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シュタットのお祖父様



翼竜の生息地を持っている国はロザインだけではない。

実は翼竜は生息地によって色も、特性も変わる。

特に冒険者に人気の翼竜の生息地を持つ国が、海を挟んだ向こうの島国ツィッタート王国である。

翼竜で渡るなら、相当体力も魔力も持った個体でなければ渡りきれない程離れているが、ロザイン王国とは船で交易していて、毎日定期便が出ている。


そしてロザインにただ一つある港のある場所が、ブラントミュラー公爵領の都市シュタットである。

ローズが王都で、ギルドと呼ばれる冒険者の管理施設で冒険者登録をした後、最初に訪れたのがこの町だ。


この町には、レオお兄様とヴァネッサお姉様、それと先代のブラントミュラー公爵であるおじい様がいる。

おじい様に会ったのは、もう記憶にない程昔で、正直どんな人か全く分からない。

ただ、レオお兄様や、お父様の話を聞くにどうも厳格で厳しいという感じがした。

おじい様は平民になった私に何と言うだろうか?

いや、そもそも会ってくれるのだろうか?


領主の館に着き、門番にローズと名乗り面会できるか聞いてみた。

平民になる時、今までの名前は使えないので、ローズにした。

家名も何もないただのローズだ。

門前払いだとは思うが一応到着してすぐ試しに来てみたのだ。

駄目ならレオお兄様に手紙を出そうと思っている。

すると、門番は「お聞きしています。どうぞ」と言って、屋敷に入れてしまった。


「聞いている?」


ローズが首を傾げつつ、案内役のメイドについて屋敷の奥へ歩いて行った。

案内された部屋に入ると、レオお兄様が満面の笑みでこちらを見た。


「ローズ、意外と早かったね。」


「なぜ、こちらに私が来ると分かったのですか?」


聞きながら、お兄様の胸に飛び込んだ。


「ははは、何年ローズの兄をやっていると思っているんだい?

もう少し王都で平民生活を楽しんでから来ると思っていたけど、今日着いたって事は真っ直ぐここへやってきたんだね。」


「はい。王都の平民生活は、もう飽きる程しましたもの!

できれば違う土地でしたいですわ!」


そう言うとレオお兄様は、一瞬呆けてからくすくす笑った。


「相変わらずお前は想像の上を行くのか。

まあいい、それで?どれくらいここにいる?」


「明日にはツィッタートに行くつもりですの。

一度行って見たかったのです!」


「そうか。楽しんでおいで。

時々はここにも遊びに来るんだよ?」


「はい!

今までは、ずっと待ってるだけだったのに、これからは私はいつでも会いにいけるのですね!

ああ、冒険者になってよかった!」


私がそう言うと、レオお兄様は一瞬呆けてすぐに笑った。


「ははは!そうか、何で今まで気付かなかったんだろう。

そもそもローズがずっと待っているなんておかしかったんだ。

ローズはやっぱり冒険者が一番似合うな。」


そう言って、お兄様は私の頭を撫でた。


「今日は、ここに泊まって行くと良いよ。」


「夕食は一緒に食べても良いのですか?

私、もう平民ですもの。

おじい様も気にされるのではないですか?」


貴族と言うのは平民に対する感情が人によって全く違う。

平民と馴れ合う事をよく思わない貴族と言うのは、選民意識が強い貴族が多いが、別に全員がそうというわけではない。

貴族の義務やけじめとして、決して馴れ合わぬようにと教えられて育つ人だっているのだ。

だからそれは、その人の性格が優しいとか厳しいとかそんなことはあまり関係がない。

ヴァネッサお姉様も素敵な女性だけれど、平民に対する感情は聞いたことがないので全く分からない。


「ああ、心配いらないよ。

二人ともローズに会えるのを楽しみにしていたから。」


「そうなのですか?」


「あーでも、おじい様はちょっと気を付けた方が良いかもしれない。」


「気を付ける?何をどう気を付けるのですか?」


「うーん…、何と言うかあの人は…」


レオお兄様が、考えながら言葉を紡ごうとした時に、急に外から「おーい!」と言う大きな濁声が聞こえた。


「ローズマリー!!来とるんだろう!

表に出てこい!ついでにレオナートも来い!!」


結構遠くから呼んでいる様に思うけれど、かなり大声で呼んでいるのだろう。

はっきりと聞こえた。


「ああ、もうあの人は!」


頭が痛いとレオお兄様が呟いた。


「行くぞ、ローズ。行かないと後がまずい。」


かなり嫌そうな顔をしたお兄様が、ため息を吐きながら玄関へ急ぎ、その後ろを私もついて行った。


玄関ホールから外へ出ると、木刀をもった頭皮輝くおじいちゃんが仁王立ちしていた。


(あ、分かった。)


もうその出で立ち、立ち姿でローズは理解した。


(先生と一緒!)


そう、つまり戦闘狂である。


「ローズマリー、そなた冒険者になったそうではないか。

だが、わしの剣すら受けられない様であれば、即刻ヘルマンに送り返す!

そのつもりで、かかってこい!!」


(あああ、良い!!)


レオナートは自分の可愛い妹が、急に獰猛な獣のような顔になるのを見てしまった。


「ロ、…ローズ?」


「では!一戦お願いいたします、おじい様!」


ついでに、目は爛々と輝いている。

即座に兄の横を過ぎ、正面に向き合った。


「獲物は何だ?木刀がいるなら何本でもあるぞ。」


「素手で結構ですわ。

そんなもの、直ぐに壊れてしまいますもの。」


「ほう。ではいざ、尋常に勝負!」


言うや否や、ローズの正面に一瞬で詰める。

けれど、ローズもこのくらい避けるのは朝飯前である。

避けるついでに木刀の腹に魔力で衝撃を与えておく。

魔法で強化されていても所詮は木、魔力で衝撃を与え続ければそのうちぽっきり行くのはパルス相手に実践済みである。

因みに訓練用の刃を潰した剣でも同じで、こちらは魔力だけではなく魔力を纏わせた拳なり蹴り技なりで破壊できる。


「むっ」


間が取れたら即座に攻撃魔法準備、直ぐに直接攻撃を仕掛け体制を崩しに行く。


(くっ!やっぱりびくともしない!)


体勢を崩せなければ、当たる確率は格段に落ちるが、次の一手の為にも準備してある攻撃魔法を発動する。

特大の氷のつららだ。


「ははは。魔法力は流石じゃ!」


と笑いながらつららは粉々に砕けた。

どうやら木刀で切ったらしい。

ちょっとびっくりした。

…木、だよね?


(長期戦になりそう。魔力を節約しないとガス欠になっちゃう。)


攻撃の手を緩めず、魔力で常にスピードをブーストするのではなく、緩急をつけて攻撃を繰り出す。だが、そのことごとくを躱される。


「むぅ。」


(全然当たらない!!!もう、こうなったら…)


魔法の準備をする為、一旦距離を置こうとした。

けれど、それまで躱してばかりだったのに、急に攻撃に転じて攻められるので、距離を置くことが出来なかった。


(んもう!おじい様はパルスの相手に慣れ過ぎていますわ!何で?!)


この戦い方はパルスにはとてもやり辛い。

護身術の授業で、何度も何度も距離を取る練習をしたが、それは魔法を放つ為のほんの少しの間を作るためだ。

パルスはそれを作れなければ、魔法力のない騎士と同じなのである。

木刀を破壊しようともしてみたが、最初の一撃以来おじい様も警戒しているようだ。

そうやってどれだけ戦っていただろうか。


「おじい様!!!」


急に悲鳴にも近い女性の叫び声が聞こえて、私もおじい様も攻撃の手を止めた。


「何をなさっているのです?!

まさか本当にローズに戦闘を仕掛けたのですか?!」


「ヴァネッサお姉様!!」


おじい様は領地を離れられないが、お姉様はときどき王都の屋敷に遊びに来てくれていた。

そのたびに美味しいお菓子をお土産に持ってきてくれて、お茶の時間を楽しんだ。

私はヴァネッサお姉様に飛びついた。


「いらっしゃい、ローズ!早かったのね!

貴方が来る前に準備しておこうと思ったのに、間に合わなかったわ。」


「何の準備ですか?」


「うふふ、後のお楽しみよ。

さあ着替えていらっしゃい。お茶をしましょう?」


そう言われて、湯浴みをと一歩を踏み出してすぐ、大事なことを思い出した。


「おじい様、お手合わせありがとうございました!!」


おじい様に向き直り、深々と礼をとった。


「はっはっはっは!!合格じゃ!行ってよし!!」


なぜかよく分からないけれど、おじい様が上機嫌だった。


「さあレオナート、次はお前じゃ!来い!!」


とか言う声が後ろで聞こえたが、気にせず屋敷に入った。



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