二人の望み
前半ローズ視点。
後半テオドール視点。
私は通路の先にあった小部屋に案内され、訳も分からないまま一人掛けのソファに座らされた。
彼は斜向かいの二人掛けのソファにゆったり足を組んで座った。
室内は二人きりだが扉は開けてあり、ちゃんと外に護衛が立っているようだ。
貴族令嬢対応されている。
「ローズマリー嬢、いや、今は修道女ローズだね?
まるで愛称で呼ぶようだけれどそう呼んで構わないだろうか?」
にこりと穏やかに微笑んではいるが、何だか今日の笑顔は黒いなあと思った。
「構いませんわ。許可など…私は今はただの修道女ですよ?」
「私の事はテオと呼んで?」
「そんな、流石に殿下相手にそのような不敬な呼び方は…」
今は只の修道女なのだ。
「ねぇ、さっき私が言ったこと覚えてる?」
ローズがすべて言い終えないうちに、被せるように質問された。
「…貴方の願いを叶えたら私の望みを叶える、というアレですか?」
「そう。君の望みは…兄君の翼竜だろう?真相も調べたいのかな?」
はっとして、彼と視線を合わせた。
「真相はどうでもいいのです。…返していただけるのですか?」
「君の返事次第だね。
魔法好きの君だから、真相も知りたいのだと思っていたけど。
まさか君があの魔道具欲しさに古代魔法まで解明するなんて。」
何でもない事のように、世間話をするような気安さで彼が言った。
そのセリフにぎゅっとこぶしを握って、眉を寄せる。
「解明したのは魔道具欲しさではないわ。」
最初はただの興味だった。
でも途中からお兄様の命を守る為にも早く解明しようと頑張ったのだ。
「真相なんてどうでもいいわ。
そんな物知っても、兄もリリーも帰ってこないもの。」
吐き捨てるように言った。
彼が、お兄様を戦場に送ったわけではないと分かっているのに、つい恨めしく思ってしまう。
合わせていた視線をそっと外し、静かに息を吐いた。
「私はただ…、…リリーを、兄の隣で眠らせてあげたいだけ。」
俯いたまま、静かに言った。
幼いころの、兄とリリーとの思い出が脳裏に蘇る。
――――「やったぞ!!翼竜とパートナーになれたんだ!体色が少し青みがかっていてすっごく綺麗なんだ!」
ある日仕事から帰ってきてすぐ、玄関ホールで出迎えた私に嬉しそうに叫んだ兄。
――――「リリーだよ。おいでローズ。大丈夫、怖がらなくていい。」
そう言って、翼竜の傍に私を呼んで見せてくれた、誇らしげな兄。
――――「ローズ、リリーに乗ってみるかい?」
時間があるとき空の散歩に誘ってくれた、妹思いの優しい兄。
――――「ローズマリーと同じように、花の名前をつけたかったんだ。」
秘め事のように耳にささやいて、やさしい微笑みを浮かべた兄。
リリーはいつも優しい目をしていて、私に頬を撫でさせてくれた。
――――「ローズがそんな顔してるから、リリーも心配しているよ。」
兄を思い出すとき、いつもリリーが傍にいて兄と同じ優しい目をしていた。
「…殿下の、望みとは何ですか?」
静かに顔を上げてそう聞くと、殿下が急に立ち上がり私の正面に片膝をついた。
膝に置いていた私の手を取り、流れるような仕草で手の甲にキスを落とす。
そして真剣な顔になって、真っ直ぐ私の顔を仰ぎ見た。
射抜くような目から視線が外せなかった。
「私と結婚してください。」
…は?
「え、
…は?…え?」
*****
思いを口にした瞬間、彼女は呆けたように固まっていた。
彼女は、魔法学や政治に関しては1を聞けば10を知るくらいの優秀さを見せていたのに、事が周りの想いとなると、やたら鈍感なところがあった。
ジークは俺の気持ちに気付いていただろう。
何度牽制されたか分からない。
けれど、当の本人には全く伝わらなかった。
ロザインの規模の大きな夜会には必ず行った。
他国の貴族の次男や三男が婚活に訪れる夜会は紛れやすい。
そこでジークの目を盗んで粉を掛けたが、いつも頓珍漢な返答しか帰って来なかった。
公の席で彼女に会うたびに、想いは募るばかりだった。
「け、…結婚?」
まだ、思考回路は復活していないようだ。
「そう。結婚。」
畳み掛けるように、にこやかに彼女に答える。
彼女に何とも思われていないことぐらい百も承知だ。
だからこそ、オレはこの手段を取った。
彼女の心を得るのは後でいい。
隣国の王太子の婚約者であった頃は、ただ指を咥えて見ているしかできなかった。
あいつも甘いな。
オレなら絶対に放さない。
今しかないのだ。
大丈夫。
切り札はこちらにある。




