レティシア
取り敢えずローズは遅れてやって来たサンドに行列の対応を任せ、二人を教会内の空き部屋に誘導した。
移動している時、ローズは自分が結構やらかしたことに気付いた。
平民で魔法が使える者は少ない。
修道女は併設された孤児院で育った元孤児の女性が少なくない。
だが孤児として育っても、魔法が使える者の就職先は選び放題だ。
わざわざ個人資産を持てない修道女を選ぶなんてあり得ない。
つまり魔法が使える修道女なんて、やらかした元貴族令嬢としか考えられないのだ。
彼女が刺客かと思って、考えなしに反魔法を発動してしまったけれど、これ結構やばくない?
今更だけど。
でも自分で気付いただけ成長したと思うの。なんて自己弁護しながら個室に入り、立ったまま二人に向き合った。
お父様が手配したロイドならどうにかしてくれるはず、なんてせこい事を考えつつ、どきどきしながらまずはロイドに自己紹介を求めた。
「私はオーウェン・ブライトクロイツと申します。」
ちょっと凹んでいるらしい彼はそう言った。
(ブライトクロイツ!!先生の後任の団長の家名!やったぁ、助かった!!)
もうローズは小躍りしたい気分だった。
やらかした事が帳消しになったような気持ちになっているけれど、当然だが帳消しにはなっていない。
目撃者が多いので。
それには気付かないローズは、にこにこしながら刺客かもしれない女性に言った。
「身分証を見せていただけますか?」
素直に応じないだろうなと思いつつ女性に尋ねると、不貞腐れたような顔をして意外にもすんなり身分証を出した。
確認すると彼女はやはり冒険者だった。
「レティシアさんとおっしゃるのね。」
身分証を返す時、彼女の目がチラとオーウェンの方を見た。
「…レティシア?…そうか!君、レティか!!」
急にオーウェンが俯いていた顔を上げて叫んだ。
「思い出した?」
ずっと不機嫌だった女性、レティシアが花が綻ぶように破顔した。
「お知り合いですか?」
「ええ。幼馴染というほどではありませんが、昔夏の間だけ滞在していた屋敷の近所に住んでいた子だと。
もっともそこは先々代の古い屋敷で、老朽化を理由に土地ごと手放したので本当に一時だけでしたが。」
「では、なぜ攻撃を?」
私はレティシアに目を向け尋ねた。
「ああ、それについては心当たりがあります。」
そう言って始めたオーウェンの昔話は、何とも微笑ましいものだった。
パルスである父親から剣の手ほどきを受けていた時、一部壊れていた塀の隙間から覗き込んでいたレティシアと出会い、彼女に乞われ剣と魔法を教えていたらしい。
屋敷を手放す際、もう会うことはないかも知れないが、もしも鍛錬を続けるならいつでも相手になってやる、と伝えたのだそうだ。
彼女自身はこの教会にオーウェンが派遣されているとは知らず、一夜の宿を求めて並んでいたが、オーウェンに気付き腕を試さずにはいられなかったのだとか。
なんて傍迷惑な、と思わなくもない。
話を聞きながら、自分がヤバい橋を渡る必要なんか、これっぽちもなかった事には気付いたローズ。
(ああ、お父様に怒られるかも、いや、口止めしたらバレないはず。)
なんて考えて、確実に怒られる道に進もうとしているローズを止める人間はここにはいない。
因みにレティシアは、冒険者として絶賛武者修行中らしい。
羨ましい。




