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隣国の王太子



社交界デビューも無事終わり、ホッとしたのもつかの間、私は再びなぜかとても豪華なドレスを着せられてジークの隣に立っている。

それもこれも私の夜会が解禁になってしまったせいである。

でも私、何も聞かされていないんですけど。


まず、朝から磨き上げられた時点でこうなることは半ば予想していた。

夜会か何かだろうと。

招待状なんて見てないけれど、きっとお父様が駄々をこねる私の説得を面倒臭がって内緒にしていたんだろうとは思った。

ドレスがいやに豪華だなぁとは思ったけど、社交界デビューも凄かったしそんなものかなと。

だが今目の前に隣国の王太子がいるのは、完全に予想外である。


「テオ、紹介するよ、婚約者のローズマリーだ。ローズ、彼はフィノイス国の王太子、テオドール殿下だよ。」


こういうのは心の準備をさせて欲しかった…。

さっきジークに聞いたけれど今日はジークの成人の儀というものらしい。

近隣諸国から王族や高位貴族が来ているのだそうだ。

フィノイスは国王陛下や主だった貴族はテラマグナとの緊張状態が続いているため流石に来られないので、執務はまだあまりしていない王太子が代わりに出席したようだ。

二人は愛称で呼び合う仲のようで、ジークもフランクに話している。

けれど、私が初対面の他国の王族への挨拶に、礼を欠くわけにはいかない。

ジークの顔に泥を塗ってしまうことになる。


「初めまして、テオドール殿下。わたくしはブラントミュラー公爵が娘、ローズマリーでございます。以後、お見知りおきください。」


そう言って、最上級のカーテシーをする。

カーテシーも段階があり、その場に会ったものをしなければ、見下されたり礼を欠いたとして叱責されたりすることもある。


「丁寧にありがとう、ローズマリー嬢。とても美しい人だね、ジークが羨ましいよ。」


そう言ってにっこり笑った。


(全然羨ましそうには見えないけど。冷たい目。どこか別の場所を見ているみたい。)


目は合うのに、合っていないと言うか、見ているようで見ていないと言うか。


(無関心。うん、一番しっくりくる。)


ジークは彼と近況を話している。話している時は、あまりそうは見えない。


(女性が嫌いなのかしら?)


「膠着状態は続いているが、今はまだ雪が解けていないから平和なものだ。」


「ではまた夏から仕掛けて来るんだろうか。」


「そうだと思っている。前回は国境近くの村が2つ、襲われて壊滅した。酷いもんさ、食料も何もかも根こそぎなくなっていた。」


「相手も冬を越せないから必死なのでしょうね。」


私がそう言うと、なぜかテオドール殿下が驚いた顔をした。


(私、何か間違ったかしら?それとも話に入ってはいけなかった?いいえ、王妃様のマナー講義でこういった場合分からなくとも相槌を打つなど話に混ざらなければならないって…)


「なぜ、そう思う?」


テオドール殿下がそう聞いてきた。何だか初めて本当に目が合った気がする。


「それはもちろん、テラマグナの植民地のような扱いの地域でしょう?おまけに元々恵まれてはない土地ですもの。搾り取られては冬は越せないわ。」


「よく勉強なさっているようだ。」


「彼女は王妃教育で求められる水準はもう越えているのだけど、もっと学びたいといってね。」


「先生が良いのですわ。とっても面白いのです。それより話の邪魔をしてごめんなさい。」


「邪魔なものか。では、君に尋ねたい。もし君ならテラマグナ相手に何をする?」


それを聞かれて私は少し笑ってしまった。


「ふふ、笑ってごめんなさい。実はその質問、王妃教育で政治の授業の最初の講義内容だったのです。わたくしはやはり国境を守るしかないと答えましたわ。戦争をするつもりの相手に、どんな交渉を持ちかけても無駄でしょう?ですが、その少数民族とは交渉出来ないのですか?」


「ああ、彼らはどうもテラマグナの密命を受けているようだ。」


「ああ、やはりそういう事ですのね。大義名分をいかにして作らせないか、と言う事なのですね。それと同時に戦争になった時の備えもしなくてはならない、と…。」


「…もし貴方がフィノイスの王族で、戦争になったらどうしますか?」


「テラマグナに行きますわ。」


私は即座に答えた。


そう言うと、二人がとてもびっくりした顔をした。


「なぜ?」


「あら、だって戦争で負けた国の王族の中で若い女性は後宮に入れられて軟禁でしょう?もしも負けたらそうなるのだし、勝てれば当然無事に帰れるでしょう?だったら、戦争開始直後に行って、少しでも自国が有利になる情報を得るなり妨害なりが出来るように動いた方が良いではありませんか。わたくし、魔法には自信がありますの。か弱い令嬢の振りをして、王城を探るくらいやってみせますわ。」


そう言うと、二人はちょっと呆けていた。


「変わった考えだね。ご令嬢が行ってどうにかなるとは思えないけれど。」


(あ、馬鹿にしてる。)


何と言うか、私の中の何かの血が騒いだ。


「あら、見くびっておりますのね?わたくし、魔法戦は得意ですの。試されますか?」


少しだけ威圧を放って、体内の魔力を意識的に制御する。

戦う前の臨戦態勢と言うのは、相手によっては実力をある程度伝える材料になるのだ。


「ローズ!流石に他国の王族相手に魔法は使えないよ。」


かなり焦ったジークが言った。


「ふふ、分かっておりますわ、殿下。冗談でございます。テオドール殿下、失礼を申しました。お忘れください。」


そう言って、テオドール殿下に頭を下げた。

テオドール殿下の顔を見ると、とても驚いた顔をしていた。


(か弱い令嬢ではないくらいは伝わったかしら?)


ローズ的にはちょっとした仕返しのようなものだった。


「ねぇジーク、流石にローズマリー嬢と戦ってみるわけにはいかないけれど、戦っているローズマリー嬢を見る事は出来るかな?」


んん?


「ローズ、君はもう本当に私の予想の斜め上を行く。テオ、何かもう色々と勘弁してくれ!」


ジークが頭を押さえて言った。


「良いじゃないか。非公式にこっそり見に行くくらい。君と俺の仲だろ?」


急にテオドールは距離を詰め、ジークの肩に自分の腕を乗せて、ちょっと悪い顔で言った。

何かもうもの凄く面倒臭い事になった事だけは、私にも分かった。

うん。何かごめんジーク。



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