アルトゥールの恋心
「誕生日おめでとう、ローズ」
そう言って、数日前からせっせと用意していたお手製の魔道具を手渡した。
今日は彼女の8歳の誕生パーティーだ。
見慣れない豪華なドレス姿の彼女が、招待客と一通り挨拶を済ませ一人になった瞬間を狙って話しかけた。
「ありがとう、アル。開けてもいいかしら?」
頷くと、喜んで彼女はリボンをほどいた。
プレゼントを見ると予想通り彼女は目を輝かせ、即座に刻まれた魔法陣に目を走らせる。
そして予想通り「ん?」と言う顔をした。
「発動させてごらんよ。」
そういうと、彼女は嬉しそうな顔をして魔力を流した。
柔らかい光が彼女の周りを球形に囲んだ。
きっと中の彼女には花弁がひらひらと舞い落ちる映像が見え、同時に陽だまりの中にいるような暖かさも感じているはずだ。
「凄いわ、アル!投影の魔法を一切使っていないのに!現代魔法とも連携がきちんと取れてる。こんな方法もあるのね。」
実はこういった魔道具は別に真新しい物でもなんでもない。
むしろ従来品より性能が低いかもしれない。
中の人にしか花弁が見えないのだから。
従来品ならば周りの人間にも花弁や仕込まれている映像が見える。
これを凄いと言ってくれるのは、彼女しかいないだろう。
「凄いだろ?こないだ見つけた古代魔法のサンプルでいろいろ試したんだけど、古代魔法の幻影の魔法とうまく連携できたんだ。その花弁は君にしか見えていないよ。」
「本当?!凄い発見じゃない、アル!」
そんな会話をしていると、彼女の父である公爵がローズを呼びに来た。
どうやら、少し遅れて招待客の一人が到着したようだ。
しかし、迎えに行くほどの招待客って…。
不思議に思いつつ、二人の背中を見送るとすぐに入口のあたりが騒がしくなった。
人だかりの隙間から騒がれている人物を見た途端腰を抜かすかと思った。
国王陛下が来ていたのだ。王太子殿下を連れて。
その意味に、気付かなかった招待客はいないだろう。
殿下だけなら、仲の良い令嬢令息や高位貴族の誕生パーティーに出席することはあるが、陛下が一緒なら話は別だ。
婚約発表をするんだ。
そう思った瞬間、なぜかつきりと胸が痛くなった。
妙にドクドクと心臓が嫌な音を立てている。意味もなく叫びたくなった。
息が苦しい。
遠くの方で声がする。公爵様と国王陛下の声、それに殿下の声も。
そこかしこで祝福の声も聞こえる。
まるで膜がはっているかのように聞こえにくく、酷く現実味がない。
その後、どうやって帰ったのか記憶にない。
ふと気づくと僕は自室のベッドの上に蹲っていた。
そして頬に流れる物に気付いて初めて、彼女への恋心を自覚したのだ。
もう遅すぎたけれど。
一緒に居ることが当たり前過ぎて、自覚がなかったのです。




