非公式模擬戦
私はいつも通り髪をアップにし、ボロボロになった運動着ではなく、新しい運動着に着替えいつもの訓練場にやってきた。
暫くすると、テオドール殿下とジークが二人でやってきて、訓練所の休憩スペースに移動した。
休憩スペースはこの建物を上から見た時、花の形のちょうど中央にあるスペースで、訓練の様子を安全に見る事が出来る場所なのである。
因みに花形の花弁の部分が訓練スペースだが、5区画あるどの訓練場も中央の休憩スペースから見る事が出来る。
逆に言えば全ての訓練場から攻撃が飛んでくる心配があるので、守りの魔法の魔道具で結界が張られ、更に特殊な強化ガラスが張られている。
二人が椅子に座ると、いつも通り音もなく先生がやってきた。
因みに最近ローズもこの移動法を習得した。
どんどん人間離れしていることに気付く人は、幸いなのか不幸なのか誰もいない。
「今日は模擬戦だな。外野は気にするな。ちょっと本気で行くぞ。」
実はもう、私の実力は先生に追いつき始めているらしい。
先生から一本取れたことはないので、いつものようにギリギリ上の実力で調整して攻められているとしか思わないが、先生本人にそう言われたのだ。
だから、本気と言われると気が引き締まった。
恐らく余所事を考えていれば、あっという間に地に伏すだろう。
息を整え、臨戦態勢に入る。
そして、一歩を踏み出した。
今私が出せるトップスピードで向かっていく。
魔力を推進力にする方法を教わってから約1年、王妃教育で時間が余ったら最近は訓練場へ来て、騎士相手に戦うようになって更に技は磨かれた。
バシンッ
渾身の蹴りも鈍い音はするが、相変わらず先生の体制を崩す事は出来ない。
更に打ち合い、お互い魔法を展開しぶつけ合う。
先生の発動も早いので、反魔法も成功率は五分五分だ。
(ああ、気持ちいい。)
どこに打ち込んでくるか、どんな戦法を取るか、お互い知り尽くした相手である。
途中でこの模擬戦の理由などすっかり忘れて夢中で戦った。
最近はこうやってなかなか勝負がつかず、最終的に私の体力か魔力のどちらかが尽きて終了することも増えた。
魔力は20代後半くらいまでは訓練次第でゆっくり成長すると言われている。
(いつか、先生を負かせるくらい強くなるんだ!)
「両者そこまで!!」
急にパルスの副団長の声がして、はっと我に返る。
打ち合いを止めて、声の方を見ると副団長が物凄いジト目でジーク達のいる休憩スペースを指差した。
「あ、忘れてた。」
今日は気を失うわけにはいかないのである。
見るとジークが手招きしている。
私は急いで休憩スペースに向かった。
「お疲れ、ローズ。」
「ありがとう、ジーク。」
差し出されたタオルで汗を拭き、水を飲んだ。
ローズが人心地ついて再び二人の方に向き合うと、急にテオドール殿下が目の前に進み出た。
初対面の時のような、見ているのに見ていないような目ではなく、とても真剣な目で真っ直ぐにこちらを見据えている。
「貴方を見くびっていた、申し訳ない。」
そう言って頭を下げるので、かなり慌てた。
「ああ!そんな!気になさらないで!何というか…、その、わたくしがとても大人げなかったですわ。」
ローズ的にはもうその一言に尽きる。
結局、君は何も出来ないと言われた事に腹を立て、反発しただけなのだ。
「いいや。君の努力を踏みにじったようなものだ。己の恥を知った。」
「そんな事はありませんわ。殿下のように思われるのが一般的ですもの。わたくしの努力はわたくしにしか分からないもの。それなのに、反発した私こそ恥を知るべきなのですわ。」
「二人とも謝罪合戦は不毛だよ?」
ジークに呆れ顔で言われ、二人で顔を見合わせた。
「ふふそうね。」
「ああそうだな。」
二人で握手して不毛な謝罪合戦を終わらせた。




