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私は何も聞かなかった



私はヘルマン・ブラントミュラー。

この国で宰相をしている。


最近、騎士団長が姿を消した。


彼は独身で家族もおらず、誰も何も聞いていなかった為、当初事件の可能性を疑われ王城は一時騒然となった。

だが捜査の為、寮の彼の部屋に入ると「修行の旅に出る。」と書かれた本人の直筆の書置きが発見された。


急激に疲れを感じた。


何故だろうか、うちの娘と同じものを感じる。

こう、何と言うか、理解できない思考回路とか。

その結果、導き出された謎行動とか。


私は考える事をやめ、後の事は全て副団長に一任した。

要するに「副団長が団長になり、新しい副団長は団長が任命するように」と言う事だ。

騎士団の中の事は、騎士団でどうにかしてくれ。

私は忙しい。


騎士団の寮から執務室に戻る途中、ジークバルト殿下に会った。

彼も騎士団長の一件を気にしていたため、彼の寮の部屋の書置きの内容を教えた。

暫く何やら考えた後、こんなことを言った。


「悪いんだけれど、今日帰宅してローズに会ったら、護身術の先生から一本取ったか確認してくれる?」


そう言えば、あの団長は娘の護身術の先生だったな。

一本…?護身術で一本?

護身術って、確か後ろから抱き着かれた時の対処、とか後ろ手に縛られた時の対処、とかじゃなかったか?

一本ってなんだ。

何だか嫌な予感を抱きながら、ローズに会うため早めに帰宅した。


帰宅後すぐ、彼女を部屋に呼び、昼間殿下に頼まれた質問をした。


「そうなのです!!昨日初めて先生から一本取れたのです!!

最近体が成長してきたのですけれど、魔力も伸びたようで、いつもなら魔力切れで負けてしまうのですけれど昨日は魔力が残っていて、初めて意識を失うことなく訓練を終えられたのですよ!!

ん、ところでなぜそれをお父様がご存知なのですか?」


「…ローズ、一本とは何だ?」


「??」


「殿下にそう聞くように言われただけだ。護身術を教わっていたんだよな?」


「そうですよ?一本は一本です。模擬戦で勝利したのです。」


「模擬戦?!なぜ護身術で模擬戦をするんだ?!」


「え?しないのですか?」


「護身術は、基本的にこちらから攻撃する物ではない!

やられた時に身を守る術を習うものだ!」


「やられたらやり返さなければこちらが危ないではないですか。」


「待て。なんだその令嬢らしからぬ危険思考は!

百歩譲って模擬戦をしていたとして、相手は騎士団長なのだから、当然手加減してもらった上での一本なんだよな?」


「いいえ。もう最近は本気でやらないと負けるって。

パワーや技術はもちろん先生には敵わないのですけれど、スピードは上回ったのですよ!

戦闘するうえでスピードと言うのは、かなり有利ですね!

先生は防御力が高すぎて、下手な攻撃では全くダメージにならないので、魔法攻撃で先生の体力を少しずつ削る戦法しか取れないのですけど。

でも先生の攻撃は当たると私は一撃で撃沈するので、今までは油断で終わったりも結構あったのです。

油断せずに躱し切れても、先生の体力を削りきるより、私の魔力か体力が尽きるのが早かったのですが、魔力が増えたお蔭で、今日初めて先生の体力を削りきることができたのです!うふふふ。」


…もう、意味がわからない。


「そうか…。」


私はローズに部屋に戻るように言った。


さっきのは、幻聴だろう。


きっとそうだ。





翌日、陛下に呼ばれた。


「ヘルマン、騎士団長が姿を消したのはそなたの娘に負けたからだとパルスらが騒いでいるのだが、真か?」


「知らん!!」



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