おじいちゃん先生の秘密
今日は歴史の授業だ。
公爵家では家庭教師は科目ごとに分かれていたけれど、王妃教育では、政治も経済も歴史も、この貴族籍を持っていないらしいおじいちゃん先生が教えてくれる。
とっても博識なおじいちゃんだ。
そう言えば、この先生に初めて会った時からずっと心の中でおじいちゃん先生と思っていたのをついうっかり口に出してしまい、その呼び方を気に入ったらしいおじいちゃん先生が、その呼び方でいいと言うので、ずっとそう呼んでいる。
でも最近は敬称さえ付け忘れるので、もうただのおじいちゃん呼びである。
「おはよう、ローズ。本は読めたかの?」
「おじいちゃん、おはようございます。うん、この本とっても面白かったわ。歴史書はあまり面白くないのが多いのに、視点が変わるだけでこんなに変わるなんて。歴史は人が紡ぐものというのを実感したわ。」
「そうじゃろう。もっともこれは多分に主観を含んどるので、同じ時代の正式な歴史書もいくつか見て判断せねばならん。歴史は時の権力者が捻じ曲げる例が過去にいくつもある。だが、そこからいかに正しい物を選び出すかは、結局人を知る以外に方法がないのじゃ。どんな昔でも結局人の思いと言うのは善も悪もあまりかわらんものだ。」
「この時代の正式な歴史書は前回しましたけれど、そう言えば一つ大きくこの本と違う部分がありましたわね。」
「そうじゃな、それこそがわしが伝えたかったことじゃ。お主はどちらが正しいと思う?」
「この王妃の手記の方ですわ。」
「なぜそう思う?」
「これに関しては、実は我が家に同じ時代の方の手記が残っているのです。もっと詳しい裏話が載っていますのよ。もっともこの本を読んだ時に、かつて読んだその本に結び付いたのですけれど。その本を読んだ当時は正式な歴史書を知りませんでしたもの。」
「なんじゃと!!ヘルマンめ、そんな大事なものを隠し持っとったのか!それは、権力者が歴史を捻じ曲げた証明になりうる大事な手記じゃ、是非わしにも見せてくれんか?」
「もちろんです。じゃあ、おじいちゃん、代わりにおじいちゃんが何者なのか教えてくださいませ。」
そう言うと、おじいちゃんはとてもびっくりした顔をした。そうして不思議そうに言った。
「なぜ知りたいと思うのじゃ?」
「私ね、おじいちゃん先生が何者なのか、最近ちょっと分かった様な気がしますの。それでね、もしそれが合っていたら願ったり叶ったりなのです!その立場の方にずっとお願いしたいことがありまして!」
「ふむ、では聞こう。お主はわしが何者じゃと思っておるのじゃ?」
「教会の司祭以上の役職の方です。枢機卿ではありませんか?間違いなく平民ではありませんもの。」
「ふぉっふぉっふぉ、やはりお主は面白いのぉ。それで、枢機卿じゃったとして何をお願いするつもりなんじゃ?」
「教会の屋上にある守りの魔道具を見せてくださいませ!!!」
「…お主はまた、とんでもない事を言い出すの。」
おじいちゃんがとっても呆れた顔をしていた。
古い教会の屋上には守りの魔道具と言う、守りの魔法が刻まれた魔道具が設置されている。
設置された教会がある街を、すっぽり覆う程の大規模な守りの魔法が刻まれていて、現在でも都市防衛の要と言われている。
純度の恐ろしく高い、かなり大きな魔鉱石を使用しているらしく、その魔鉱石だけでも非常に価値が高い。
そのため、教会の屋上は勝手に入れないよう魔法でガチガチに守られていて、見る事さえ出来ない事になっている。
「だめ?」
コテリと首をかしげて聞いてみる。
「だめもくそもあるか。まったく、わし一人の判断で許可できるものではないわ。まあ陛下に掛け合うくらいはしてやろう。魔法学が好き過ぎて困るとヘルマンが言っておったがそんなお願いをして来るほどとは。」
「それで、おじいちゃんは枢機卿ですの?」
「ふぉっふぉ。そうじゃよ。ご名答じゃ。」
「最初に教えてくれたヴィンセント・ヴィルケという名前は偽名ですの?教会に問い合わせたけれどヴィルケ枢機卿なんていないと言われましたわ。」
「いや、本名じゃよ。ただしヴィルケはラストネームではなくてミドルネームじゃ。ラストネームはアイゼンじゃよ。」
「アイゼン枢機卿って、枢機卿団の?!おじいちゃんってそんなに偉い人だったの?」
まさかのビックネーム。枢機卿はかつて貴族だった家が世襲している役職だが、その中でも枢機卿団は教皇に次ぐ序列二位の役職でロザイン側の教会には3人しかいない。
「ところで猊下って呼んだ方がいいの?」
「今は必要ないのぉ。わし先生じゃし。」
「そう言えばおじいちゃんは父と仲が良いんですの?」
「あやつはわしの教え子じゃ。」
「ええええ!!初耳です!」
今まで教えてくれた情報の中で一番びっくりした。




