SS. ストーカー王子
私はローズが王妃教育の為に登城すると聞いて、さっさと公務を終わらせ、一緒にお茶をしようと張り切っていた。
今日は政治と経済の授業で、図書室の奥の部屋を使うと聞いている。
そろそろ終了予定の時間になり、図書室に向かう。
けれど、今日は気を付けなければ。
クリスティアーネ嬢がいる。
どうにか彼女に見つからずに、ローズだけをお茶に誘いたい。
図書室からの入り口が見え、姿を隠せる場所を探し息を潜ませてその時が来るのを待つ。
自分の護衛も勿論同じように影に徹してもらう。
護衛が自分に対してどう思うかなど、この際どうでもいい。
(来た!)
先にクリスティアーネ嬢が出て来て、直ぐ後にローズが出てきた。
(よしよし、そのまま差が開いてくれれば声が掛けやすい。)
だが、直ぐにローズの様子がおかしい事に気が付いた。
(落ち込んでいるのか?いや、顔が真っ青だ。どちらかといえば悪い知らせを聞いたような…)
このまま声を掛けていいものかどうか、物凄く迷った。
俯き、真っ青な顔で歩いている彼女は当然歩みが遅いので、十分クリスティアーネ嬢と差が開いている。
静かに追いかければ彼女だけに声を掛ける事ももう可能だろう。
(だが…)
結局私はさっきの授業で何があったのか、教師に聞くことを選んだ。
原因はすぐに分かった。
隣国とテラマグナの戦争の確率がかなり高い事を知ってしまったようだ。
暫く、そっとして置いた方が良いだろう。
兄妹仲がとても良いと聞いている。
王族に対し、良い感情は持てないはずだ。
この日は諦めた。
次の日。
今日は護身術と聞いている。
本来、王妃教育に護身術は必要ない。
護衛のいない状態などありえないからだ。
王太子の婚約者は、その婚約者という立場に危険がくっついている状態だ。
つまり婚約者でなくなれば、危険がなくなると言うことだ。
婚約者という立場を狙われるだけなので、自然と敵は限定される。
婚約者になった時点で王家の影と護衛が彼女を守ってはいるが、婚約者では王妃と比べると警護のランクはかなり落ちる。
それでも、限定された敵ならば何の不足もない程度には守られている。
だが、彼女は違う。
彼女自身に価値がある。
今は王族と彼女の家族しか知らないが、古代魔法に精通している事が、万が一外に漏れると、どれだけの人間に狙われるか想像もつかない。
それだけではなく、私との婚約がたった2回の面会で成立しているのを、誰が流したのか魔力が高いせいだと広まってしまったのだ。
婚約の本当の理由は、私が彼女を気に入ったからだが、彼女の魔力量は実際かなり多いのだ。
魔力が多く釣り合う令嬢のいない貴族令息にとって彼女は垂涎モノの相手なのだ。
自衛できるに越したことはない。
そのため王妃の鶴の一声で、護身術の授業が彼女の王妃教育に加わった。
今日こそ、疲れた体を私とのお茶で癒してあげよう。そうしよう。
そろそろ時間かな?とパルスの訓練場へ行くと、ドドドドドォンと物凄い爆音が聞こえた。
後ろの護衛と顔を見合わせ、慌てて走って向かうと、ドーム内を埋め尽くすほどの数の巨大な氷塊が床に突き刺さっている。
「何だこれは?!」
慌てていると、ローズを横抱きにしたパルスの団長が出口に向かって歩いてくるのが見えた。
「何があった?!」
慌てて駆け付けローズを見ると、すやすやと眠っている。
「ああ、訓練で力を使い切っちまって寝てるんですよ。怪我は擦り傷一つつけてませんぜ。ま、このお嬢は面白れぇ。この先訓練を続けるなら、骨折までは許して欲しいもんですねぇ殿下。」
「さ、流石に骨折はまずいだろう…。その辺は陛下に聞いてくれ。それより、私が彼女を連れて行きたい。」
彼女を受け取ろうと手を出したが、団長ははっと笑った。
「殿下がもうちょっと体力をつけてくれたら渡しましたけどね、今の殿下にゃ渡せませんぜ。折角傷一つつけず訓練を終わらせたのに、殿下に付けられちゃ困るんでね。」
そう言って颯爽と通り過ぎて行った。
私だって頑張ればいけなくはないはずだが、団長のあの危なげもない安定した運びを見たら、強く出る事が出来なかった。
悔しい。
めちゃくちゃ悔しい。
結局今日もお茶は出来なかった。
2日開いて次の王妃教育の日。
今日は母上とマナーについての授業と聞いている。
おまけにクリスティアーネ嬢とは先生が別だと聞いている。
母上と一緒なら、きっとお茶会のようなものだろう。
よし、混ぜてもらおう。
そう思って、母に許可を求めると、遊びではないのよ!と、めちゃくちゃ怒られた。
仕方ない。
終了を待って、お茶に誘おう。
今日も今日とて公務を速攻で終わらせ、いそいそと母上の部屋へ向かった。
丁度終わってローズが出てくるところだった。
「やあローズ、お疲れ様。私も今公務が終わったところなんだ。よかったら、一緒にお茶をしないかい?美味しい紅茶とお菓子があるんだ。」
「お疲れ様です、ジーク。ごめんなさい。さっき王妃様に紅茶とお菓子をたくさんいただいたから、もう入らないわ。」
そう言って颯爽と帰って行った。
やっぱり単なるお茶会だったに違いない。
さらに翌日。
頑張って速攻で公務を終わらせ、今日こそは!と誘いに行くと、急ぎ過ぎてクリスティアーネ嬢に見つかってしまった。
今誘えば確実に彼女も強引にくっついてくるだろう。
例えローズがいようと、彼女のいるお茶会なんて御免だ。
泣く泣く諦めた。
とぼとぼ自分の部屋に帰っていると、護衛が遠慮がちに声を掛けてきた。
「殿下、もう手紙でお茶会にお誘いしては?」
最初、自分もそれをしようと思ったが、できれば偶然を装いたかった。
だって手紙は、届けた日から3日は開けた日付で誘うのがマナーだから。
ほぼ日参で登城している彼女を手紙で誘うのは、もったいないじゃないか。
偶然ならほぼ毎日お茶に誘えるはずだったのに…。
だがこのままではいつまでたっても彼女とお茶が出来ない…。
私は敗北感を感じながら、手紙で彼女をお茶に誘った。
3日後、やっと彼女とお茶が出来た。
とても楽しかった。




