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儘ならぬ我が身



父は兄の葬儀に出席するため隣国に向かう事になった。

私は始め護衛の都合上お留守番を言われていたが、あらゆる手を使って隣国行きを勝ち取った。


葬儀の前日、久しぶりに見るタチアナお姉様は、お腹が大きくなっていた。

戦争が始まる少し前に、第二子をお腹に授かっていたらしい。


「あの人も生まれてくるのを楽しみにしていたのですよ。お医者様が女の子だろうとおっしゃられてからは特に。」


震える声で、彼女は笑って言った。

痛々しい笑顔だった。

よく見ると、化粧でごまかしてはいるけれど、とてもやつれて青い顔をしていた。


「…名前は決まっているのか?」


父が聞いた。


「はい、『ジャスミン』と。

あの人が、…ルイスが、女の子ができたら花の名前にしたいと言って。」


それを聞いた途端もうだめだった。

涙が次から次に溢れてきて止まらなくなった。

タチアナお姉様も我慢できなくなったようで、二人で抱き合って大泣きした。

母も目に涙をいっぱい溜めて、父に抱えられそっと部屋を出て行った。


翌日の葬儀はしめやかに行われた。

死に化粧を施されたお兄様に私は最期のお別れをした。

もう涙は出なかった。


けれど、なぜかお兄様の指にあった指輪がなくなっていた。

それはお父様も気付いたようで、タチアナお姉様に聞いていた。

彼女は遺体の確認をした時から、指輪をしていなかったと言った。

けれど、戦地に赴くときは、間違いなくしていたのを見たそうだ。

私もお父様もこれには首をかしげるしかなかった。


だが一番分からないのはリリーが見つかっていないことだ。


翼竜は、パートナーが危機に陥ると必ず守るように動く。

現に竜騎士全員の遺体が翼竜の翼の下で見つかっている。

リリーはひょっとして生きているのかとも思ったが、パートナーを失った翼竜は、必ず家族の元に帰って来る。

人とパートナーになった翼竜にとって、パートナーの家族は群れの仲間のようなものだと考えられている。

お姉様の所にも、うちにも来ていないのだから、死んでいる可能性は高い。

何者かに捕まっている可能性もなくはないが、パートナーが死んでもその翼竜は他の人間とパートナーを組むことはない。

捕まえた所でメリットが何もないのだ。


フィルスマイアー公爵は、リリーの捜索を続けると約束してくれた。

一日も早く見つかることを祈って私たちは帰路についた。



隣国から帰る途中、昼食を取るために訪れた大きな町で、私たちは妙なうわさを聞いた。

レストランで、隣の席に座っていた人たちが話していたのが聞こえたのだ。

聖地であるイノス・ベルカーン大聖堂に、女神の使いの翼竜が現れこの国を守っている。

と言うものだ。


実際は教会の屋上の魔道具の魔鉱石部分に、どうやったのか翼竜が入り込み、まるで銅像のようになっているという事らしい。

大陸全土を巻き込んだ全面戦争にまで発展しかねない戦争で、当初の二国間の戦争さえなくなったのだから、そんな噂になるのも仕方ないのかもしれない。


だがそのうわさを聞いたとき、ローズ一行は全員がはっとして顔を見合わせた。

父はすぐに教会に問い合わせたが、大聖堂への訪問はおろか予定外の滞在さえ許してはもらえなかった。

停戦はしたが、間者の潜入を防ぐため、出入国が制限される戦時のままの警戒態勢が続いているせいだ。

特に教会は都市防衛の要である守りの魔道具があるため、戦時は外国人は訪問ができなくなるのだ。

私がいるので王家の護衛もついているし、外交問題に発展する可能性から、停戦しているとはいえ強引に見に行く事もできなかった。



帰国後すぐに、父は国に働きかけ国王の名で正式に調査を申し入れた。

隣国が調査をすることは約束してくれたが、うわさが隣国に都合が良い事もあって、こちらが調査団を派遣することは拒否された。


その後、しばらくして調査結果が送られてきたが、翼竜が絶命している事しか分からなかったと言うものだった。

それを聞いたとき、正直怒りで我を忘れそうだった。

父と母が押さえつけてくれなければ、私は魔力暴走を起こしていたかもしれない。


隣国は『元ウチの竜騎士の翼竜ではないですか?』という問いに、『もう死んでいる。』と、返してきたのだ。

ふざけるなと、叫びたかった。


父と母の目を盗んで、隣国へ行こうと思った。

けれどすぐに見つかって、護身術の先生に連れ戻された。

私だって、それがいけないことなのは分かっている。

見つかれば国際問題になることも。

正攻法で行かなくては我が家だけの問題ではなくなってしまう。


それでも私は、諦めることなんか出来なかった。


何もかもが、煩わしかった。



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