修道女ローズ
アルトザイン教会と言う教会に送られてから、1週間ほど経ったある日。
修道院の生活にも慣れ、ローズは自室でお茶を楽しんでいた。
パンとスープ、時々果物とごくたまに簡素なクッキー程度の食生活の中で、ジークに差し入れて貰ったこの茶葉は大きな救いだった。
(ああやっぱりクレール産の茶葉は最高だわ。)
それ以外の生活は、屋敷を抜け出し市井で遊んでいたローズにとって、耐えがたいものは殆どなかった。
大抵の事が経験済みだったのは大きい。
けれどお料理だけは、ミルカがさせてくれなかったのでとても苦労した。
ミルカは包丁を持つ事を禁止していたけれど、あれは多分お父様の差し金だと思うのだ。
色々と過保護なお父様だけれど、作戦通り修道女にさせて貰ったのは感謝している。
でも本当は冒険者になりたかった。
今回のこれは一時的な物。
だからこそ、一時でも良いから、冒険者になりたかった。
「はぁ…。」
ローズがそんな悩まし気なため息を付いていると、静寂を破るようにドタドタと廊下を走る足音が聞こえた。
「ローズ様ぁ――っ!!」
それを聞いてローズは更に大きなため息を吐いた。
バンっ!!とけたたましい音と共に、サンドが息を切らせて扉を開けた。
「サンド!!貴方ねぇ!様付きで呼ばないでって何度言ったら分かるの!!
そもそも廊下を走らないってあれ程怒られて何で守れないの?!
大声もダメって言われているのに、そんなに叫んで!もう!」
ローズは大声でしかり飛ばしながらサンドを睨んだ。
この計画が無事に終わるまで、身バレするわけにはいかない。
シュラム公爵側の人間にもだけれど、他の貴族にバレても恐らく動き辛くなってしまう。
秘密裏に行動するのに、貴族の目は邪魔なのだ。
けれどローズのしっ責を彼はまるで聞いていない。
ただ酸欠で苦しい息を必死で整えていた。
「ハァ…ハァ…きょ、教会の入り口で、ロ、ロイドと冒険者っぽい女性が、魔法戦を…!」
「魔法戦っ?!」
教会で魔法戦?!
冒険者って、まさか刺客?!そこまでする?!
お父様の事だから、多分私を守るためにこの教会ロイドには、ある程度事情を知っているお父様側の貴族が配置されていると思うのだ。
司祭だって配置換えされたのだから。
それを考えれば、冒険者ってシュラム公爵側の刺客じゃないの?!
(もう修道女になったんだからほっといてくれたって良いじゃない!)
内心で悪態をつきながら、ローズはサンドの頭上を飛び越えて、廊下の開いていた窓から一直線に教会の入り口に向かった。
後ろでサンドが「廊下走ってるし!っつーか窓から出るとかありえねぇ!」
とか騒いでいたので、「気のせいよ!」と言っておいた。
ローズが入り口に辿り着くと、ロイドの制服を着た若い男性と珍しい赤毛をした冒険者らしい女性が戦っていた。
二人がそれぞれ魔法陣を起動し、競うように魔力を込め始めた。
近くに魔力を持たない平民がたくさん並んでいるのに、巻き込まれたら大変だ。
結界では範囲が広すぎて守れない人がいるかもしれない。
ローズは慌てて二人の魔法陣を解析し、その魔法の反魔法を起動した。
一度に流せる魔力を最大まで使って、さらに魔力を上乗せして発動させ、何とか二人の魔法陣を壊した。
例え暗殺などの目的があったとしても、無関係な人間を巻き込むのはいただけないし、それに応戦するにしても、平民を巻き込む危険をロイドであるなら一番に考えなければならないはず。
ローズは二人にキッと厳しい顔を向け言った。
「教会前で魔法戦とは、いい度胸ですね。」
そもそもこの国の法律で、教会は魔法が禁止されているのだ。
まあギリギリ敷地の外ではあったけれど。
「…申し訳ないシスター。言い訳にはなりますが、いきなり攻撃され応戦するしか方法がなく…」
ロイドの彼は一応まずいと思ってはいたらしい。
けれど冒険者の方は、刺客にしてはやり方がスマートじゃない。
入り口でこんなドンパチやってしまえば、普通対象に逃げられると考えそうなもの。
「…お二方ともこちらにいらして下さい。」
取り敢えず身元を確認しなければ。




