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残念な子。2



夕方フィルスマイアー公爵が帰宅し、挨拶を済ませたらすぐに晩餐の時間になった。

延々とお説教を聞かされた私は、既にもう燃え尽きているが。


因みにフィルスマイアー公爵夫人は10年程前に亡くなっていて、後妻も迎えていない。

子に男子がいない公爵は後妻を取るようにずっと言われていたようだ。

けれど先代公爵もお元気で、なにより夫人をとても愛していたので断り続けたらしい。

しかしタチアナお姉様がお年頃を迎えれば、自然と公爵の後妻の座ではなく、タチアナお姉様の婿の座に注目は集まる。

公爵ならば無理に後妻になろうと画策する者にもすぐに対応して報復する事すら可能だったが、まだ若いタチアナお姉様が強引な男性や粉を掛けてくる男性をうまく捌くなどできるはずもなく、ルイスお兄様と婚約する前は自分の身を守るだけで精一杯だったようだ。

今でも、お兄様を蹴落とそうとしたりお姉様にちょっかいをかけようとすることがたびたび起こるそうで、大人たちは何だか難しい話をしていたけれど、私には関係ないのでひたすらもぐもぐと口を動かしていた。


ふと、視線を感じ顔を上げると、お姉様が微笑ましいものを見る顔でこちらを見ていた。


「うふふ、お料理はお口に合いまして?」

「はい。とっても美味しいです!」


話しかけてくれたのが嬉しくて、元気いっぱい返事をした。


「わたくしね、ルイス様にあなたの事をお聞きした時から、ずっと会ってみたかったの。」


にっこりほほ笑んだお姉様に含むところはなさそうだが、この時点でもう嫌な予感しかしない。


「お兄様、私の何を話したのですか?」


ほんのちょっと威圧を込めてお兄様を見た。


「会いたくなるような良い事しか言っていないに決まってるだろう?」


とお兄様が嘘くさい笑顔で言った。もう不信感しかない。


「ルイスお兄様から、私の褒め言葉を聞いたことがありません。」


ジト目で言うと、思わぬ所から兄の援護射撃が飛んできた。


「褒められるようなことをしているのかしら?」


さっきまで私に説教していたお母様である。

うっと言葉に詰まっていると、なんとお姉様が私の援護をしてくれた。


「こんなに可愛らしい方ですもの、きっと皆心配なのですわ。どんなお話も愛情に溢れていましたもの。」


にこにこと微笑むお姉様は、確かにお兄様の言う通り陽だまりのような人だと思った。

「どんなお話も」の所にかなりひっかかりを覚えるが。


「そう言えば、ローズも王太子殿下と婚約したんだって?」


お兄様があからさまに話題を変えてきた。

ますます怪しい。

話題が話題なだけに難しい話をしていたお父様たちもこちらに向いている。

くそう、話が戻せない!

しかも話題の内容が明らかにお兄様の嫌がらせくさい!


「おお、そうでしたな!こちらにも先日情報が入って気になっておったのです。」


公爵様がそう言って話に加わった。


「一回打診を断ったのに、また打診を受けたなんて、よっぽど気に入られたの?」


お兄様が不思議そうな顔で聞いてきた。


「なんと!それは真ですか?」


流石に一度打診を断った話は隣国には届かないので、素直に驚いている。

多分王家からの打診を断ることはこちらの国でも珍しいだろう。


「ええまあ、6歳の時に王太子殿下主催のお茶会の後に打診があったのですが、このようなお転婆な娘なので辞退させて頂いたのです。」


お父様が苦笑しながら説明している。


「そんなにお転婆には見えませんが…、少しぐらい元気があった方が良いでしょうし、年頃になれば自然とお淑やかになっていきますよ。うちのタチアナだって子供の頃はそれはお転婆で…」


公爵とお父様でだんだん話が勝手に盛り上がっていっているので放置して、ルイスお兄様がぼそっとまたお茶会か何かで会って気に入られたのか聞いてきた。


「いいえ、王妃様とのお茶会の後は一度も。婚約してからは何度か会いましたけれど。」


「え、じゃあ最初の2回だけで再打診?」


「私が一番なぜそうなったのかよく分かっていないので、お母様に聞いて下さい。」


そう言うと、お兄様は呆れた顔をして、お母様を見た。


「本人が分かっていないのに、分かるわけがないでしょ?でもまあ間違いなく殿下は物凄くローズを気に入っている様子でしたよ。それになぜか王妃様にも凄く気に入られていて、王妃教育を早くと。マナーに関しては家庭教師ではなくて王妃様が直接なさるそうよ。」


「え、お母様初耳です。」


「婚約式で言っていましてよ。王妃様ご自身が。まさかあなた聞いていなかったのかしら?」


般若が…般若が見える!


「そ、そ、そうでしたね。い、今思い出しました。」


聞いたような気がする、うん、私聞いてた!全然覚えてないけど!


「そうか…、やっぱりローズはローズだね。」


お兄様の呟きに、両親もそろって神妙な顔でうなずき合っていた。

タチアナお姉様はそれを見てころころと笑っていた。


(あの様子を見るに、やっぱりお兄様から私に関するろくでもない話を聞いているんだわ!)


「それで、ローズは殿下をどう思っているの?」


お兄様のその質問に再びお父様たちの視線を感じる。


(どう?どうって…、どう思うか、ねぇ…)


暫く腕を組んで顎に手を当て、婚約者になってから何度かあった殿下とのお茶会を思い出してみた。

脳裏に美味しいお茶を淹れるメイドのマルタと、王城の菓子専門の料理人が作るキラキラした美味しいお菓子を勧める殿下が浮かぶ。


「お茶とお菓子がとっても美味しいのですよ!殿下は良い人だと思います!」


なぜか全員が残念な者を見る目になった。



ルイスお兄様は好きな子にいたずらしちゃうタイプ。

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