おじいちゃん先生
「取りあえずお主らがどのくらい知識を持っとるか分からんのでは授業にもならんので、まずはこの簡単なテストをしてもらおう。」
おじいちゃん先生がそう言って、私たちの前に問題用紙を置いた。
(これが満点なら自由時間獲得かしら。間違えるわけにはいかないわ!)
気合を入れて解き始めた。
問題は全て教科書の抜粋だった為、悩むことなく解くことが出来た。
全て書き終え用紙を提出すると、隣の令嬢も終わったようで用紙を差し出した。
その時なぜかキッと睨まれた。
私たち二人の解答用紙をチェックした先生が大きく頷いた。
「これは僥倖。二人とも教科書の内容を教える必要はなさそうじゃの。」
(やった!自由時間だわ!)
と、内心喜んでいたら、先生が良い笑顔で言った。
「では二人に尋ねよう。現在大国テラマグナがフィノイスにちょっかいをかけておるのは知っとるかの?」
「ええもちろんですわ。」
隣の令嬢が答え、私も頷いた。
それが原因でお兄様が婿入りしたのだから当然である。
「ではもしも、お主たちがフィノイスの王様じゃったら、どういった対策を取る?」
考えたこともないなぁと思いつつそれでも言われた様に想像してみた。
隣の令嬢はちょっと考え、直ぐに答えた。
「テラマグナは国力も大きく戦争になれば負けてしまうのでしょう?あの国は穀倉地帯が少ないから侵略戦争を繰り返すのですわ。だったら食糧支援だとか、関税を下げたりする事で、フィノイスが友好な姿勢を見せればいいのではなくて?後はメラニー王女をテラマグナの王族に嫁がせるとか、色々できますわね。」
得意げに胸を張って答えていた。
(…そうかしら。そのくらいの方法でどうにかなるものならばフィノイスの王族だってしているはずだわ。侵略戦争で負けた国だって、その方法を取った国がなかったとは思えない。)
「なるほど。では、そちらの令嬢はどうお考えですかな?」
「…やはり、国境を警戒するのが最も有効なのでしょうね。国力に差がありすぎるのですもの。行ったことはないけれど、恐らく王都周辺は比べものにならない程発展しているのでしょう?テラマグナ産の魔道具は恐ろしく高性能ですもの。使われている素材も、魔法式も。」
「まあ、その程度の解答だなんて、情けない事。」
物凄く馬鹿にしたように、クリスティアーナさんが言った。
「ふむ。ではローズマリー嬢はクリスティアーナ嬢の意見について、どう思いますかな?」
おじいちゃん先生が面白がっている様な顔をして聞いてきた。
「あれだけ大きな国が必要とする食料を一国がどうにかするなんて無理だと思うわ。
それに少しの利益をもらうより、侵略して多くを奪う方を選ぶ国なのだと思うの。本にはテラマグナの王族は負けた国の王族の令嬢を何人も後宮に入れている、とか侵略した国の貴族にそのままその土地の統治をさせているとか書いてあったわ。王族は敗戦と同時に殺されているけれど、植民地の様なものでしょう?食糧支援を受けるより植民地にした方が利益は大きいわ。それにそれだけ大きな後宮を持っていて、メラニー王女を欲しがるかしら?交渉するには弱いと思うの。
…本当に欲しがっている物は何かしら。」
そう言うとおじいちゃん先生はほっほっほと大きな声で笑った。
「なるほどなるほど。お主は食糧や王女が欲しい訳ではないと思うのじゃな?」
「ええ。だって穀倉地帯が欲しいなら、南側に侵略するはず。」
「あらご存じないのかしら。うふふ南のソルモリスは軍事国ですのよ?戦争をしかければテラマグナだってただでは済まないわ。」
さらに馬鹿にしたようにクリスティアーナさんが笑っている。ちょっとイラっとしてきた。
「南と言ってもソルモリスではなくて、小国ハーフェンの方ですよ。
ハーフェンには何の旨味もないでしょうが、そこを落とせばその先にあるのはトラルーエ、ケンブルク、ラルズールも入るでしょうか。そのあたりは特産品が農作物で占められていて、フィノイスと変わらぬ程度の国力と規模の国。この本を読んでいると、なぜ北側に侵略していったのか分からなかったのです。フィノイスにちょっかいを掛けている部族だって、冬は大地が雪に覆われる為家にこもって内職で暮らし、短い夏に狩りをしている民族でしょう?そんな土地を侵略して、テラマグナは何をしたかったのかしら。」
「人を馬鹿にしたように!食料を欲しがらない国なんてあるわけないじゃない!ちゃんと読んだの?どう考えたって穀倉地帯が少な過ぎるじゃない。」
こっちを馬鹿にしたのは棚に上げるらしい。
「確かに穀倉地帯は大国の割に少なすぎて、これでは困窮している者もいるでしょうね。侵略した国から色々なものを搾り取っているから、王都周辺は問題ないのでしょうけれど。困窮しているのは戦争で手に入れた土地の民だけなのではないかしら。でもそれを問題だとは思っていないんだわ。」
「なかなか鋭いの。では何が目的じゃと思う?」
おじいちゃん先生はなぜかとてもご機嫌である。
「この本にあったテラマグナの交易品は殆どが木材や魔鉱石などの農業以外の第一次産業と少しの二次産業だったけど…。北側に侵略しているのは…まさか魔鉱石?」
魔鉱石は総じて北部で取れる。というか、あの場所から何か採れるとしたら魔鉱石くらいだろう。もっともその民族は採っていないから、産出場所の特定からになるだろうけれど、採れる可能性は高いと思う。
「何言ってるの?魔鉱石をこんなに輸出してるのに、たいしたお金にはなってないじゃないの。そんなもの欲しがるわけないじゃない。それに、旧グーベルクは魔鉱石なんて一つも産出していないのに。」
再び馬鹿にしたようにクスッと笑う。
いつのまにか、クリスティアーネさんは教科書のテラマグナ交易品のページを開いている。
用意だけは早いわねと、妙に感心してしまった。
そこには魔鉱石の輸出量と輸出金額も記されている。
魔鉱石は輸出量こそ多いが、金額だけで見ると、木材や製糸業の方が多い。
「違うわ。…多すぎるわ。そうよ、多すぎるのよ!目的の純度じゃないいらないクズ魔鉱石を輸出してるんだわ!…ああ、そういう事なのね。あれだけ魔法技術が進んだ魔道具を開発できる国の交易品が第一次産業だったから、すごく違和感があったの。交易品の魔道具の比率は極僅かしかないけれど、多分純度の高い魔鉱石を必要とする魔道具でかつ輸出はしない物を作ってるんだわ。
何かしら…?
あ、…魔導兵器…。
なんだ、やっぱり国境を警備するしか方法がないじゃない。相手は戦争をする気満々なんだから。」
ぱちぱちと手を叩く音が響いた。
「流石じゃ。さすが王妃様に目をかけられるだけあるの。」
おじいちゃん先生が大喜びしているのが分かった。
ついでに隣から凄まじい怨念のような殺気を感じる。
しかし私はそれどころではなかった。
これが真実なら…ルイスお兄様が!
…このことをお父様が知らないはずがないわ。
だから、ああだから。
あんなに幸せそうなお兄様とお姉様を見ても、ずっと厳しい顔をしていたんだわ。
首脳陣は戦争必至と思っています。
若い世代にも危機感を持ってほしいおじいちゃん先生。




