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押し付けられる雑用の数々

日の出前の冴え冴えしい空気の中の、この静謐な時間がローズは好きだ。

そしてその時分の教会の屋上は格別だと思う。

修道女になって初めて知った。

守りの魔道具が設置されたその場所は、昔は櫓の役目を持っていたらしい。


司祭にまたまたうまく使われたローズは、その守りの魔道具に魔力を補充する。

満タンまで魔力が注がれた魔鉱石は本来の淡い青色がより薄くなり、さらに輝きを増してきらきらと輝いた。

日の光も差し始め、目に痛いほどだ。

ローズは魔道具に背をむけ景色を眺めた。

遠くに見える山の端が薄らと色を帯びてきていた。


「…来た。」


白い梟がこちらに真っ直ぐ向かってくる。

ローズは籠手をつけた腕を出し、梟を停まらせた。

足に括り付けた手紙を受け取り直ぐに空に帰してやった。

父からの定期連絡だ。

魔法による伝達手段も色々ある中で、何ともアナログな方法だが、実はこの方法が一番足がつかない。

探索魔法や傍受魔法も発達しているこのご時世に、魔力を一切使わないこの方法はどんな魔法にもひっかからないのだ。


実は影が使う通信機と同じものも使えたのだが、分解され魔法陣を解析するだろうローズに、誰も渡したくなかったなんて裏事情があったりする。


用事が終わると、ローズはすぐに自室に戻り手紙を読んだ。

何故かしっかり魔法を使ったのがバレていて、しっかり怒られた。

でも手紙で怒られても、あんまり怖くない。良かった。

なんて思っている事は誰にも内緒。




その日の午後、ローズは再び司祭にこき使われてオーウェンと共に王都にあるロザイン大聖堂に来ていた。


王都の大聖堂は参拝の為に貴族もたまに訪れるので、フードを目深に被ってこそこそと端っこを歩く。

ローズが修道院行きになったことは広まっているらしいけれど、どの修道院かは身の安全の為伏せられている。

ローズはオーウェンの影に隠れ、さっさと用事を済ませた。

因みにオーウェンは実家の用事で王都に来ただけで、大聖堂に用はなかったが心配して付いてきてくれたのだ。

オーウェン曰く、婚約破棄された令嬢が偶然知っている貴族に会っていじめられる、と言う事がないとは言い切れない、だとか。そんなことを心配しているらしい。


実際は、言いたくもなかったであろう婚約破棄を、本人に言わせてしまった罪悪感に苛まれているだけなのだが。


何事もなく教会から出ようと門の傍まで来たときだった。


「ローズ」


小さく自分を呼び止める声に足を止めた。

声の主を探し顔を上げると、正面の道からそれた敷地内の植木の陰に、平民の服を着た、それでもどう頑張っても貴族にしか見えない男性が手招きをしていた。

周囲に誰もいない事を確認して、さっと男性の方に向かい三人で通りからの死角に移動した。


「久しぶりだね、ローズ。大丈夫かい?

何か困っていることはないか?」


そう言って男性はローズの腰を引き寄せ、抱きしめるように腕を回した。


「ふふ、ジークったら相変わらず心配性ね。還俗する気が失せる程快適よ。」


ローズは満面の笑みで答えた。

それを聞いたジークと呼ばれた男性は、物凄く嫌そうな顔をした。

その不機嫌な顔のままオーウェンの方に顔を向ける。


「…彼は?」


「私はロイドのオーウェン・ブライトクロイツと申します。」


オーウェンはどこかで見た顔だなぁ、どこだっけ、と考えつつ挨拶をした。

相手も名乗ってくれるものとばかり思っていたのに、更に質問が返ってくる。


「…そう。なぜ彼女と一緒に?」


口調は穏やかなのに、何だかオーウェンは寒気がしてきた。

何故か軽く威圧されているのだ。


「ああ、その、自分も実家に用があって王都に来なければならなかったので…、ついでです。」


「へぇ…」


何だかよく分からないけど地雷を踏んだかもしれない。

周囲の温度が更に下がった気がする。

オーウェンは助けを求めるようにローズを見た。


「ふふふ、ジークったらそんな格好で市井に下りているの?

昔はもうちょっと馴染んでいたと思うのだけれど…ふふ、あははは!」


ローズはこの空気を全く読んでいなかった。

堪えきれないとばかりにお腹を抱え爆笑していた。

ジークと呼ばれた彼はそれを聞くと、急に情けない顔になって寒々しい空気を引っ込めた。

何となく垂れ下がった犬耳としっぽが見えなくもない。


オーウェンは一歩下がって空気になることにした。

彼はローズと違って空気が読めるので。


「君がここに来ていると知ったのがついさっきで、慌てて服だけ着替えて来たんだ。仕方ないだろう?」


「笑ってごめんなさい。そうよね。むしろよく分かったわね?」


ローズは笑い過ぎて出た涙を拭きながら、顔を上げた。


「君のお父上とさっき会っていたんだ。当日ぎりぎりの時間に知らせてくるんだから、まったく人が悪いよね。」


ジークがため息をついて愚痴っぽく呟いた。


「あら、それは父がごめんなさい。きっと悪気はないわ。」


「どうかな?」


ジークはうんざりした顔で言った。

オーウェンが空気になったまま、それから少しの間他愛無い雑談をしていたが、途中ジークは人に呼ばれ泣く泣く帰って行った。

帰る直前オーウェンに顔を向け、物凄く冷たい目で「ローズをよろしくね。」と言われたが、あまりの威圧に小さく「はい」と返事をする事しかできなかった。


チビらなかった自分を褒めてやりたい。



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