危険な再会
さきほど交渉が終わり、今はあてがわれた部屋へ行くため西側の塔への道を歩いている。
この教会の屋上にリリーがいると思うと、フィノイスがどう返事をするのか待つしかないのがもどかしい。
近づけば近づくほど、あの翼竜はリリーだとしか思えなかった。
顔は翼に隠れて見えないけれど。
魔鉱石の色に邪魔をされて、本来の体色もよく分からないけれど。
でも、それでも、あの翼竜はリリーだと思う。
つい、隠密魔法を駆使して屋上まで行ってしまおうか、とそんな事ばかり考えてしまう。
アイゼン枢機卿曰く、交換してくれるかどうかは五分五分らしい。
あの規模の守りの魔道具は、フィノイス以外の国ならば間違いなくどんな交渉も通るであろう強力な手札だが、フィノイスはロザインと同じく各地に守りの魔道具が残っている国。
そして教会の魔道具は見ることさえ国王と法王の二人の承認が必要な代物だ。
国王は守りの魔道具を持っておきたいと思うかもしれないが、フィノイスの枢機卿団はそれより神の使いと称される翼竜の入った魔道具を手放したくないだろうと言っていた。
部屋への案内は、ホルドルフ枢機卿ではなくここに勤める修道女がしてくれている。
私が泊まる部屋は修道女しか入れない場所らしい。
アイゼン枢機卿の泊まる部屋はその区域の階下で、棟は同じらしい。
静かに案内役について歩いていると、カツカツと廊下の向こうから靴音が響いてきた。
修道服を着た長身の男性が、こちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
その人物を目にした時、私は慌てて俯き顔を隠した。
そしてさりげなくアイゼン枢機卿の陰に入ろうとこそこそ移動した。
(な!なんで?!何で彼がいるの?!)
「ようこそ。アイゼン枢機卿。
ああ、案内役はまた後で呼ぶから君はちょっと外してくれる?」
彼は案内をしてくれていた修道女を追い払ってしまった。
「おや、いつからこちらの教会は王族が籍をおけるようになったのかの。」
「あはは、手厳しいなあ。この格好の方がここでは動きやすいんだよ。
それより、お久しぶりですね、ローズマリー嬢。」
(ばれてる…)
視線を感じ、私は観念して顔を上げた。
「…テオドール殿下、なぜあなたがここに?」
フィノイス王国の王位継承権第一位の王太子である彼は、政治と宗教がきっちり別れた500年前の内乱以来、ここに修道服姿で居てはいけない人物のはずだ。
「あはは。びっくりした?」
「先に確認しておくが、このことはお主の父親は知っておるのかの?」
アイゼン枢機卿は穏やかな顔で問うた。
「この事って?俺がここにいることなら、多分知ってると思うけど。
あ、君たちがただの視察じゃない事?それくらい父は知っているよ。
もう君たちの要求は父まで通っているんじゃないかな?
だけど、これから私がしようと思っていることはまだバレてないと思うな。
先に言っておくけれど、ローズマリー嬢、変なことはしない方が良いよ。」
テオドール殿下は底の知れない笑みを浮かべてそう言った。
私が魔法を駆使して屋上に行こうとしているの、何でバレてるのかしら?
若干、おじいちゃんから呆れた気配を感じる。
「…そうか。それで?教会側と国王側は意見が割れておるのか?」
「まあ当然だね。
でももし、私の願いを叶えてくれたら、君たちの望みを叶えてあげてもいいよ?
ねぇ、ローズマリー嬢ちょっと二人で話さない?」
「おや、この老いぼれをのけ者にするのかの?」
「うーん…。プロポーズは二人っきりが良いなぁ。
遠慮してくれない?」
「え?」
よく分からない単語が聞こえた気がする。
「…なるほど。なるほど。今が絶好のチャンスと言うわけですな。」
顎のひげをなでながらアイゼン枢機卿が、ふむふむと何やら納得している。
「そういう事。」
更ににっこりと上機嫌な顔で私に近づき、手を取られた。
エスコートするように自身の腕に私の手を置き、さあ行こうと奥の部屋へ促された。
「え?え?なるほどって何?どういう事なの?」
私はアイゼン枢機卿とテオドール殿下の顔を交互に見ながら、なかばパニック状態で促されるまま歩いた。




