里帰り
ルイスお兄様から里帰りすると連絡があったのは、古代魔法を解明して何とか試作品を完成させたばかりの頃だった。
私は一日でも早くもっと効率の良い物を生み出したくて、いっそう研究に明け暮れていた。
今日も朝も早くから研究を始め、たった今一段落ついた。
「完成したわ。」
額の汗をぬぐい、完成させた指輪を手に持って眺めた。
ふと、窓の外を見ると懐かしい魔力を感じた。
「リリーとお兄様だわ!!」
まだ米粒ほどしか見えないけれど、すぐに分かった。
見えないかもしれないけれど、思いっきり大きく手を振った。
そしてすぐに、部屋の窓から庭にジャンプした。
子供の頃、魔法で着地して怪我もなかったのに、なぜかしこたま怒られて、それ以来お母様が見ていない時にしか使わない玄関への最短距離である。
お兄様が近づいているのを、きっとまだ屋敷の誰も気付いていないはずだ。
「お兄様ー、リリーお帰りなさい!!」
真上まで近づいた時、風の魔法を使ってポーンっと飛び上がり、お兄様に抱き着いた。
「まったく、いつになったら大人しく玄関で待てるんだい?」
「うふふふ!お帰りなさいルイスお兄様!」
リリーが着地する前に、風の魔法でするりと下りた。
リリーに乗っているのを見られたら、大人しく玄関で待ちなさいとお説教が待っているからだ。
何事も見つからなければ大丈夫だと思っているローズは、かなりの危険思考の持ち主である。
リリーが着地して、お兄様が下りるとリリーの羽音で気付いたメイド達が急いで出迎えに来る。
メイド達は最初こそ私が先に出迎えていることに驚いていたが、最近は何の反応もしてくれない。
ちょっと面白くない。
屋敷に入って、直ぐにルイスお兄様の部屋へ突撃しようとしたら、「身支度中ですので」と、メイドに止められた。ちぇ。
昼食の時間も、なぜか家族は誰もいなくて一人寂しく食事を取った。
メイドに母も兄も王城に行っていることを聞き、自分も登城しようとしたら、メイドから止められた。
すぐに帰って来るから待つようにとの伝言があったらしい。
行き違いになってもいけないので、大人しく部屋で待った。
暫くして本当にすぐに帰って来た。
なぜかいつも帰りが遅い父も一緒である。
父の固い表情を見て、酷く嫌な予感がした。
夕食の途中で、レオお兄様も到着し、久しぶりに家族そろって食事を取った。
家族全員揃うのは、私の社交界デビュー以来だが、あの時は一緒に食事はとれなかった。
私の誕生日を祝いに、二人の兄は来てはくれるが、当日ではなく二人とも自分の都合のいい日に来るので揃う事はなかった。
家族で食事をするのは、ルイスお兄様が隣国へ婿入りが決まったと話があったあの日以来、実に5年ぶりである。
食後、大事な話があると父が言って人払いをした談話室に家族全員集まった。
「テラマグナとフィノイスの戦争が始まる。」
父の固い顔を見て、そんな気はしていた。
「やはり、そうでしたか…。」
レオお兄様も気付いていたようだ。
母がほろほろと静かに涙を流し始めた。
そうしてルイスお兄様を抱きしめた。
「どうしてうちの子なの?どうして…」
ルイスお兄様は母にされるがままじっとしていた。
お兄様も泣いているのかもしれない。
私は今朝方完成させた指輪の存在を思い出して、がたっと椅子から立ち上がった。
「お兄様!ちょっと待ってて下さいませ!!」
だっと走り出した私を、家族全員が呆けたように見ていたことを私は知らない。
自室に戻り指輪を取って、急いで談話室に戻ると、さっきまでしんみりしていた空気がうそのように明るくなって、皆笑顔で私を見ていた。
ん、何があったのかしら?
「ローズ、どうしたんだい?」
ルイスお兄様が私に聞いて、ああそうだったとルイスお兄様の目の前に行った。
手に乗せた指輪を、胸をはってずいっとお兄様に差し出した。
渾身のどや顔である。
「これは?」
「完成したのか?!」
すぐにお父様が興味深そうに指輪を覗き込んだ。
今回は研究成果をちゃんと報告した。
指輪の台座が欲しかったので。
「はい。今朝ようやく形になりました。お父様にお借りしたあの指輪の性能は軽く越えていますよ!」
「凄いじゃないか!」
珍しく、父が褒めてくれた。
「ひょっとして、ローズは古代魔法を解明したの?」
恐る恐る聞いてきたお兄様に、口元に人差し指を当ててしーっと言った。
「内緒ですよ?これは改良した守りの指輪です。」
ごくっと喉を鳴らしたお兄様が、指輪を受け取った。
暫く眺めた後、それまでしていた父の指輪をはずし、私の作った指輪をはめた。
借りていた指輪を父に渡し、兄は私が作った指輪に魔力を注いだようだ。
結界に包まれた感覚がした。
「これは、すごいな。ただの魔鉱石にしか見えないのに。ちゃんと発動してる。」
レオお兄様も関心したように覗き込んでいる。
「うふふ。頑張りました!理論上はお父様の指輪の5倍近く魔力効率が良いはずなんです!」
「「それ程か!!」」
お父様とレオお兄様が同時に叫んだ。
「やっぱりうちの妹は最高だ!!」
ルイスお兄様が思いっきり抱きしめてくれた。
『SS 可愛い妹と可愛くない義弟』でルイスお兄様の疑問の答え。
窓から庭へ直通経路を使用した。




