが、スープを作っていた蒸気で室内は程よく温められ、暖かいスープで体も温まり、ほっとする。
食事が終わると再びお手製の魔道具で、今度はウォーターベッドを作成する。
これは幼少時代にローズが作った足場の魔法に更に手を加えたものだ。
結界を柔らかく粘土のように形の変わる物に変え、その魔法の中を炎系の魔法で温めたお湯で満たすだけなのだが、これが非常に寝心地が良い。
適度な弾力と、まるで誰かに抱きしめられているかのようなフィット感と温度。
寒いときはお湯の温度を上げ、暑いときは冷たい水で作ればさらに快適である。
ぼふんと倒れ込み、持ってきたブランケットを掛け寝転がった。
熱めに入れたお湯のお蔭でベッドはほかほかだ。
状態を維持する古代魔法を組み込んでいるので、保温もばっちりである。
ぬくぬくとケットにくるまり、ローズはすぐさま眠りに落ちた。
冒険者っぽいナニカ。




