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お父様



「宰相、ご自宅から緊急連絡が届いております。」


そう言って差し出された封筒を受け取り、差出人を見た。

古くから我が家に使えている筆頭執事の字だった。

彼からの連絡と言う事で、それがよほどの緊急事態だと言う事を悟った。

中を読んだ私は諸々の手続きも放り出して屋敷に飛んで帰った。





「ローズがいなくなったとはどういう事だ!!」


「申し訳ございません!目の前にいたお嬢様が、急に消えてしまったのです!」


「周辺をくまなく探しましたが、見つけられず…。」


そう言って、ローズ付のメイドが真っ青な顔で、頭を床に擦り付けんばかりに謝った。


急に消えた?

まさか…魔法か!


「どこら辺で消えた?」


「今ガーデンテーブルが出してあるあたりです。」


メイドの案内でそこへ行くと、私は魔法の痕跡を辿る事が出来る魔法を発動した。

やはり魔法の痕跡がある。


屋敷周辺にくまなく魔法を掛けると、塀をまたぐように直線状に5か所、魔法の痕跡を見つけた。

内側に3か所、外側に2か所。

ごく近い場所に、連なるようにあるが、一体これは何の魔法の痕跡だろうか。


「旦那様、何か分かりましたでしょうか?」


不安そうなメイドが少し哀れになって、私は言った。


「連れ去らわれた確率は低い。恐らくローズが何かの魔法を使って抜け出したのだろう。」


普通、手練れの暗殺者や誘拐犯はこんなに魔法を使わない。

魔力に敏感な者は、魔法を近くで使用しただけで感知するからだ。

そろそろローズ付のメイドは、魔力持ちにしなければならないようだ。


「市井に下りたのだろう。私が探しに行く。セレナに使いは出したか?」


「はい。奥様も、もうじきお戻りになるかと。」


「屋敷にいるように伝えてくれ。行き違いになるかもしれん。」


「かしこまりました。」


私はすぐに、町を巡回中のロイドにも通達を出し捜索の協力を依頼しつつ市井に下りた。

平民の魔力持ちは少ない。

だから、ローズの魔力は分かりやすいはずだ。

ローズが興味を持ちそうな通りの方向へ行きながら、周囲の魔力の気配を探る。


程なく、ローズの魔力を感じた。

私は急いでそこへ向かった。

ローズの魔力は目の前の公園から感じる。

だが走り回っているのは、平民の子供達ばかり。

けれど間違いなく魔力はローズだ。

よく顔を見ようとその魔力に向かって近づいた。

すると、子どもの一人が振り返った。


「ローズ!!!」


どこで手に入れたのか平民の服を着て、髪は何をしたのかくすんだ灰色のローズがヤバいみたいな顔で固まった。


「お、お、お父様…。」


「来なさい。」


「はい…。」


ローズは恐る恐る私に近づいた。


「その服はどうした。」


「お友達に借りました。」


「その子を呼びなさい。」


ローズは不安そうにしながら、その子を連れて来た。

手を繋いだまま、彼女も怒られるのかと、一丁前にローズは彼女を庇うように立っている。

他の子供達も何事かと息を殺してこちらをじっと見ていた。


「…ローズに服を貸してくれてありがとう。」


「いいいいえ!!!そそんな!別に!」


ローズは服装や見た目に頓着しない。

恐らくローズが犯罪に巻き込まれないよう、彼女が勧めたのだろう。


「必ずお礼に行きますと、ご両親に伝えてくれないだろうか。」


「そんなお礼だなんて!私も今日ローズに危ない所を魔法で助けて貰ったの!おあいこだから!!」


「…それでも、危ない目に遭わないように、容姿を平民に合わせてくれた事は感謝に値する。」


「…分かりました。伝えておきます。」


そう言うとローズの方を向き、二人で柔らかく笑い合っている。

相変わらず、この子は人の懐に入るのが上手だ。

この子ほど、人の想いに鈍感な子を私は知らない。

けれどなぜか、この子の傍にいる人間は必ず自分よりも彼女を大事にするようになる。

命令などしなくても、身を挺してローズを守るのだ。

うちのメイド達など、ローズ会いたさに異動を申し出る程だ。

ローズ付のメイドの椅子は激しい争奪戦が繰り広げられるのだと執事が頭を抱えていた。


「ローズ、帰るぞ。」


そう声を掛けると、ローズはまたね、と皆に手を振りながら嬉しそうにこちらへ来た。

微笑ましい光景かもしれない。


私が平民ならな。

こいつ、自分が怒られることを忘れているらしい。

私が簡単に許すとでも思うのか。


呼んでいた馬車に乗り込み、ローズを向かいに座らせた。

彼女はまだにこにこしている。


「ローズ、『危ない所を魔法で助けた話』を聞かせて貰おうか。」


私がほんの少しの威圧を込めてそう聞くと、ローズはぴしりと固まった。

幸い怒られることを思い出したらしい。


まだ日も高い。時間はたっぷりある。


さあ、お説教の時間だ。



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