ソルモリスの建国祭
今日は午前中、王妃様のお茶会にお呼ばれしている。
ローズがうきうきと登城したら、なぜか長距離用の魔導馬車に押し込められた。
目の前に座っているのは、ジークバルト殿下。
もう嫌な予感しかしない。
「王妃様にはめられるなんて…。」
ちょっとショックを受けていると、目の前に可愛らしい包装紙に包まれた、小さな何かがずいっと差し出された。
顔を上げるとジークがとても良い顔で私に取るように促した。
受け取って包みを開くと艶やかな赤い色をしたお菓子が出てきた。
キラキラしていてとっても美味しそうだ。
「最近人気の洋菓子店のものらしい。
周りが飴でコーティングされてるから持ち運びに便利なんだ。母上に渡された。」
口に入れた瞬間、ローズはくわっと目を見開く。
周りの甘酸っぱい飴が溶けて中からふわっと洋酒の香りがするチョコレートが出てきた。
(口溶け最高!!何て美味しいの!!はめられたなんて思って王妃様ごめんなさい。)
恍惚とした表情でお菓子をもぐもぐするローズを見て、ジークはほっとした顔をした。
「急にごめんね。
日程的に今日出発するのが最適らしくて。
ソルモリスの建国祭は1週間続くから、中日から終日にかけてのどこかで出席するつもりだったんだけど、初日に出席して、早めに引き上げようと言う事になってね。」
「ソルモリスの建国祭は、ジークの成人の儀で使者の方が言っていましたね。」
「12歳から父について出席しているからね。」
「どういった感じのお祭りなんですか?」
「王城で行われるパーティーは、成人の儀の時のような感じかな。
周辺国からも王族や高位貴族が集まるからね。
城下では大通りにたくさん市が立って、とても賑やかなお祭りをしているんだ。」
「市が立つのですか?それは見たいです!」
「うーん、護衛の都合がつけば帰る日に少しなら見られるかな?
あんまり期待はしないでね。
今回初めて父上がいないから護衛がいつもより少ないんだ。」
「護衛の必要なんてありませんわ。
パルスにはもう私より強い騎士は先生だけですもの。」
「え?」
ジークが固まった。
暫くして復活したらしいジークがボソッと呟いた。
「…一体、何を目指しているの?」
何だろうね?
夕方、もう日も暮れる頃、漸くソルモリスに到着した。
王城に入ると、招待客の為の部屋にすぐに案内された。
建国祭が明日に迫った今日は、到着した国は晩餐会があるそうだが、少し時間が遅かったので部屋で食事を取ることになった。
因みにこうなるように仕向けたのはジークで、ローズへの思いやりである。
食事の時、ジークと来賓について話を聞いた。
ソルモリスとテラマグナはかつて大きな戦争をした国だが、現在は停戦して50年程経ち国交も正常化しているので、テラマグナの使者が来ている可能性が高いらしい。
フィノイスもおそらく王太子であるテオドールが来るだろうと言っていた。
ソルモリスの采配でフィノイスとテラマグナは日程をずらしているようだ。
つまり、私たちが初日になったのは、友好国であるフィノイスが初日だから。
恐らくテラマグナは終日のあたりなのだろう。
日程が急に変更になったのは、水面下でいろいろなやり取りがあったのだろうとジークが言っていた。
後はジークの成人の儀に招待状を送っていない、ロザインとは離れている国からも出席している使者がいるので日程さえ合えば、顔つなぎの必要もあるらしい。
私としては違う日程であって欲しい。切実に。
ええ面倒臭いもの。
そういえば、私は着の身着のまま人さらいのごとくここに連れて来られているので、荷物の心配をしたが、ドレスから何から何もかもを用意されているらしい。
楽と言えば楽だけど…それでいいのかと思わなくもない。
翌日、一緒に来た自国のメイドに磨かれて、ドレスを着せられる。
こんなドレス、見たことないんだけど。
精神衛生上良くなさそうなので、深く考えるのはやめた。
これから、ソルモリス国王にご挨拶に行くらしい。
同じく正装に着替えたジークと、こちらのメイドに案内されて部屋を出た。
来たときはあまり見られなかったが、ソルモリスの城は軍事大国は伊達ではないなあと思う造りで、要所要所にフルプレートや剣、武装をした兵士の絵画等が飾られていた。
謁見の間に入ると、正面に国王らしき人物と、隣に成人の儀で挨拶をした使者の人が立っているのが見えた。
位置的にちゃんと宰相なのだが、どう見ても軍部の偉い人にしか見えない。
相変わらず筋肉が凄い。
二人そろって礼を取り、顔を上げた。
「遠路遥々よう来なさった。一年見ぬ間に随分と立派になったものだ。
そなたのお父上もお喜びだろう。」
国王は父より随分お歳に見えた。
白髪交じりでしわも深く刻まれている。
けれど、眼光は鋭く威厳は国王のそれである。
「お褒め頂き光栄です。
父からはまだまだだと言われておりますが、本日は私が父の代理として勤めさせて頂きます。
こちらは私の婚約者です。」
「ブラントミュラー公爵が娘、ローズマリーでございます。
どうぞよしなにお付き合いください。」
最上級のカーテシーで挨拶をする。
この辺りの地域までは、王族に対するマナーがあまり変わらないので、そう言う意味では楽である。
挨拶を無難にこなし、王の御前から退出した後、昼食会の支度の為ジークと別れた。
昼食会は、前哨戦のようなもの、らしい。
建国記念のパーティーではあるが、昔から実質周辺国の会談のようなもので、2か国以上に関わる問題などは、昼食会であらかじめそれぞれ希望を出し枠組みのような物を作っておくのだとか。
それを元に本来の首脳会談で、細かい部分を調整するのだ。
元々大国のソルモリスは、この辺りのリーダー的存在で、軍事国家になったのは必然なのかもしれない。
近隣諸国がもめると、軍事介入も何度か行っている。
しかし、テラマグナは宿敵の様な関係で、ここ50年は表向き仲良くはしているが、実際は腹の探り合いである。
それでも、国交が正常化してからこの建国祭の招待状を送るようになり、つい数年前からテラマグナもこの建国祭に参加するようになった。
ただし、首脳会談は毎回不参加である。
テラマグナの真意はどの国も測りかねている。
今回の昼食会は、恐らくフィノイスとテラマグナの事が話し合われる。
その為、ソルモリスの席の傍にフィノイスとロザイン、それと両国の南側にあるノルトロー公国の使者の席が近くに配置されるだろう。
そんな話をジークから聞いているローズは、相槌を打つだけの昼食かあ…まずそう、とか思っている。
もとより話題に首をつっこむ気はさらさらない。
ジークが初めに「建国祭の中日か終わりの方に出席するつもりが急に~」とか言い訳してますけど、そもそも建国祭の日程すら知らされていないローズ。
知らされてないなんて思ってないジークと、言われたのに忘れてたのかなと思っているローズの会話。




