逃げられない親子
8歳のお誕生日は女の子にとって特別である。
貴族の結婚は魔力を受け継ぐ意味合いが強いため、その多くが政略結婚であり、早いと女性は8歳から遅くとも13歳頃までには婚約し、15歳で成人とみなされ結婚するのが普通だ。
特に女性で8歳前後に婚約するのは、その子の魔力が強いことの証なのだ。
魔力差がない方が望ましいが、単純に自分より上の魔力を持つ女性と子を成せば、少なくとも自分と同じか、より魔力の高い子が出来るからだ。
赤ちゃんは女性側の魔力量の方が影響が大きい。
それに魔力を使うことが少ない貴族令嬢は、貴族男性に比べ魔力の伸びもそうないので、魔力差は結婚するまでには小さくなっていることがほとんどだ。
男性の場合、進路によっては魔力が成長することがある上、優秀なら出世によって婚期が変わってくるため、年齢はあまり重視されない。
そのため貴族は10歳前後の年齢差はよくある事だ。
そして8歳はお披露目の年でもある。
どんなに可愛がって屋敷から出さない子供でも、8歳の誕生日は盛大なパーティーを開き、お披露目をするのが一般的なのである。
そしてこのお披露目の時に婚約者を発表するのは、割と当たり前に行われている。
だからもちろん、半年後に8歳の誕生日を迎えるローズマリーには恐ろしい程の釣書が送られて来ていた。
魔力的に大人気なので。
知らないって恐ろしい。
その山と積まれた釣書を前に、頭を抱えているのはもちろん父ブラントミュラー公爵である。
「ローズを知らない方からの釣書は分かるのですけれど、なぜ王太子はうちの子を気に入ったのかしら。ストラとして囲い込むのならばまだ分かるのですけれど。」
そう言って首をかしげるのは、母の公爵夫人である。
「全くだ。何をどこから聞いても割と失礼なことしか言ってないのにどうしてローズなんだ。」
そうなのだ。一度お断りしているのにもかかわらず、再び婚約の打診があったのだ。
「王家は一体何人うちの子を取ったら気が済むんだ!」
「不敬ですよあなた。ルイスは…本当なら喜ぶべきなんでしょうけれど…。」
「誰が戦地に行かせるために成された婚約を喜ぶんだ!冗談じゃない!…まあローズの方は、陛下は全く関与していないがな…。」
この婚約の打診は王家とはなっているが、実際押しているのは王妃なのである。
「王太子本人が乗り気と言うのも、不思議だわ。二人はあまり直接話していないのでしょう?」
「そう聞いたんだがなぁ。」
「ローズの暴走を知っていて、それでも良いと言って下さっているなら、一考の価値があるのではなくて?」
「だが、その先にあるのは王太子妃だぞ?」
「正直不安しかありませんけれど、婚約者になれば王妃教育が始まりますでしょう?我が家で家庭教師と何とかするより、何とかなる気がしないでもありません…。」
「何とかなるのか?あれが…。」
「では、貴方はこの打診をお断りして、他の令息と婚約させるのですか?ルイスの手前王家は反対しないでしょうが、感情は別ですわ。どれだけあの子を気に入っているのか分かりませんし、王妃様も良い気はしないでしょう。」
「…分かっているさ。受けるしかないってことは。しかし、寂しいもんだな…。ローズまで行くのは。」
本当の所はそれが本音なのかもしれない。
可愛い自分の娘が取られるのは、父親にとってやっぱり寂しいことだろう。
「まだまだ先ですよ、あなた。」
しょうがない人と言う顔をして、夫人は微笑んだ。




