実家に呼ばれる理由
オーウェンが現在詰めているこのアルトザイン教会は、隣国フィノイスの国境寄りではあるが、主要街道から逸れ北の鉱山に向かう途中の街にあるため観光客は少ない。
ここにやってくるのは鉱山関係者か、さらにその先の深い森で狩りをする冒険者が殆どだ。
教会の規模としては中規模で、常駐しているロイドの人数は4人。
3交代制で4日に一度は非番である。
王都から帰ってきた4日後、なぜか再び王都の邸宅に呼ばれたオーウェンは、うんざりしながら帰宅した。
「おかえり、オーウェン。変わりはないかしら?」
玄関ホールでメイドにコートを渡していたオーウェンに、階段を下りてきた母が尋ねた。
「変りも何も4日前に会ったばかりではありませんか。」
オーウェンが呆れて言った。
「ほほほ。年を取ると忘れるのが早くて。」
「冗談は結構です。要件は何ですか?」
「まあ、せっかちねぇ。もうすぐ旦那様も帰って来ますよ。少々お待ちなさい。」
「え!またですか?!忙しいのではないのですか?」
パルスの父は団長になってから忙しく、家を長く空ける事も多かった。
また帰ってくる日も帰りは遅く、日をまたぐのは珍しくなかった。
けれど4日前帰宅した時も、早い時間に顔を出したのに家にいたのだ。
今日もまだ昼過ぎである。
「もちろん忙しいわよ。」
母が急に浮かべていた微笑を引っ込め、射抜くような目でオーウェンを見た。
その時にオーウェンは実家に呼ばれる理由を悟った。
確実にローズマリー嬢絡みだ。
(父は自分に会うことが仕事だったんだ。そうなると父も母もある程度事情を知っているのか。)
「母上、人払いをお願いします。」
「良い顔つきをするようになりましたね。話は旦那様が帰ってきてからですよ。」
母が嬉しそうに微笑んだ。
「お前はちょっと鈍すぎるから、事が終わるまで一切気付かないかと思っていたが」
父が帰宅し人払いされ、両親と自分だけの談話室でテーブルを囲んでいた。
「今回の件で自覚はしましたよ。」
ちょっと凹んで言った。
不自然な自分の転勤時期に、魔法が使える修道女。
自分がパルスの団長の息子なのだから、それだけでも気付きそうなものなのに、目の前でジークとローズなんて呼び合っているのを見ても気付かないとか。
「あの、あの方が平民の前で魔法を使われたのはご存知ですか?そこからばれたりは…?」
「可能性はゼロではないが、時間はかかるはずだ。向こうの間者が紛れていなかったことは調査済みらしいからな」
びっくりである。
自分が思っているよりずっと、事は重大のようだと悟った。
「全くあの方も迂闊なことをなさる。
まあ、息をするように魔法を使われる方だからなあ。分からんでもないが。」
「父上はあの方をよくご存知なのですか?」
「ご存知もなにも、しょっちゅうパルスの訓練場に来ては、騎士たちを扱いていたぞ。」
戦闘狂のうわさは伊達ではなかったらしい。
「あ、そう言えば孤児院のサンドと言う少年は何者ですか?」
「はは、それも気付いたのか。そいつは姫様の屋敷の厩番の平民だ。
姫様がこっそり市井に下りるとき、いつも真っ青な顔で御者をしていたらしいぞ。
あの教会に移る時、姫様が連れてきたんだ。憐れなほど真っ青な顔をしていたな。
仕方がないから孤児院にねじ込んだと言っていた。」
よくよく聞けば、騒動の後、教会までの護衛は父がしていたらしい。
ロイドの自分があの教会に派遣されたのは、偶然でも何でもなかったのだ。
「それで、還俗の目途は立っているのですか?」
そう聞いたら、父はとても難しい顔をした。
「…そうだな。いつでもできると聞いている。」
「え?どういう事ですか?」
「オーウェン、この事件はカモフラージュに過ぎんのだ。
それぞれの人間がそれぞれの目的の為に動いている。
私たちの役目は首を突っ込むことではない。姫様を守ること、それだけだ。」
厳しい顔で父が言った。
それ以降は母と共に世間話で終わった。
真相については何も分からなかったが、取りあえずサンド少年が被害者である事だけはよく分かった。




