絶望
その知らせは突然だった。
国境付近に災厄と呼ばれる古龍が現れたのだと。
文献にこそ残っているが、その存在はこれまでおとぎ話のようなものだった。
建国史の初めから今までで古龍が出てくるのは一度だけ。
しかもその時代の何人かの残っている手記の中に出てくるだけで、正式な歴史上は存在しない事になっている。
だがそれは確かに存在した。
今回目撃し、尚且つ生きている人は2、3人で、全員翼竜の何倍も大きく岩のような見た目をしていたと言っている。
見た目もその圧倒的な強さも手記の通りだ。
お互いの前線にいた兵たちは全滅したと報じられた。
翼竜部隊も近くの上空にいたため被害は免れなかった。
ほぼ全員即死だったらしい。
ただそのおかげで戦争は痛み分けのような形になり、古龍が討伐されるまで停戦することが宣言された。
事実上の終戦である。
その知らせを、私は屋敷でお父様から聞いた。
「うそよ!!!!うそよ!そんなの!!うそに決まってる!!!」
「本当だ、本当なんだローズ。
ルイスは、…ルイスの遺体はタチアナが確認したと、報告を受けている…。」
お父様は悲痛な顔でそう言った。
「そんな!!…そんな…」
私はその場に崩れ落ちた。
涙が、
止まらなかった。
その場に蹲ったまま、ポロポロと泣き続ける私に、お父様は何も言わなかった。
お父様も泣いているのかもしれない。
時間がたっても相変わらず涙は止まらなかった。
頭は酷く冷静になってきているのに、後から後から溢れてくるのだ。
「…私の作った指輪は、役には立たなかったのですね…。」
俯いたまま、ポタリポタリと流れ落ちる涙をぬぐう気にもなれず、力なくそう言った。
「それは違う」
椅子に座っていたお父様が立ち上がって、蹲っている私の傍に来た。
すぐ近くで膝をついて少し赤くなった目を合わせるようにかがみこんだ。
「遺族の中で遺体の確認が出来たのは、タチアナだけらしい。」
私はびっくりして、顔を上げた。
「どういうことですか?」
「どの遺体も、凄まじい衝撃で損傷が激しすぎると。
個人を特定するどころか…いやこれ以上は聞かぬ方が良いな。
翼竜に守られたはずの竜騎士でさえ、遺族に会わせるのは見合わせたそうだ。」
「そんな…。」
お父様はそう言って一つため息をつくと、床の上に胡坐をかいた。
「教会の屋上は、戦時には櫓の役目があるのを知っているか?」
私は、頬の涙を拭い顔を上げた。
「はい。教会はそのために背が高く作られたのでしょう?
守りの魔道具に守られているので安全な櫓だと習いました。」
「そうだ。フィノイス北部の教会の屋上で戦況を見ていた枢機卿が、古龍の咆哮と共に吐き出された凄まじい閃光を3度、目撃したそうだ。
一度目はフィノイス側、二度目はテラマグナ側、三度目再びフィノイス側に向かって攻撃されたらしい。
たった一撃でテラマグナ側も全滅したんだ。
ではなぜフィノイスは二回も攻撃されたと思う?」
「…なぜですか?」
全く分からなくて首をかしげた。
「ルイスの遺体はな、他の竜騎士たちからかなり離れていたんだ。
翼竜は動くものを見ると攻撃する性質があるが、同じ竜種だ、私は古龍も同じ性質を持っているのではないかと思っている。」
「そんな…では、まさか…。
お兄様は一度目の攻撃を防げたのですか?
それで、逃げるお兄様一人に向かって…」
「推測に過ぎないがな。私はそうではないかと思ったよ。」
流石に信じがたい話ではある。
全軍が一撃で全滅するほどの攻撃を防げたなんて。
「少なくとも遺体の損傷を防いだのは事実だ。それは間違いない。」
お父様は私の頭を撫でるようにぽんと手を乗せた。
「私は!…私は、お兄様の命を、守りたかった…。」
そう言って、私はお父様にしがみついて泣き続けた。




