めでたい知らせと野放しのローズ
私が王妃教育を受け始めてから半年が経つ頃、フィノイスにいるルイスお兄様から吉報が届いた。
何と私に甥っ子が出来たらしい。
フィルスマイアー家待望の男の子である。
向こうのお義父様も大喜びのようだ。
もちろんこちらのお父様も、当然お母様も浮かれている。
実は少し前にレオお兄様からもヴァネッサお姉様が妊娠したと連絡を貰ったばかりなのだ。
ルイスお兄様の方が早かったことに、またレオお兄様は何かしら言いそうだが、兎にも角にもおめでたい。
両親が会いに行くと聞いて私も行く!とごねたが、王妃教育と護衛の都合で許可が下りなかった。
兄に甥っ子を連れて里帰りしてと手紙を書いたが、生まれたばかりの子をリリーに乗せて連れて行けるわけないだろと拒否され、じゃあ王妃教育が休みの日に私一人で行くと言ったら許可は下りないのになぜか護衛が増えた。
解せぬ。
そういうわけで、今日から一週間、メイドや執事は大勢いるが、私一人でお留守番である。
つまり、市井に下り放題だ!いやっほぅ!
両親は相当浮かれていたらしい、私に注意事項を言わずに旅立ったのだ!
禁止されてないって素晴らしい!!
今日の午前中は政治・経済のお勉強だが午後から空きなので、いつもならアルと魔法研究をする所だが、市井に下りて今日は彫り師のおばばの店にでも遊びに行こうと思っている。
おばばに出会ってからというもの、着々と、それはもう着々と刺青は増えている。
最近は刻む場所に悩むくらいだ。
最初の頃は湯浴み担当のメイドから報告を受けたお母様に毎回泣かれていたけれど、最近はもう諦めたようだ。
さめざめと泣かれると流石に居心地が悪かったけれど、最近は白い眼を向けられている。
なかなか良い傾向だと思うの。
今日は炎系の魔法の反魔法を刻むつもりだ。
護身術の先生が炎系が得意で、最近かなりうっとおしいのだ。
今に見てらっしゃい!
*****
今日は再び護身術の日である。
ふふふ。この日を待っていたわ!!
最近うっとうしい炎系魔法、全部封じてやるわ!!!
早々に訓練場に行って準備運動していると、いつも通り音もなく先生がやってきた。
「…待たせたか。始めるぞ。前回のおさらいだ。」
そう言って、前回訓練した体術で間を取る方法と、取った後間髪入れずに魔法を発動する訓練をした。
これは色々なバージョンがあって、今は腕を負傷している設定のハンデ戦だ。
反復練習は大事だ。
特に魔法の発動は元々早い方ではあったけれど、こういった咄嗟に発動するって案外難しい。
特に私の場合刺青が多いので、体のどこに刻んだ魔法陣に魔力を流すかは訓練しておかないと、思った魔法と全然違う魔法を発動してしまう恐れもある。
けれどこれが出来るようになると、考えることなく即座に魔法を発動することができるようになるのだ。
「よし、定着したな。次だ。受け身は取れよ。」
(来る!)
物凄いスピードで正拳突きのように突っ込んできた。
スピードに対応できないので前に訓練した通り腕でガードして同時に結界魔法を発動する。
「ぐぅっ!」
結界魔法ごと吹っ飛ばされる。
なんて馬鹿力よ!
見事に吹っ飛ばされたので空中で体制を立て直し着地しようとした。
しかしその前に、何だかよく分からない攻撃を受け、ぎりぎり受け身を取ったものの撃沈した。
「今のは…?」
がばっと起き上がって先生の方を見た。
「何だと思う?」
相変わらず極悪非道な顔でニヤリと笑う。
「吹っ飛ばされた私に追いついたの?って言うかいつも思うけど、どうやったらそんなスピードが出るの?」
最初は鍛えてるからかなとか色々思ってたけど、どれだけ鍛えたって無理なスピードだと思う。
「魔力をな、足の裏から打ち出すんだ。最初からトップスピードが出るぜ。」
「ああ、そういう事なの?!ん、でもそれだけじゃ説明つかない動き時々してますよね、先生。」
「はっ。よく見てるな。全部魔力の使い方だ。後は自分で考えろ。」
魔力は推進力になるのか。
考えたこともなかった。
そう言えば古代魔法研究で魔法陣を浮かばせる時、魔力量を合わせる為に手を重ねて魔力を相手の方に押すけれど、拮抗していないと相手の手を押して、手が離れてしまう。
結局その押す力を瞬発的に強く出し推進力にするのか。
かなりの慣れが必要になりそう。
刺青に魔力を込めるときは、ガンガン流すだけでよかったけれど、一気にどんっと打ち出してすぐに切らないと、あっという間に魔力切れになってしまいそうだ。
「ちょっと試させて下さい。」
そう言って暫く走ったりジャンプしたり色々試してみた。
(これは魔力が減った時は多用出来ないな。)
慣れていなくて無駄が多いせいもあるかもしれないが、下手な攻撃魔法に近いくらい魔力を使う。
けれど、スピードというのは、それだけで優位にたてる。
(要は使い様ということね。)
「どうする?もう模擬戦に行くか?」
色々試していたら、先生がそう言ってニヤリと笑う。
私は返事をする変わりに同じくニヤリと笑った。
いつも私の一歩目が開始の合図だ。
足から魔力を打ち出して、トップスピードで殴り掛かる。
同時に攻撃魔法の魔法陣の刺青にもすぐさま魔力を流す。
(もう、なんで隙が出来ないのよ!)
殴り掛かった所で、ぐらりともしないので反撃が来る前に離れて魔法を発動する。
先生の動きは無駄がない。魔法をただ避けるのではなくて、私への攻撃の手段にするのだ。
(来る!)
トップスピードで向かってくる先生を、足から打ち出す魔力を大目にして間一髪で避けた。
だが、当然そこで攻撃の手を緩めてくれる人ではない。
(来た!炎系攻撃魔法!!)
すぐさま刻みたての炎系反魔法を発動して魔法陣を破壊してやった。
「はっやるじゃねぇか!」
ニヤリ顔が見れた。
こちらも思わずニヤリと笑った。
そうしてまた思いっきり打ち合う。
魔力を推進力にするのは、もう少し慣れる必要があるけれど、できるようになったのはやっぱり大きい。
それで結局、この日も魔力も体力も使い切って、気を失って終了した。




