筋書きと三者面談
帰宅後、私は自室で王妃様からの話を思い出していた。
私を陥れてまで、クリスティアーネさん自身は王太子妃になりたいのかしら?
別にそうなってくれてもいいのだけど。
そう思った時、良い事を思いついた。
私はお父様の帰宅を待って、執務室に突撃した。
「お帰りなさいませ。お父様。」
人払いをお願いして、にっこり微笑んでそう言った。
「だめだ。」
ジト目のお父様に、一刀両断された。
「まだ何も言っていません!」
「お前の話が挨拶から入る時は、碌でもない事に決まっているんだ。」
「円滑なコミュニケーションを取るには、挨拶からが基本って教わりましたのに!」
「それはそう言う常識的な事を、普段からしている人間の話だ。」
普段?普段…、あれ、私挨拶ってしてたっけ?
「と、とにかく!碌でもない事なんかではありません!」
お父様は更にジト目でこちらを見ている。
全くもって信用がない。
おかしい。
そんなに碌でもない事を言ってきた記憶なんかないのに。
「シュラム公爵が、私を陥れようとしているのでしょう?」
取り敢えず、話してしまえばこちらのものだと本題に入ることにした。
「妃殿下から聞いたのか?」
「はい。ですから、私犯人になります!」
びしっと元気よく手を上げた。
お父様はちゃんとこちらを見ている。
何か固まってるけど。
「犯人になったら、お父様は私を平民に落として下さい。
ジークにも話を通しておかなければなりませんね。
変に情けを掛けられて屋敷に軟禁などの処罰では動けませんもの。」
「待て待て待て!お前は何を考えているんだ!」
はっとしたお父様が慌てたように言った。
「リリーのことです。」
そう言うとお父様は疲れたような顔をして、ため息を吐いた。
「はぁー、それで?平民になってどうするつもりだ?」
「冒険者になって、猊下の護衛として、フィノイスのあの大聖堂についていきます。
おじいちゃんならきっと視察をねじ込むくらいできるでしょう?」
「それで?冒険者が教会の魔道具の所には行けないぞ。」
「私、隠密系の魔法は得意です!大丈夫きっとバレません!」
お父様は頭を抱えて、頭が痛いと言った。
大変お医者様を呼ばないと!
…お話が終わってから。
「平民には落とさん。その作戦なら、修道女でかまわんだろう。
それにその方が魔道具を見せてもらえる可能性は高い。
だが、見せてくれたとしても、リリーを返してはもらえんだろう。
あちらには都合のいい噂になっているし、現状守りの魔法陣は都市防衛の要だ。」
「では、教会の魔道具の魔鉱石くらいの規模の魔鉱石は手に入りませんか?」
「どうするつもりだ?」
「教会の守りの魔法陣の解析は終わっています。
全く同じものを作れます。」
そういうとお父様が更に頭を抱えて撃沈している。
頭痛が更に悪化したのかしら。
お願いお父様、話が終わるまで頑張って!!
「常識が、仕事をしない…。」
「お父様?」
「もう何も聞かん!部屋に戻れ!!陛下と相談する。」
ぺいっと部屋を追い出された。
翌日。
私は今、父と共になぜか陛下の御前にいる。
場所は婚約式の時に通されたのと同じ部屋だ。
王妃様はこの場にいないけれど、あの時と同じように防音の結界が張られている。
「教会の魔道具と同じものが作れると言うのは真か?」
「はい。因みにアルトゥールも作れますよ?
ストラになってから報告するらしいです。」
そう言うと、隣の父と陛下が二人そろって頭を抱えた。
「…とりあえず、実際にやってみせてくれるか?確認がしたい。
材料は魔鉱石と魔力インクとペンでいいのか?」
「後は、護符用の紙が3枚と小さくて切れ味の良いナイフ、小皿も欲しいです。」
「すぐに用意させよう。」
陛下はそう言って結界の外にいる従者に指示を出した。
「ナイフなど何に使うのだ?」
「私の血が必要なのです。」
私がこともなげにそう答えると、二人がぎょっとした顔をした。
「自分を傷つける為のナイフか?!」
「はい。魔力インクでは魔力の伝導性が悪いのです。
この伝導率で魔力効率に差が出来る事が分かったのですよ。
そう言えば、魔力インクも現代魔法で性能が上がるので開発されたのですよね?
古代魔法にはまだまだ伝導率が足りないようです。」
二人はそろってため息を吐いた。
「誰の血でも良いのか?」
「さあ、どうでしょう。サンプルが二人分しかないので断定はできません。
アルトゥールの血よりも私の血の方が性能の良い物が出来たので、魔力量が関係しているのかもしれませんが。街の防衛に使うのなら、性能は良い方が良いでしょう?
因みに伝導率が悪いと劣化版の様になってしまいます。」
そんな話をしている間に、有能な従者は材料を揃えたようだ。
目の前に材料が置かれ、結界の外に控えていたメイドや従者も全員部屋から出て行った。
まずはあの謎文字を私の血液を使って魔鉱石に書かなければならない。
私が左手の小指にナイフを当てようとすると、お父様が焦ったようにナイフを持つ手を掴んで止めた。
「ちょっと待て、私の血でも恐らく大丈夫だ。
お前とは血縁関係にあるし、魔力も多い方だ。そう変わらんだろう。」
「うーん。そうでしょうか?
これに関しては未知数です。碌に調べていませんもの。
もし伝導率が悪ければ、こんなに純度の良い大きな魔鉱石を無駄にすることになりますよ?
お父様、小さな傷なんてすぐ治ります。
それにこの血を取るための作業を今までにした回数は、一度や二度ではありませんもの、慣れていますから大丈夫です。」
私がにっこり笑ってそう言うと、お父様が悲しそうな顔をした。
「自分の身をもう少し大事にしなさい。
実験よりも私はお前の身が傷つく方が耐えられん。」
そう言うと、お父様は陛下の方に向いた。
「陛下…。」
「うむ。ヘルマンの魔力量なら劣化版と言う事はないだろう。
ヘルマンの血で作りなさい。
もし魔力量が無関係であったとしても、結果は気にせずとも良い。
このクラスの魔鉱石は兵器に使われると厄介なので、輸出はしない。
全て王家が管理している。まだいくつかあるから気にせずとも良い。」
「分かりました。ではお父様、少量で結構ですから。」
過保護だなあと思いつつ、ナイフを渡した。
お父様は小指の先を傷つけポタリと小皿に血を落とした。
そこへ魔力インクも数滴落とす。
魔力インクには魔鉱石への定着をよくする働きもあるので、混ぜた方が上手くいく。
ペン先を浸し、古代魔法を一文字書いた。
今度は護符に魔法陣を書いて行く。
これは通常の魔力インクで問題ない。
三枚にわたる教会の守りの魔法陣を一枚ずつ間違えないように気を付けて書いて行く。
「よくそんな、よく分からん模様を覚えていられるな、ローズ。」
「ふふ、この模様、私幼少の頃からずっと見ている模様だったのですよ。
魔核の模様なのですもの。」
「「何?!」」
二人がとても驚いた顔をしたので笑ってしまった。
「ふふ、いくつか魔核から見つかっていない文字もありますけれど、多分生息地がここら辺ではない魔物の魔核から発見されるのではないかと思っています。
アルがストラになる日を楽しみにお待ちください!」
そう言って、護符に魔力を流し、次々に魔鉱石に刻んでいった。
そうして完成した魔鉱石は、ちゃんと守りの魔法の性能を満たしていた。




