塀を越える手段
お父様に、せっかく完成させた護符を取り上げられてしまったけれど、魔法自体は出来ている。
だって、「魔法陣と詠唱」に魔法陣から詠唱を導く方法も載っているもの。
でもちょっと複雑な魔法陣なので、詠唱が物凄く長い。
けれど、せっかく出来上がった魔法を先生が来る明日まで待てなかった。
成功しているかどうかも分からないし。
そこで、お父様が城に登城した後、自室でメイドの目を盗んで魔法を発動させてみた。
すると、目の前に四角い透明の箱が出来た。
触ってみると、ちゃんと感触があり、更にその四角い箱の中にはどんなに押しても手は入らない。
「これ…ひょっとして、…乗れるんじゃない?」
もう一度、今度は足元に発動させてみた。
そして、その四角い箱の結界に足を乗せてみる。
ぐっと力を入れても、ぐらりともしない。
体重を完全に乗せて、その結界の上に乗った。
「乗れた…。これ、ひょっとして、足場に出来るかも…。」
その時部屋の戸をコンコンとノックする音が聞こえて、慌てて下り魔法を消した。
「お嬢様、お茶をお持ちしました。」
「あ、ありがとう、リンド。」
ぎりぎり間に合った。
メイドはお父様に何を言われているのか知らないけれど、片時も目を離してくれない。
自室にいる時、お茶や手紙の準備など何かを頼んだ時にだけ、少しだけ目が離れる。
その短い時間に何とか私は塀を乗り越える手段を得た!
でも、次は姿を見えなくする魔法が必要だわ。
幸い、それっぽい物をお父様の部屋で見つけている。
「魔法訓練の方法と実践」と言う本の中に、隠密系の魔法と言う括りで色々素敵な物が載っているのだ。
けれどこれは、屋敷では発動しない。
何か、妨害するものがあるようで、発動してもすぐに魔法陣が消えてしまうのだ。
デッセル先生にそれがどうしてなのか聞くと、物凄いジト目の先生が、物凄い事実を教えてくれた。
こういう本に乗っている隠密魔法と言うのは、対策が簡単で既に城や重要な場所には対策がされている物だけなのだ。
つまり、うちの屋敷にこの隠密魔法を使って侵入しようとしても、対策がされてあって不可能なのだ。
よくよく考えたら、それもそうだ。
誰の目に触れるか分からない本に、誰にも察知されずに屋敷に入れる魔法なんかあったら大変な事が起きるかもしれない。
犯罪者の手に渡ったら泥棒し放題じゃないか。
だから、間者をしている者などは秘匿された独自の隠密魔法を使っているらしい。
つまり、この本に載っている隠密魔法を改造すればいいのか。
うん。いけそう。
なんて事は、絶対に内緒。
デッセル先生はローズに、この魔法を使用できる場所であっても、不法侵入は犯罪であるという一般常識を教えました。