表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/274

伝わっている想い



屋敷を首尾よく抜け出し、ローズは幌の中で変装を始めた。

市井で手に入れた粗末な服に着替え、髪色を変える特殊なクリームを髪になじませる。

これはジークに貰った物だ。

若い女性と言うだけで、危険な場合もあるので大きめのフードも入っている。

体格ですぐバレるとは思うけれど。

ものの数分で変装を終えた彼女は幌の窓から外を眺めた。

今日の目的は王都南部の視察である。

ここは少し治安が悪いらしい。



*****


王妃教育が始まってから、おじいちゃん先生に色々教えて貰う中で、衝撃を受けた事は一度や二度ではない。

一番の衝撃はやはり戦争の可能性が高い事だったけれど、それと同じくらい衝撃だったのは、貴族の義務について学んだ時かもしれない。


それまでも、両親から貴族の義務について色々と聞いてはいたけれど、何と言うか私の中で現実と繋がっていなかったのだ。

初めて点と点が繋がったような、そんな感じだった。


いくら平民と仲良くなっても、必ずしっかり線引きがあって、私は貴族として、ミルカやカール達は平民として役割を持っている。

今割と自由に出歩けているのは、私が貴族とは言え、何の責任も持っていない子供だからに過ぎない。

私の行いは全て監督者である両親の責任だからだ。


私は平民の暮らしぶりを良く知っている。

沢山ミルカにくっついて色々な事を体験したけれど、その度に自覚するのは自分の軟弱さだ。

平民たちが当たり前のように出来る事が、私にはいつも上手くできなかった。

貴族として傅かれる生活を送ってきた私は、水汲みや繕い物は上手に出来ない。

それは当たり前の事なのだけれど、なぜ私が傅かれてきたのか、それをよく考えもせず暮らしてきた。


それは貴族の義務を生まれながらに背負っているからだ。


ずっと冒険者になりたいと思っていた。

いつかなれると信じていた。


けれど、その道はその義務を放棄する事に他ならない。

ミルカ達はまだ子供だけれど、もう社会の歯車の中に入り、自分の出来る仕事を精一杯している。

私は時々それを真似して遊んでいるだけに過ぎない。

ミルカにくっついて仕事をしている時、私役立たずだな、なんて思ったことは一度や二度ではない。

けれども一度懐に入れた人間を平民は簡単に放り出したりしない。

出来るようになるまで、ちゃんと面倒をみてくれるのだ。

それはミルカ達だけに限らない。

その場にいる平民皆が面倒をみてくれるのだ。

ただ平民の真似事をして、いい気になっている自分にさえ。




「お嬢、着きましたよ。ここからどこに向かうんですか?」

「そのままぐるり周辺を回ってくれる?なるべくのんびりね。」

「下りないんですか?」

「この区域の教会で下りるつもりよ。西の方に小さな教会があるの。

ぐるり回ったらそこへ行ってくれる?」


私はいつか王妃になるらしい。


長い歴史の中で、賢君と呼ばれた王の伴侶は大抵優秀な女性だった。

この国の教会に、必ず孤児院が併設されているのも昔の王妃の尽力の賜物だ。

冒険者で身を立てる人間は大勢いるけれど、大半の冒険者が自分の生活で手一杯の暮らしをしている。

冒険者でなくともカツカツの生活をしている者は少なくない。

だからこそ子供が出来ても、育てられないからと捨てる親は後を絶たない。

捨てられた子が犯罪者によって、犯罪者に育てあげられる。

そんな図式が当たり前にあった。

それを変えたのがその制度だ。

教会から巣立った子供は教会の為に働くことで、次の世代を支えていく。



冒険者になりたかった。

でもなれないのなら、せめてミルカ達が暮らしやすいように、何か変えられる事があるなら変えていきたいと思った。

その為にも、見ておきたいと思ったのだ。

見ておかなければならないと思うのだ。

この国の問題を。

自由に動ける今のうちに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ