戦闘狂爆誕!
王妃教育が始まって2日目。
私は今、髪をアップにし動きやすい服装に着替え、パルスの訓練場に来ている。
訓練場は、大きなドーム型の建物が花の形の様に5つ、真ん中の休憩所でつながれて並んでいて、上空から見ればまさしく花形をしているはずだ。
そのドームの一つに立ち、護身術を学ぶための先生を待っている。
王妃教育の一環に、護身術が含まれると言うのは聞いたことがない。
そもそも王妃が戦わなくてはならなくなった時点で敗北と同義、と騎士が言っていたのを聞いたことがあるのだけど。
けれど、王妃様にするように言われた以上私に選択肢はないのである。
因みに王妃様は全く戦えないと聞いている。
解せぬ。
そんなことを考えつつ、ぼーっと待っていたら。
「…待たせたようだな。」
「え?!…い、いえ。」
(え、いつ来たの?)
急に目の前に現れたようにしか見えなかった。
(瞬間移動?!そんな魔法聞いたことないけど!!)
「それでは始めようか。」
ニヤリと笑ったその顔は、物凄く凶悪で、王国の騎士のはずなのに犯罪者にしか見えない。
(こ、こわっ!!!え、この人が先生なの?)
「よ、よろしくお願いします…。」
ローズマリーは顔が引きつったまま挨拶をした。
「まずは、基礎体力だな。取りあえず足が立たなくなるまで走れ。」
(は?)
え、最初は自己紹介じゃ…なんてローズマリーが珍しくまともな事を考えている隙に襟首を掴まれ
た。
「おらおらおらおら!!早く走れ!!!」
そのまま無理やり引っ張られた。
当然引きずられる。
「きゃああああ」
慌てて足を動かして、スピードについて行く。
そうしなければ、引きずられてしまうのだ。
一生懸命走り始めたら襟首は放してくれたけれど、少しでもスピードが遅くなると檄が飛んでくる。真後ろを走っているので、圧も凄い。
あの凶悪な顔で更にドスの効いた声で怒鳴られると、反射的に体が逃げようと走ってしまう。
さながら追いかけっこである。
(なになになんなのよも―――っ!!死ぃーぬぅ―――っ!!)
訳も分からずただがむしゃらに走った。
だがちょっとお転婆といえど貴族令嬢として傅かれる生活を送ってきた人間にさほどの体力があるわけもなく、直ぐに「も、無理…」と倒れ込んだ。
だがそれで終わりではなかった。
なんと、そうやって倒れ込むたびに水をぶっかけられて無理やり立たされ引きずられて、再び走らされたのだ。
先生は立たせる度に、毎回あの極悪非道のニヤリ顔である。
そんなことを間違いなく20回は繰り返した。
ありえない。
貴族の令嬢にする仕打ちではないと思うの。
しかもそれで終わらなかったのだ。
「はぁーはぁー…はぁー…」
(…もう本当に無理。指一本動かせない。)
もう無理と言う声すら出す元気はない。
「よし!じゃあ次は魔法を発動する練習だ!」
(は?)
「いつも万全の状態で魔法が発動できると思うな!極限の時こそ魔法訓練の時だ!では、炎の魔法はできるな。詠唱を繰り返せ。イシュザイン…」
(だから声も出ないんだって!)
だから詠唱ではなく刺青で発動させることにした。
もう半ばやけくそで、思いっきり魔力を込めて天井一杯に炎を出してやった。
ゴオォォォ――
「ほぉ?その歳で刺青か。なかなか見込みがあるじゃねぇか。」
またあの凶悪ニヤリである。
もうなんか癖になりそう。
「じゃ、次は好きな魔法でいいぜ。攻撃系のでかいのかませよ。」
それを聞いたら、何だかおかしくて自然と笑いがこみ上げてきた。
「…ふ、ふふ、ははは」
もう疲れすぎてテンションが若干壊れているのである。
そして、見てろよ!とばかりにありったけの魔力を刺青の一つにたたきつける。
指は一本も動かす元気はないが、体内の魔力は元気である!
特大の攻撃魔法、氷属性の巨大なつららを自分の周囲からドーム一杯に雨のごとく降らせた。
ドドドドドドドォーン
先生は、倒れ込んだ私の傍にしゃがみ顔を覗き込んだ。
そうして額のあたりにばしっと手を置き前髪をくしゃりと乱した。
「はっはっは!やるじゃねぇか!気に入ったぜ!!」
凶悪顔の、満面の笑みを見た。
間違いなく子供は泣く。
ああでもなんか…
…癖になりそう。
「…ふ、ふふ、…あー…疲れた…。」
それきり、記憶がない。




